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二章

荷造り、そして出発

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 パパが上から私を覗き込んでくる。下から見ても相変わらず完璧な美形さんだ。みんなの詰め込み学習に付き合ってたから、この一週間はいつもよりも睡眠時間が短かったはずなのにそんな疲れなんて微塵も感じられない。

「し~ろ、どうしてそんな所にいるんだ?」
「ここ、落ち着く」

 私が納まっているのは、シーベルト国に持っていく荷物を入れるバッグの中だ。手足を丸めるとすっぽり納まってなかなかいい感じの大きさ。
 バッグの横に置いてあるタオルをパパが摘まむ。

「あ~あ~、せっかく詰めたもんも全部出しちまって。このいたずらっ子め」

 つんっと長い人差し指でおでこをつつかれる。
 口では注意してるけど、その表情は全然怒ってない。むしろデロ甘。娘に対しては心が大海原並に広いから、シロが元気で何よりだなぁくらいにしか思ってないと思う。今も、もうちょっといたいかどうか聞いてきてるし。うんって言ったらもうちょっといさせてくれるんだろう。

「あと三分したら出る」
「そうか。じゃあパパは三分間かわいいシロを眺めてようかな」

 そう言って床に胡坐をかき、すっぽりとバッグに納まる私を見てくるパパ。
 う~ん、こうもガン見されると逆に居心地が悪い。
 私はむくりと起き上がった。

「あれ? もう出ちゃうのか?」
「うん」

 子供は気まぐれなのだ。
 でもシロはおりこうな子供なので出した荷物はちゃんと自分で戻すよ。
 床に正座し、追い出しちゃった荷物を元の場所に戻してあげる。

「お、ちゃんと自分で片付けられてシロはえらいなぁ。天才だ」
「ふふん」

 絶対褒められるべきことじゃないのは分かってるけど、パパに褒められると嬉しくなっちゃう。



 そして、全部の荷物を元通りに詰め込み、チャックを閉めた。

「よし!」
「よくできたな。あと一時間で出発だし、シロもそろそろお着替えしような~」
「は~い」

 私が荷物を詰め込んでいる間にパパは着替え終わっていた。髪の毛のセットもばっちりだ。
 今回は特殊部隊の一員として行くので、私も隊服に着替える。
 袖を通し、ボタンを留め終わるとパパに椅子に座らされた。

「せっかくのお出かけだし、髪の毛可愛くしようか」
「うん!」

 パパはシュルシュルを私の髪の毛を編み込んでいく。そして青色のリボンで髪を結べば、あっという間に編み込みハーフアップが完成した。
 器用だね。

「どうだ?」
「かわいい!!」

 顔の角度を変えて目の前の鏡を覗き込む。パパすごい。すごくきれいに編み込まれてる。
 テンションが一気に上がった。

「みんなに見せたい!」
「おう、一緒に見せに行こうな」

 パパは片手で荷物を抱えると、もう一方の手で私と手を繋ぎ、部屋を出た。



「――あ! シロちゃんおはよう!! いつも可愛いけど今日は一段とかわいいねぇ」
「おはようアニ」

 私の姿を認めた瞬間、アニは小走りで寄ってきて私を高い高いした。

「その髪型隊長にやってもらったの?」
「うん! かわいいでしょ」
「世界一かわいいよおおおお!!!」

 デロデロに蕩けるような笑みを浮かべるアニ。相変わらずだね。

「隊長、このままシロちゃん抱っこして行ってもいいですか?」
「いいぞ」

 パパに許可を得ると、アニは嬉々として私を片腕に座らせた。

「あんまり評判の良くない国だから正直テンション下がってたんだけど、シロちゃんのおかげで気分が上向きになったよ」
「よかったね」

 噂とかに疎そうなアニにまで悪評が届いてるんだ。……相当うちの国での態度悪かったんだね。
 一気にテンションが上がったアニとは反対に、私は若干テンションが下がった。
 私の気分が落ち込んだことに気付いたのか、パパが優しく声を掛けてくる。

「シロ、お前のことは俺達が守るから余計な心配はしなくていい。シロはちょっとした旅行のつもりでいろ。あまりにイラついたら実力行使もやむを得ないと殿下から言われてるし」
「うんうん、シロちゃんに害をもたらす人は俺達が全部蹴散らすからね」
「……ほどほどにね?」

 保護者親バカ達があまりにも外敵排除に乗り気なのでちょっと不安になる。
 おっきな問題を起こさないように私が窘めないと……!

 何事もなく帰っこられるように頑張ろう! と、私は改めて自分を鼓舞した。

















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