31 / 49
ミィ、出張にいくのです
しおりを挟む
みなさん、お忘れではないですか?
ミィは一応お姫さまなのです。一国のお姫さまなのです。
そう、ミィにも一応ちゃんとしたお仕事はあるのです。
とはいえ、ミィはまだ立派な子ども。健やかに育つことが一番のお仕事なので兄さまや父さまみたいに書類仕事はしません。リーフェ兄さまのお仕事はたまに手伝いますがそれもごく簡単なものです。
ミィの主な仕事は慰問なのです。それも本当に深刻なものとかは父さま達がするんですけどね。ミィがするのは慰問という名の顔出しです。
「ミィ、準備はできたか?」
「はいです。ハンカチもティッシュもモフ丸も持ちました!」
「そうか。モフ丸だけは手放すなよ」
「はいです!」
「おい、我は持ち物ではない」
クワッと眉間にシワを寄せるモフ丸にはジャーキーを与えておきます。
今日はセイレーンのところに慰問という名の顔出しにいくのです。つまり海に向かうので、水着もばっちりリュックの中に入ってます。
セイレーンとは、上半身が人間の女の人で、下半身が魚の姿をしている種族なのです。いろんな意味でピッチピチです。
あとセイレーンのみんなはとってもお歌が上手なのです。
今日の同伴者はイルフェ兄さまです。
「じゃあいってきますなのです!」
「ああ。いってらっしゃい」
父さま達に見送られて、わたし達はセイレーンの里に転移で飛んだ。
「まぁ、いらっしゃいませイルフェ様、ミィ様!おひさしぶりですわねぇ」
「おひさしぶりなのですセリシーさん!」
わたし達を出迎えてくれたのはセイレーンの族長、セリシーさんなのです。青くてサラサラの長い髪を持った美人さんです。もちろん下半身は髪と同じ青い鱗をした魚の姿になっている。
興奮したセリシーさんにムギュッと抱きしめられました。お胸の間にミィの顔が埋まってるのです。
そして、セリシーさんの視線がモフ丸に向いた。
「あら?そちらのお狐様はどなたです?」
「モフ丸なのです!モフ丸はミィのおじいちゃんみたいなペットですよ!」
「かわいらしいお狐様ですわねぇ」
「はいなのです!」
褒められましたよ!と、モフ丸の方を見ると、美人さんに褒められて嬉しかったのかデレデレしてる毛玉がいました。
モフ丸もオスですね。
「セイレーンのみんなはお元気です?」
ミィがそう聞くと、セリシーさんはちょっと暗い表情になりました。
「……どうしたんです?」
「ん~、ちょっとみんな元気ではないんですの」
セリシーさんは困ったように片手を頬に当てて言った。
***
わたし達は海のすぐ近くにあるセイレーンの洞窟にやってきました。セイレーンの洞窟はアリの巣みたいになっていて全容は分からないのですが、入り口から入ってすぐの広い空間の中心には海水が流れ込んでいて湖みたいになってます。
「ど、どうしたんですか……これ」
ミィの目の前には、怪我をした十数人程のセイレーンが病人用の白いベッドに寝かされている。
ちなみに、セイレーンは魔法で浮くことができるので陸でも普通に生活できるのです。そして下半身の魚部分には保護魔法をかけてるのでベッドにも寝られます。
「うふふ、ここにいるのはみんな吸血鬼の乗っている船にちょっかいかけようとしたらそのまま轢かれた者達ですのぉ」
セリシーさんがおっとりと言いました。船に轢かれたって、やばやばじゃないんです?
「最近の船は頑丈なんですのねぇ。一昔前の船なら轢かれても掠り傷一つなかったのですが」
「ほんとに頑丈ですね」
セイレーンが。
吸血鬼族とセイレーン族の仲が悪いのは、魔界では有名な話なのです。
「あら?ミィ様!」
ベッドに寝ていたセイレーンの一人がミィに気付いた。すると、そこにいたみんなの目が一斉にミィに集まる。
「きゃ~!ミィ様!」
「ミィ様大きくなりました?……いえ、変わりませんわね」
「ミィ様抱っこさせてくださいな!」
ミィ、大人気なのです。ちょっと照れちゃいます。
「ほらミィ、ヘマした女どもに可愛がってもらってこい」
イルフェ兄さまはわたしをヒョイっと抱き上げると、一番近くにいたセイレーンのお姉さんに渡した。そのお姉さんはイルフェ兄さまの言葉にちょっと不服そうな顔をする。
「ヘマしたのは事実ですけれど、イルフェ様ってば意地が悪いですわ」
「あぁ?お前らの傷を治すために最愛の妹を貸してやるんだ。この上なく優しいだろ。文句があんなら妹返せ」
「イルフェ様ってばとってもお優しい」
お姉さんはコロリと意見を変えて微笑んだ。
「ほれ、モフ丸もいってこい」
「む」
イルフェ兄さまはモフ丸も同じように抱き上げると、近くにいた他のお姉さんに手渡した。
「まあモフモフ!海の生物のツルツル感もいいですけど、毛のある生物もいいですわね」
モフ丸はお気に召したようなのです。
セイレーンのお姉さんのお膝に座らされ、後ろから両手を繋がれるとミィの癒しの手の力でお姉さんの傷が治っていきます。
数十秒程でお姉さんの傷は完治しました。
「さすがミィ様、もうどこも痛くないですわ」
「ではミィ様、次はこちらにいらしてくださいな」
ミィはひょいっと隣のお姉さんに抱き上げられて膝の上にのせられた。華奢なのに意外と力持ちですよね。
「―――全く、わたくし達の美しい顔を傷つけるなんて吸血鬼族はなんて馬鹿な種族なんでしょう」
暫くすると、吸血鬼族に対する愚痴大会が始まった。ほんとに嫌いなんですね。
「ほんとよね。あいつらも多少顔はいいけど、中身はかなり醜悪ですわよね」
「おいこら、かわいいかわいいミィにンな話聞かせんじゃねぇよ。もう全員傷は治ってんだろ」
「あ」
イルフェ兄さまはセイレーンのお姉さんの腕からわたしを奪い取りました。
「ミィ、この後セイレーンの族長と食事したら帰るぞ」
「はいです」
セイレーンのごはんはおいしいので楽しみです!
その後は、セリシーさんと新鮮な魚介料理を楽しんで帰りました。
久々にちゃんとお仕事した気分です。
ミィは一応お姫さまなのです。一国のお姫さまなのです。
そう、ミィにも一応ちゃんとしたお仕事はあるのです。
とはいえ、ミィはまだ立派な子ども。健やかに育つことが一番のお仕事なので兄さまや父さまみたいに書類仕事はしません。リーフェ兄さまのお仕事はたまに手伝いますがそれもごく簡単なものです。
ミィの主な仕事は慰問なのです。それも本当に深刻なものとかは父さま達がするんですけどね。ミィがするのは慰問という名の顔出しです。
「ミィ、準備はできたか?」
「はいです。ハンカチもティッシュもモフ丸も持ちました!」
「そうか。モフ丸だけは手放すなよ」
「はいです!」
「おい、我は持ち物ではない」
クワッと眉間にシワを寄せるモフ丸にはジャーキーを与えておきます。
今日はセイレーンのところに慰問という名の顔出しにいくのです。つまり海に向かうので、水着もばっちりリュックの中に入ってます。
セイレーンとは、上半身が人間の女の人で、下半身が魚の姿をしている種族なのです。いろんな意味でピッチピチです。
あとセイレーンのみんなはとってもお歌が上手なのです。
今日の同伴者はイルフェ兄さまです。
「じゃあいってきますなのです!」
「ああ。いってらっしゃい」
父さま達に見送られて、わたし達はセイレーンの里に転移で飛んだ。
「まぁ、いらっしゃいませイルフェ様、ミィ様!おひさしぶりですわねぇ」
「おひさしぶりなのですセリシーさん!」
わたし達を出迎えてくれたのはセイレーンの族長、セリシーさんなのです。青くてサラサラの長い髪を持った美人さんです。もちろん下半身は髪と同じ青い鱗をした魚の姿になっている。
興奮したセリシーさんにムギュッと抱きしめられました。お胸の間にミィの顔が埋まってるのです。
そして、セリシーさんの視線がモフ丸に向いた。
「あら?そちらのお狐様はどなたです?」
「モフ丸なのです!モフ丸はミィのおじいちゃんみたいなペットですよ!」
「かわいらしいお狐様ですわねぇ」
「はいなのです!」
褒められましたよ!と、モフ丸の方を見ると、美人さんに褒められて嬉しかったのかデレデレしてる毛玉がいました。
モフ丸もオスですね。
「セイレーンのみんなはお元気です?」
ミィがそう聞くと、セリシーさんはちょっと暗い表情になりました。
「……どうしたんです?」
「ん~、ちょっとみんな元気ではないんですの」
セリシーさんは困ったように片手を頬に当てて言った。
***
わたし達は海のすぐ近くにあるセイレーンの洞窟にやってきました。セイレーンの洞窟はアリの巣みたいになっていて全容は分からないのですが、入り口から入ってすぐの広い空間の中心には海水が流れ込んでいて湖みたいになってます。
「ど、どうしたんですか……これ」
ミィの目の前には、怪我をした十数人程のセイレーンが病人用の白いベッドに寝かされている。
ちなみに、セイレーンは魔法で浮くことができるので陸でも普通に生活できるのです。そして下半身の魚部分には保護魔法をかけてるのでベッドにも寝られます。
「うふふ、ここにいるのはみんな吸血鬼の乗っている船にちょっかいかけようとしたらそのまま轢かれた者達ですのぉ」
セリシーさんがおっとりと言いました。船に轢かれたって、やばやばじゃないんです?
「最近の船は頑丈なんですのねぇ。一昔前の船なら轢かれても掠り傷一つなかったのですが」
「ほんとに頑丈ですね」
セイレーンが。
吸血鬼族とセイレーン族の仲が悪いのは、魔界では有名な話なのです。
「あら?ミィ様!」
ベッドに寝ていたセイレーンの一人がミィに気付いた。すると、そこにいたみんなの目が一斉にミィに集まる。
「きゃ~!ミィ様!」
「ミィ様大きくなりました?……いえ、変わりませんわね」
「ミィ様抱っこさせてくださいな!」
ミィ、大人気なのです。ちょっと照れちゃいます。
「ほらミィ、ヘマした女どもに可愛がってもらってこい」
イルフェ兄さまはわたしをヒョイっと抱き上げると、一番近くにいたセイレーンのお姉さんに渡した。そのお姉さんはイルフェ兄さまの言葉にちょっと不服そうな顔をする。
「ヘマしたのは事実ですけれど、イルフェ様ってば意地が悪いですわ」
「あぁ?お前らの傷を治すために最愛の妹を貸してやるんだ。この上なく優しいだろ。文句があんなら妹返せ」
「イルフェ様ってばとってもお優しい」
お姉さんはコロリと意見を変えて微笑んだ。
「ほれ、モフ丸もいってこい」
「む」
イルフェ兄さまはモフ丸も同じように抱き上げると、近くにいた他のお姉さんに手渡した。
「まあモフモフ!海の生物のツルツル感もいいですけど、毛のある生物もいいですわね」
モフ丸はお気に召したようなのです。
セイレーンのお姉さんのお膝に座らされ、後ろから両手を繋がれるとミィの癒しの手の力でお姉さんの傷が治っていきます。
数十秒程でお姉さんの傷は完治しました。
「さすがミィ様、もうどこも痛くないですわ」
「ではミィ様、次はこちらにいらしてくださいな」
ミィはひょいっと隣のお姉さんに抱き上げられて膝の上にのせられた。華奢なのに意外と力持ちですよね。
「―――全く、わたくし達の美しい顔を傷つけるなんて吸血鬼族はなんて馬鹿な種族なんでしょう」
暫くすると、吸血鬼族に対する愚痴大会が始まった。ほんとに嫌いなんですね。
「ほんとよね。あいつらも多少顔はいいけど、中身はかなり醜悪ですわよね」
「おいこら、かわいいかわいいミィにンな話聞かせんじゃねぇよ。もう全員傷は治ってんだろ」
「あ」
イルフェ兄さまはセイレーンのお姉さんの腕からわたしを奪い取りました。
「ミィ、この後セイレーンの族長と食事したら帰るぞ」
「はいです」
セイレーンのごはんはおいしいので楽しみです!
その後は、セリシーさんと新鮮な魚介料理を楽しんで帰りました。
久々にちゃんとお仕事した気分です。
13
お気に入りに追加
2,013
あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる