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二章
みんなにチョコをプレゼント!!
しおりを挟む「殿下~」
シロはラッピングしたチョコレートを持って殿下のもとへと駆け寄った。出資者へのお礼は大事だ。
殿下はしゃがみ、走ってきたシロを抱きとめる。
「はい殿下。はっぴーばれんたいん」
「ありがとうシロ。あーんして食べさせてくれないか?」
「いいよ」
シロはバリバリっとラッピングを剥がすと、ハート型のチョコを一つ手にとって殿下の口に放り込んだ。
「殿下おいし?」
「うん、おいしいぞ」
「えへへ」
殿下に頭を撫でられてシロはへにゃりと微笑む。
「ウイリアムとセバスもどーぞ」
シロは殿下の後にいた二人にそれぞれチョコレートを差し出した。
「え? ちゃんシロ俺らにもくれるの?」
「うん」
「ありがと~」
「ありがたくいただこう」
「どういたしまして~。三倍のお返し待ってるね」
「「え」」
シロはそう言うとブレイクを連れて次の人の所へと行ってしまった。
「……ちょっとした詐欺に遭った気分だな」
「そっすね」
「そういうイベントなんだよ。シロの手作りチョコがもらえただけでもありがたく思うんだな」
微妙な顔をする二人ににべもなく殿下が言い放った。
「あ! イオく~ん、ジロー!」
「どうしたのしぃちゃん。なんだか大荷物だね」
「持とうか?」
「ううん、大丈夫。今日はばれんたいんでーだから二人にシロの手作りチョコあげるね」
「ありがたく受け取るように」
シロの後に続いてブレイクが偉そうに言い放つ。
シロは無事二人にチョコを渡し終えたので次の人達のもとへと向かった。
シロとブレイクが訓練場に行くと、ちょうどアニ、エルヴィス、シリル、そしてクロがいる。シロは四人を見つけるとたったったっと走りだす。
そんなシロに最も早く気付いたのはもちろんアニだった。
「―――あれ? どうしたのシロちゃん。今日もかわいいね」
「うん、シロは今日もかわいい。今日はばれんたいんでーだからみんなにチョコを配りに来たの」
「ばれんたいんでー?」
「殿下が新しく始めたイベントだ」
アニの疑問にブレイクが答えた。
「へー。チョコを配るイベントなんですか?」
「そうだ」
「ちがうよパパ。好きな人にチョコをあげるイベントだよ」
「ぐはっ……!」
シロの言葉に、アニがチョコレートも食べていないのに鼻血を噴いて胸を押さえた。エルヴィスはサッとハンカチでアニの鼻をつまむ。兄は弟の奇行に慣れたものだ。
「シロ僕達のこと好き?」
「うんすき!」
「……おれも、しろすき…………」
「えへへ」
シリルとクロが両側からシロをむぎゅ~っと抱きしめる。
「あ! 二人ともずるい!」
「アニは鼻血出してるからシロに近付いちゃだめ~」
「……だめ……」
「理不尽!!」
憤慨したことでアニはさらに鼻血を出す。
「はいみんなあげる~」
シロはアニの奇行も気に留めず、にこにことチョコレートを配った。
エルヴィスがシロの頭を撫でる。
「ありがとなシロ」
「うん!」
そしてシロは他の人にもあげるからと、ブレイクと手を繋いで他の場所へ行った。「一か月後に三倍返しだよ~」と言い残して。
二人がいなくなったあと、チョコレートを宝物のごとく抱きしめたアニはポツリと呟く。
「たったの三倍返しでシロちゃんの手作りチョコレートが食べられるなんて。ここは天国? 俺ってばシリルの爆破に巻き込まれてもう死んだのかな」
「お望みならいつでも爆弾の的にしてあげるよ」
「あ、謹んでご遠慮申し上げます。俺にはシロちゃんのチョコレート食べるっていう天職が見つかったので」
「その天職多分年一しかできないけどね。てかアニのそんな丁寧な口調初めて聞いたよ」
鳥肌立っちゃった、とシリルは袖を捲って見せた。
***
それからシロはおっさんや他の隊員、シルキーを引き取ってくれたおじいちゃんとおばあちゃんにチョコレートを渡していった。
そして、いまだにチョコレートがもらえず拗ねている狼さんが一匹。
「ガゥゥ……」
エンペラーは床にペシャンと寝ころび、拗ねに拗ねていた。
自分と同類だと思っていたクロですらチョコレートをもらったのに自分はまだもらえていないのだ。エンペラーは不満でしかなかった。
そんなエンペラーにシロがてててっと駆けつけてきた。エンペラーは一瞬自分もチョコレートがもらえるのかと期待をしたが、シロは手ぶらだった。
「クゥーン」
「ん? エンペラーチョコほしかったの?」
「ガウ!」
もちろんだ。エンペラーだってシロのことは大好きなのだから。
「でもエンペラーにはチョコあげられないの」
「クゥーン」
「わんこにはチョコあげちゃいけないんだって。エンペラーは変異種だからわかんないけど一応あげないでおくね。シロ、エンペラーが死んじゃったら嫌だから」
そう言ってシロはエンペラーに抱き着く。
「だからねぇ、エンペラーにはチョコの代わりにシロとパパと一緒に寝られる券をプレゼントするよ!」
「ガウ?」
「エンペラー一緒に寝ようね~」
シロはエンペラーの頬に自分の頬をスリスリした。
「え~! エンペラーいいな~!」
アニが大変羨ましそうにエンペラーを見る。だがアニは意地でもシロの手作りチョコレートは手放す気がない。
エンペラーは先程とは打って変わり、とても幸せそうな表情でシロのスリスリを受け入れていた。
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