前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

文字の大きさ
36 / 49

父さまは母さまを喜ばせたいようです

しおりを挟む



「ミィ、ちょっといいか」
「はいです」
 コウ君とカードゲームで遊んでいると、なにやらコッソリ現れた父さまに声を掛けられた。

「父さまどうしたんです?」
「今日の仕事はもう終わってな。あとオルトが明日も休みにしてくれた」
 オルトとはこの国の宰相さんです。
 それにしても、まだ昼食が終わって一時間くらいしか経ってないのに。お仕事が終わるにしては随分早いですね。
「……あ、もしかして母さまが帰ってきてるからソワソワしてたんです?」
「……!」
 図星みたいです。
 父さまは何も、母さまに怯えてソワソワしてるわけじゃないんです。むしろその逆で母さまに構ってもらいたくて、構いたくて落ち着かないんですよ。意外とラブラブな両親なのです。
 オルトさんもそれが分かってるから生温かい目で父さまに休みをあげたんでしょうね……。

「じゃあなんですぐグロリアさんに会いに行かないんだ?」
「間男に言われるまでもなくそうしたいが……」
「俺の呼び方間男に定着しちゃったんだ」
 コウ君が父さまに突っ込む。

「グロリアに何か贈り物をしようと思ってな。ミィはまだ赤子だが女子だ。女性はなにをもらったら喜ぶのか教えてもらおうと思ってな」
「ミィはもう赤ちゃんじゃないのです」
 むぅ。

「贈り物もいいけど、せっかく帰ってきてるんだから一緒に過ごせばいいいのに」
「やかましいぞ間男」
「ミィもそう思うのです」
「やっぱりミィもそう思うか」
「清々しい程の依怙贔屓だな」
 納得のいかなそうな目でコウ君が父さまを見ますが、父さまはスルーです。
「じゃあ明日はグロリアを誘って街に出かけてくる……」
「デートですね父さま!」
「う……うむ……」
 父さまは少し頬を染めて頷きました。モフ丸とはまた違ったかわいさがあるのです!

「じゃあデートの終わりに母さまになにか贈りましょ~!」
「そうだな」

 カードは片付けて、父さまとコウ君と、母さまへのプレゼントを話し合うことにしました。

「やっぱり身に付けられるものがいいだろうな」
「その心は?」
「ミィは分かってないな。愛する旦那からのプレゼントだぞ?実用的な物とか消えものよりはアクセサリーとかがいいだろ」
「ふむ」
 コウ君のアドバイスを、父さまが真剣に頷きながら聞いてます。

「例えばコウ君だったらどんなものを贈るんですか?」
「ふぇ!?……そ、そうだな、俺だったらネックレスとか髪飾りとかかな……指輪とかはまだ早いし……ま、まあ、ミィにやるとは言ってねぇけど!?」
「なるほど、ミィにくれる予定なんですか」
「清々しい程ツンデレだなお前」
「そんな目で見んな!」
 コウ君は真っ赤な顔であわあわしてます。ついに真っ白な羽で体全体をすっぽり覆ってしまいました。
 そんな使い方もできるんですね。うらやましいのです。

 おっと、繭になっちゃったコウ君は置いといて、今は父さまです。
「母さまだったらイヤリングとかどうですか?」
「イヤリングか……いいな。グロリアはいつもイヤリングを着けてるしな。どういうデザインのがいいと思う?」
「それは父さまが決めるべきなのです!ほら!今日のうちに買いにいってください!!」
 私は父さまを立たせ、背中を押して部屋から追い出します。

「だ、だが、グロリアが好まないデザインを選んでしまったら……」
「母さまは父さまが選んでくれたらなんでも嬉しいですよ!あ、他の女の人に聞いたりしないで自分で選ぶんですよ!」
「分かった」
「よし、です!」

 父さまは覚悟を決めた顔をして目の前から消えた。おそらく転移でイヤリングのお店に向かったんでしょう。
 健闘を祈るのです、父さま!
 私は敬礼をして父さまを送り出しました。もう既にいないんですけどね。

「でもミィいいのか?」
「なにがです?」
「せっかくグロリアさんが帰ってきたのに、ミィだってお母さんに構ってもらいたいだろ?」
 コウ君が心配げな瞳でミィを覗き込んでくる。
 ……そうでした、コウ君は前世でもこうやって細かいことを気遣ってくれる子でしたね。

「いいのです。明日だけは母さまには父さまを、父さまには母さまを貸し出してあげるのです!」
「そうか」
「はい!」
 優しい目をしたコウ君に頭を撫でられる。

「じ、じゃあ、しょうがないから、明日は俺が遊んでやらないこともないぞ?」
「お願いしますなのです!」

 明日は相変わらず素直じゃないコウ君と遊んであげましょう。



***



 デートから帰ってきた母さまのお耳には、青色に輝くイヤリングが付いていた。
 うまくいったんですね!父さま!
 父さまとアイコンタクトをとると、軽く微笑んで頷いてくれた。父さまも母さまも楽しめたようでよかったのです!

「ミィおいで」
「はいです!」
 父さまに呼ばれたのでテコテコ歩いていく。すると、父さまに抱き上げられた。

「ミィ、今日は父様と母様と寝ましょう」
「いいんですか!?」
 嬉しいのです!

「もちろんよ。母さまに甘えて頂戴?」
 父さまの肩越しにコウ君と目が合った。わたしと目が合うと、コウ君はニッと笑う。
 ……もしかして、コウ君が父さまと母さまになにか言ってくれたんでしょうか……。
 口パクでコウ君にありがとうと言うと、コウ君は軽く微笑んで頷いてくれる。



 その日は父さまと母さまの二人に挟まれて寝ました。

 二人とも、ミィのほっぺにおやすみのちゅーをしてくれました。でも、お互いにはしないから「二人はおやすみのちゅーしないのですか?」って聞いたら父さまも母さまも赤くなってました。







しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

処理中です...