天才になるはずだった幼女は最強パパに溺愛される

雪野ゆきの

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二章

準備するよ!

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 隊舎うちでしっかりと休んだ殿下はスッキリとした顔で帰って行った。うん、よかったよかった。
 殿下の元気がないとなんか調子狂っちゃうもんね。
 
 にしても、あの殿下をあそこまで疲れさせるシーベルト国ってどんなのだったんだろう。怖いもの見たさでちょっとだけ興味あるな。絶対関わりたくはないけど。
 そんなことを考えながら、私はパパのお腹の上で丸くなった。




***




 次の日、殿下はツヤツヤとした笑顔で隊舎を訪れ、私達の前に何かの書類を見せてきた。

「これなに~?」

 パパに抱っこされていない私の視点からは書類の内容は見えない。ただ、パパがうげって表情になったからよくない内容が書かれてるんだと思う。

「これは勅命だ。ボクと一緒にシーベルト国に行ってもらうよ」

 いい笑顔で殿下が言い放った。

「パパ、シロこの紙破ろうか?」
「いや、さすがにこの紙を破るのはまずいぞシロ。それだけで罪に問われちゃうからな」

 パパがダメだぞ、と言うように私を片腕に乗せる。

「なんと」

 危ない危ない。パパの返答があとちょっと遅かったら殿下から書類を奪って破いちゃってるところだった。
 慌てて手を引込めてパパの首に回す。

「なんでそんなに俺達を連れて行きたいんだよ。警護なら他の部隊で十分だし、いつもはそうしてるだろ?」

 パパが首を傾げて殿下に尋ねる。

「シーベルト国で我が国と向こうの騎士の代表で公開試合を行うことになっているんだ」
「なるほど、そこで徹底的に叩き潰したいということか」
「理解が早くて助かる」

 殿下、相当イラついたんだね……。
 普段はお仕事に私情は持ち込まない人なのに。逆にどうやったら殿下をここまで怒らせられるのか知りたいくらいだよ。

「――あと、今回ボクと一緒に対応にあたった近衛部隊が精神的にかなり疲弊してしまってな。それで今度は向こうの国に連れて行くというのは、さすがのボクも可哀想に思ってしまってな」
「殿下にも人の心があったんだな」
「うんうん、その図太さがあれば大丈夫だ」

 そういう返しができる殿下も大分図太いよね。

「出発は一週間後だから、それまでに荷造りをしておいてくれ」
「はぁ、仕方ないな」

 溜息を吐きつつも、引き受けることにしたらしい。いや、引き受けざるを得ないのか。

「じゃあボクはこの後も仕事があるからもう戻るよ。昨日シロに癒されたおかげで元気になったし」

 よしよしと私の頭を撫でて殿下は隊舎を後にした。

「……殿下が元気ないと調子狂うが、元気になってもあんまりいいことないな」
「殿下はちょっと疲れてるくらいが丁度いいのかもしれないね」
「だな」

 そんなことを話しながら殿下の後ろ姿を見送った。




「そういえば、シロは国外に出るのは初めてか?」
「あ、そうかも」

 まだ他の国には行ったことない気がする。

「シロの初国外旅行ならもっといい国に行きたいな~。シーベルト国にあまり期待は持てないし。先にどこか行っておけばよかったな」
「シロは気にしないよ。また今度連れてってね」
「おう」

 任せとけ、とパパがニカッと笑った。





 そして、そこからは怒涛の日々だった。

「なんで向こうの国の言葉覚えないといけないのぉ~?」

 そう言ってシリルが机に突っ伏す。
 そう、長年鎖国していたシーベルト国は使っている言葉も独自のものだから、出発する一週間後までにシーベルト語を覚えておけって言われたのだ。
 一週間で新しい言葉を覚えろってかなり無茶だよね。詰め込み学習にもほどがあるよ。
 勉強が好きじゃないらしいシリルは早速音を上げた。

「一応通訳もいるんでしょ?」
「だが自分で聞き取って話せた方がいいだろ? 通訳は殿下につきっきりになるだろうし。それに、何があるか分からないからな」

 パパがシリルを諭す。そんなパパはもう既に簡単な言葉でなら話せるようだ。
 まだ勉強し始めてから丸一日くらいだけど、とんだスピードラーニングだね。


 それから一週間みっちり勉強して、私達はなんとかシーベルト語をマスターした。











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