98 / 104
二章
やっと到着
しおりを挟むちょっとしたアクシデントはあったけど、私達は予定通りに宿を発った。
夜中にちょっと起きちゃったけど、よく寝たからシロも元気いっぱいだ。
「――シロ、もうすぐシーベルト国に入るぞ」
「お~!」
カラカラと音を立てて馬車が国境の川を跨ぐ橋を走る。
大きな橋だから、窓から外を見ても下を流れる川は見えない。残念。でも橋を渡る前にちらっと見えた川はとても綺麗だった、ぜひ入りに行きたい。
お水があったら吸い込まれるように近付いて行っちゃうのは子どもの性だよね。
「シロおいで」
「は~い」
パパのお膝の上に座るとお腹に腕を回される。
「もうすぐ検問所だから一旦大人しくしてような。と言っても俺達は素通りできるはずだが……」
パパがそう言った瞬間、「止まれ!」という男の人が聞こえてきた。明らかに私達の一団に対してだ。思わずシラッとした目をパパに向けてしまう。
「フラグだったねパパ」
「フラグだったなシロ」
パパが外に視線を向けて小さく舌打ちをしたのをシロは聞き逃さなかったよ。ついでに「だからこの国には来たくなかったんだ」って呟いたのも。
パパを見上げていた顔を戻すと、殿下が後ろに黒いモノを背負った笑顔になっていた。うわぁ。
馬車の外では何やら言い争う声が聞こえてくる。どうやら検問所の人が馬車の中を検めようとしているらしい。仮にも他国の王族が乗っているこの馬車を。
うん、普通に失礼だよね? こっちは目立たないように来てるわけだし。しかも事前に話は通してたんだし。
外から聞こえてくる上から目線の物言いにムカムカしてきちゃう。
アニ達が出て行って対応しようとしたみたいだけど向いてないと判断されて騎士さん達に止められたようだ。賢明な判断だね。みんな口よりも手を出す方が得意だもん。
すると、パパがスッと窓から顔を覗かせた。そして検問所の人にある紙を見せる。
「これはそちらの王族から届いた招待状の一部だ。ここに検問所での検閲は受けなくていいと書いてあるが、見えないか?」
「ヒッ、あ、いえ、見えます」
「そうか、それはよかった」
男の人を一睨みするとパパは窓を閉じ、ついでにカーテンもしっかりと閉める。
隙間なくカーテンを閉じ終わった瞬間、外から「と、通っていいぞ!」という声が聞こえてきた。
それに私の思考とパパの声がシンクロする。
「いや一言くらい謝れよ」
「うんうん」
まったくだよ。絶対に向こうの伝達ミスが原因なのに。
まだ判断するのは早いけど、これはシーベルト国の国民性なのかな……? だとしたら殿下がぼろくそに言うのも納得できる気がする……。
「……パパ、シロは気が重くなってきました」
「奇遇だな。パパもだ」
「奇遇だね、ボクは出発前からずっと気が重いよ」
はぁ……。
私達の溜息が重なった。
それから大通りを道なりに馬車で走り、暫くすると王城が見えてくる。
「うわぁ……」
馬車の窓から王城を見た瞬間、私は思わず声を漏らしてしまった。
「金ぴかだな」
「あそこまでくると逆に趣味が悪いねぇ」
王城はほとんどの部分が金色でできていた。さすがにメッキだろうけど、ギラギラとしているそれは品がいいというよりザ・成金という印象を受ける。
お城を見上げてシロは呟く。
「……もしかして、シロ達とんでもない場所に来ちゃった……?」
「かもなぁ……」
種々の変人、奇人をまとめ上げるパパが同意するってことはこの国、相当かもしれない。
――シロ、なんかやんなってきちゃったな~……。
現実から目を逸らすように、私はパパの膝の上で丸くなった。
「わぁかわいい」
「シロだけが癒しだな」
********************
Twitter始めました!
@yukino_yukinoda
37
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。