上 下
68 / 104
二章

れっつバレンタイン!

しおりを挟む
「ばれんたいん?」

 シロは殿下に聞き返した。

「そう。女の子が好きな人にチョコレートをあげる日らしいよ。うちの国でもやろうと思って」
「ふーん。でもシロの負担大きくない? シロ好きな人いっぱいよ?」
「でもその代わりにバレンタインの一か月後にはホワイトデーというバレンタインであげたものが三倍になって返ってくるイベントがあるらしいぞ」

 その殿下の言葉にシロの目の色が変わった。チョコレートが積まれて山になっている映像がシロの脳裏に浮かぶ。

「にゃんて素敵なイベント……。シロ! ばれんたいんやる!!」

 シロは右手で拳を作って頭上に掲げた。
 目指せお返しである。



***




「ということでパパ、チョコを作るんだよ」
「パパと一緒に作るのか?」
「うん!」

 シロは大きく頷いて殿下が持ってきた真っ白いフリフリエプロンを身に付けた。

「お、かわいい。殿下ナイスだな。シロ、その場で回ってみてくれるか?」
「うん」

 ヒュンヒュンヒュンッ!

 シロはその場で三回転ジャンプを披露した。
 シュタッと着地したシロはブレイクを見上げる。

「どう?」
「うん、ちょっと思ってたのとは違ったけどかわいかったぞ」
「えへへ」

 ブレイクとしてはフリルの付いたエプロンがふわりと広がるところが見たかったのだが、三回転ジャンプを決めてドヤ顔をする娘はもっと愛らしかったのである。
 ブレイクはシロを抱き上げると頬にキスを贈った。

「でも手作りは結構大変だぞ? 市販にしないか?」
「ううん。殿下がばれんたいんは手作りチョコを贈るものだって言ってた」
「それ多分殿下の私情だと思うけどな」

 だがブレイクも我が子の手作りチョコは食べたいので異論はなかった。

 早速父娘は調理室に向かった。シロがサプライズにしたいと言うので他の隊員は立ち入り禁止だ。そしてまだバレンタインという行事も伝えていない。

「―――シロ、これはなんだ……?」
「カカオ豆」

 調理台の上には、シロが殿下に頼んで取り寄せてもらった大量のカカオ豆が置いてあった。

「手作りって……カカオ豆から作るのか?」
「手作りってそういうものじゃないの?」
「売ってるチョコレートを溶かして形を変えたりする人がほとんどなんじゃないか?」
「そんなの手作りとは言わないよ」
「全世界の女子を敵に回したな。流石俺の娘だ」
「えへへ」

 よく分からないが褒められたのでシロはご満悦だ。

「じゃあさっそくはじめましょ~!」
「ああ」

 シロはチョコレートの作り方(カカオから)が書かれた本を開いた。

「まずはカカオ豆をフライパンで焙煎するんだって」
「分かった。火を使うのは危ないからここはパパがやるぞ」
「うん! パパありがと~!」

 ブレイクは大量にあるカカオ豆をどんどん焙煎していった。

「はいシロ。次はこの皮を剥くんだったな?」
「うん!」

 上手く焙煎された皮はパリッと心地よい音を立てて簡単に剥けた。剥くこと自体は簡単だが、かなりの量があるカカオ豆を二人は地道に剥いていく。



「―――やっと剥き終わった~!」
「なぁパパめんどくさくなってきちゃったんだけどもうこれで完成ってことにしないか?」
「シロもちょっと思ったけど却下。物事は中途半端が一番よくないんだよパパ」
「俺の娘は賢いな」

 娘に諭され、仕方なくブレイクはチョコレート作りを続行することにした。
 次は皮を剥いたカカオ豆をすり鉢ですりつぶす作業だ。
 初めて見るすり鉢に下がりかけていたシロのテンションが上がる。

「なにこれ!!」
「この棒で剥いたカカオ豆を粉々にしていくんだ。シロできるか?」
「うん! 力仕事は得意だよ!」

 シロはブレイクから麺棒を受け取ると、向いたカカオ豆の入ったすり鉢に向けて振り下ろした。さながら正月の餅つきのように。

 ダァァァァァァンッ!

 シロが麺棒を振り下ろした衝撃で中に入っていたカカオ豆が器の外に飛び散る。

「……シロ?」
「パパ、カカオ豆が家出してった。すり鉢難しいね」
「……そうだな」

 ブレイクはその後、シロに優しくすり鉢の使い方をレクチャーした。


 トロトロになったカカオに砂糖を入れて味を整えていく。

 ドサッ

 シロが一気に大量の砂糖を投入した。続けて横にあったもう一袋も投入する。

 ドサッ

「……入れ過ぎじゃないか?」
「シロ、チョコは甘いのが好き」
「そうか」

 ブレイクは、まあ失敗しても自分含めて皆喜んで食べるしな、と考え直し。シロの好きにさせることにした。
 
 後はチョコレートを殿下が用意した型に注ぎ、冷蔵庫で固めれば完成だ。もちろん型はハートの形のものだ。



 十分後、固まったチョコレートをシロはトレーの上に取り出す。そしてそのうちの一つを手に取ってブレイクの口の前に差し出した。

「はい、パパあーん」
「あーん」
「どう? どう?」

 シロは期待を込めた目でブレイクを見つめる。
 ブレイクは早く感想を言ってやりたかったが、シロの手作りチョコを噛み砕くという選択肢は存在しないため溶けるまで舌の上で転がす。

「……うまい」
「!!」

 ブレイクの思わずといった一言に、シロの顔がぱぁっと笑顔になる。

「えへへ、シロも一個食べちゃお~」
「今度はパパが食べさせてやろう。ほらシロあーん」
「あーん」

 シロも片側の頬を膨らませてチョコレートを味わう。シロにもパパと一緒に作ったチョコを噛み砕くという選択肢はないのだ。


(うちの子は天才かもしれない……いや、天才だな)

 料理の才能まで発露させたシロにブレイクの親バカはさらに加速するのだった。
 ……例えシロの料理が下手でも同じ結果になったのだが。






しおりを挟む
感想 355

あなたにおすすめの小説

生贄令嬢は怠惰に生きる~小動物好き竜王陛下に日々愛でられてます~

雪野ゆきの
恋愛
叔父一家に虐げられていた少女リアはついに竜王陛下への生贄として差し出されてしまう。どんな酷い扱いをされるかと思えば、体が小さかったことが幸いして竜王陛下からは小動物のように溺愛される。そして生贄として差し出されたはずが、リアにとっては怠惰で幸福な日々が始まった―――。 感想、誤字脱字報告、エール等ありがとうございます! 【書籍化しました!】 お祝いコメントありがとうございます!

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。 その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。 その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。 さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。 様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。 ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。 そして、旅立ちの日。 母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。 まだ六歳という幼さで。 ※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。  上記サイト以外では連載しておりません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。