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母さま襲来なのです!
しおりを挟む朝食の場で、父さまが重々しく口を開いた。
「―――皆、一週間後にグロリアが帰ってくる」
「母さまが帰って来るのですか!?」
わたしは喜びで思わず前のめりに立ち上がってしまいました。すると、父さまと目が合います。
おっと、お行儀が悪いですね。戻ります戻ります。
ミィは大人しく席に着きました。
兄さま達が随分静かですね。食器の音一つしません。
見て見ると、三人の兄さまは瞬きもせず固まってました。その表情はどこか暗くて、顔は俯き気味なのです。
「……?兄さま達はどうしてそんなに嬉しそうじゃないんです?めったに会えない母さまですよ?」
「ミィの無邪気さが眩しいよ。ミィは赤ちゃんだからママに会えたらそりゃ嬉しいよね」
「ミィはもう赤ちゃんじゃないのです」
リーフェ兄さまの様子がおかしいです。
というか、みんなの様子がおかしいです。
パリィィン!!!
「!?」
突然、窓が割れて黒い影が飛び込んできた。
父さまの目がスンッと光を失う。
あまりのスピードに影のように見えていたものは、ちゃんと人型でした。真っ赤なドレスの女の人は、自分に降りかかったガラスの破片を払いながら妖艶に笑う。
「久しぶりね、私の子ども達。あと旦那様?」
「かあさま!!」
ミィは嬉しくなって母さまに駆け寄りました。
母さまは一瞬でガラスを元の状態に戻すと、ムギュッとミィを抱きとめてくれます。
にゅふ、母さまの匂いなのです。
「うふふ、ミィはいつまで経っても赤ちゃんみたいねぇ」
「ミィはもう赤ちゃんじゃないのです」
母さまに引っ付いてる状態じゃ説得力ないですけど。
「さてみんな?私がいない間にたるんでないでしょうね?」
母さまの声音がガラリと変わりました。
その瞬間、ミィは母さまが「仕事の鬼」と呼ばれていることを思い出した。
「ミィ?あなたはまだ子どもだけれど、子どもの仕事はきちんと勉強することよ。もちろんサボってなんかいないわよね?」
「え~っとぉ~……」
どうしましょう、サボりまくりなのです。
母さまから目を逸らすと、母さまの視線が兄さま達に向いた。
「あなた達も、仕事中ミィにかまけたりしてないでしょうね?」
「「「……」」」
兄さま達、何も言えません。
母さまは兄さま達をグルリと見た後、ハァと息を吐きました。
「教育し直しかしら……」
恐ろしい呟きが聞こえましたよ。
「ぐ、グロリア、お前が帰ってくるのは一週間後と言ってなかったか?」
「ええ。でもとある方がうるさくて早く帰ることにしたの」
母さまはそう言うとわたしの方を見てくる。
「?」
どうしたの? と首を傾げたけど、母さまは無言で目を逸らした。
「まあ、抜き打ちで来られたからいいとしましょう」
「抜き打ち……」
父さまが母さまの言葉を復唱する。
「ええ。どうせならあなた達の普段の姿を見たいと思って。私が来た時の真面目を演じた姿じゃなくて」
……父さま達、今までの全部バレてますよ。母さまが来るたびに執務室にあるミィのおもちゃとか隠して真面目にお仕事してましたもんね。ミィも母さまがいる期間は遠慮してお仕事を邪魔しに行きませんでした。
「じゃあ朝食を食べたらさっそくあなた達の仕事を……」
見に行くと言おうとした所で父さまが口を挟んだ。
「そ、その前に、新しい家族を紹介しよう」
「あら。ミィ、あなたまたなにか拾ってきたの?」
「えへへ、なのです」
そういえば母さまはまだモフ丸に会ったことがありませんでした。
わたしは既にごはんを食べ終わったらしいモフ丸に後ろから抱き着く。
「母さま、新しい家族のモフ丸なのです! モフ丸はこう見えても神獣さんなんですよ!」
「まあ、可愛らしい」
「こう見えてもとはなんだこう見えてもとは」
モフ丸のもの言いたげな視線はスルーです。
「はいどうぞ」
母さまにモフ丸を差し出すと、母さまは難なくモフ丸を抱き上げていた。
「ふふっ、可愛いわ。でもミィ、私が帰ってくる度に家族が増えていたらちょっとびっくりしちゃうわ。前は気付いたら息子が増えていたし」
そう言って母さまはリーフェ兄さまに視線を向ける。
「まあ、旦那様の隠し子が発見されるよりはいいのだけれど」
「ゴホッ!?」
あ、父さまが動揺して咳き込みました。
「……我は浮気などしておらぬぞ」
「もちろん分かっておりますわ。こんな可愛い子ども達がいて浮気するような男と私は結婚しませんもの」
「う、うむ……」
父さま、照れて少し俯いちゃってます。なんか母さまの方が男らしいですね。
「まあいいわ。今日は貴方達の仕事を見に行くのは勘弁してあげる」
母さまのその言葉に、兄さま達が一斉に胸をなでおろしました。
「ミィ」
「はい?」
モフ丸と一緒に母さまに抱き上げられる。
「久々に小さな娘に会えたんですもの。今日はミィと遊ぶことにするわ。夜も母さまの部屋で一緒に寝ましょうね」
「はいです!」
母さまと遊べるのは嬉しいのです!
そして今日も合法的にお勉強をおサボりすることができそうです。にゅふふ。
「あ、もちろんお勉強の時間もとるわよ。母様と一緒にお勉強しましょうね?」
「……はいです」
今ミィの心読みましたか?
***
わたしの前には山のように積まれた紙袋。
「……えっと、」
「ついついミィに似合いそうな洋服をたくさん買ってきちゃったの。さっそく着てみて母様に見せて頂戴」
「……」
これ全部です?
紙袋はミィの身長よりも高く積まれてます。
そうでした、母さまが帰ってきた時にはこれが恒例なんでした。
これ全部着るのは疲れそうだなぁとは思いつつも、目を爛々と輝かせている母さまには逆らえません。
「……分かったのです」
ミィは覚悟を決めました。
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