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二章
わんこの扱いって難しいね
しおりを挟む寒さのピークも超え、ようやく外は暖かくなってきた。
「エンペラーお散歩いくよ~!」
「ガウッ!」
シロがエンペラーを呼ぶと、エンペラーは尻尾を振りながらシロのもとに駆け寄ってきた。
「今日は久々にちょっと遠くまでお散歩に行こうか」
「ガウッ!」
シロの提案に、エンペラーはさらに大きく尻尾を振った。
「……わん…………」
「え?」
どこからか棒読みの鳴き声が聞こえ、シロは鳴き声のした方へ顔を向けた。
「……わん……」
「クロ……?」
無表情でひたすら犬の鳴き声を繰り返すクロの意図が分からずシロは首を傾げる。
「ついにワンコの自覚が芽生えたのか」
「クロがワンッて鳴いてもなんの違和感もないな」
アニとエルヴィスがクロを眺めて好き勝手なことを言う。
「クロもお散歩行きたいの?」
「……ん……」
クロがコクリと頷き、シロにリードを差し出した。
「え、これをシロにどうしろと?」
「……さんぽ、だから……」
「クロに付けろってこと? というかエンペラーにもリードは付けてないけど」
エンペラーはお利口な狼なのでリードを付ける必要がないのだ。
「クロ、ついに俺と同じ趣味に目覚めたんですか?」
「……ち、がう…………」
爛々と目を輝かせて寄ってきたエスをクロは押しのける。表情の乏しいクロには珍しく、本当に嫌そうな顔をしていた。
「クロがこうなったのはシロが悪いんだぞ~?」
「なんで? パパ」
「シロは最近湯たんぽ代わりにエンペラーと一緒に寝てただろ? それでクロが嫉妬したんだ」
確かにあのバレンタイン以来、シロはたまにエンペラーをベッドに入れて寝ていた。それを妬んだクロが今回の行動に出たのだ。
実際エンペラーがシロと一緒に寝た日はクロもベッドに潜り込んで一緒に寝ていたのだが、クロだってシロに一緒に寝ようと言われたかったのだ。
「シロのワンコは二匹いるんだから平等に接してあげないとダメだろ。片方を優遇すると片方が嫉妬する」
「そうだね。クロごめんね」
シロはクロに抱き着いた。本当は抱き締めようとしたのだが、身長が足りなかった。
「てか誰もクロが匹で数えられてることを突っ込まないんだな……」
「今さらそんなこと気にするの兄さんだけだよ」
微妙な顔をするエルヴィスをアニがケタケタ笑った。
「そうだ、お前はあの戦いに参加しないのか? アニなら嬉々として参加するかと思ったんだが」
「え? 俺はシロちゃんのワンコになりたいわけじゃないし。それに、さすがの俺でもあの二匹のワンコ力には勝てないよ」
「ワンコ力ってなんだよ」
エルヴィスには理解のできない次元の話だった。
「じゃあクロも一緒にお散歩行こう。リードはいらないよ」
「……ん……」
シロはクロから受け取ったリードをその辺にポイっと放り出し、クロと手を繋いだ。
シロと手を繋いだクロは心なしか嬉しそうな雰囲気を醸し出す。
「おお、クロが嬉しそうだ」
「クロ構ってもらえてよかったねぇ」
「ん……」
シリルの言葉にクロが素直に頷く。
「――じゃあお散歩いってきまーす」
「「いってらっしゃ~い」」
シロはエンペラーとクロ、そしてブレイクと一緒に散歩に出かけた。
その後、反省したシロが心持ちクロに優しくしたことで、今度はエンペラーが嫉妬の炎を燃やすことになるのだった。
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