前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

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ごめんなさい

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 その時、パキッと音がした。

「へ?」

 見上げると、そこには角の先が少し欠けた父さま。

 父さまの口がゆっくりと開く。
「みぃ……」
「ぴ」
「ぴ?」



「ぴええええええええええええええええええええええ!!」


 その日、ミィの叫び声が魔王城中に響き渡った。




***
sideモフ丸




「お~よしよし。もう泣くなミィ」
「うっ、ひっく……」

「ど、どうしたのだ」

 ミィの叫び声を聞いて駆けつけた我は、部屋の中の状況に驚いた。そこには、ボロボロと大粒の涙を流し、魔王に抱かれてあやされているミィがいた。我は内心うろたえつつ二人の元へと歩いて行った。
 きっとすぐにミィの兄達もやってくるだろう。

 魔王は我の姿を認めると、少しだけ眉を下げた。
「おい魔王、ミィはなぜ泣いているのだ?」
「ミィを抱き上げた拍子にミィの角が我の角に当たってな、先が少し欠けてしまったのだ」
 そう言われ魔王の角を見てみると、確かに二本ある角のうち、左側の角の先が欠けている。
「うっ、ぴええええええええええ!!」
 父親の言葉を聞いたミィが再び声を上げて泣き始めた。
「ミィ、我の角は大丈夫だからもう泣くな。欠けたのは先だけだから少し削れば形も直るし、すぐに角も伸びる」
「ひっ、ひっく……」
 ああ、鼻水が垂れてきておる。
 魔王はミィの鼻に手を当て、浄化の魔法でミィの鼻水を消してやっていた。放置するとヒリヒリするからのう。

「角とはそんなに大事なものなのか?」
「まあ、角持ちの魔族にとってはシンボルのようなものだからな。少し違うがお前の尻尾のようなものだ」
「なるほどのう」
 我のきゅーとなモフモフ尻尾の先の毛が少しハゲたようなものか。それは少しショックだのう。

「びっくりしてしまったのだなミィ。父さまは大丈夫だから泣き止んでくれ」
 魔王はミィの小さな背中をポンポンと叩く。その表情は立派な父親だ。
「ぴぃ……」
 ズビッと鼻水を啜り、魔王の肩に顔を埋めて動かなくなるミィ。ギュウギュウと魔王にしがみついている。

「「「ミィ……!!」」」
「おお、来たなシスコン三兄弟」
 妹大好き三兄弟が雪崩れ込んできた。

 ミィはちらりと兄達を見ると、再び魔王の肩に顔を押し付けてしまった。ミィとしてはただ単に構う余裕がなかっただけだろうが、シスコン兄弟はショックを受けたようだ。

 兄弟達はそのままスンスンと鼻を鳴らすミィの周りをオロオロうろちょろしていたが、最終的には邪魔だと魔王に追い出された。



 そのまま暫く魔王がミィの背中を叩いていると、すぴすぴと小さな寝息が聞こえてきた。先程までは時々ヒックヒックと痙攣していた胸も、今は穏やかに上下している。
 泣きつかれて寝てしまうとは、まだまだ子どもだのう。



「おいモフ丸」
「なんじゃ?」
 この威厳たっぷりの魔王に「モフ丸」と呼ばれると毎回違和感がすごい。我がモフ丸という名なのはもう慣れたが、なんともマヌケな名前を付けてくれたものだのう。
「ミィが眠ってしまったのだが、どこに寝かせるべきだろうか」
「ふむ、いつも通り我がミィを見ていてやるから、ミィの自室に寝かせればよいだろう。ミィが起きる前にその角を整えてもらってこい」
「それもそうだな、ではミィを自室まで運ぼう。面倒をかけるな」
「なに、気にするな。今の我はミィのペットであるし、我もミィのことは孫のように思っておるからの」
 お、ほんの少しだけ目尻が下がったのう。最近魔王の表情変化が分かってきたぞ。






 魔王はミィを自室に届けると急いで角を整えに行った。ミィが起きた時に角がそのままだったらまた泣き出しそうだしのう。

 棺桶に寝かされたミィの腹に尻尾を置いてやると、ミィは無意識に我の尻尾を抱き込む。ほんとに我の尻尾が好きだのう。
 尻尾をミィに抱かれたまま、我も棺桶の横の床で伏せをする。

 さて、我もひと眠りしようかのう。




***




 尻尾をムギュッと掴まれたことで、我の意識が浮上した。薄っすらと目を開け自分の尻尾を確認しようとすると、上から我を覗き込んでいるミィが目に入った。
 真ん丸な瞳がこちらをジーっと見つめている。目がちょっと腫れてしまったおるのう。

「起きたかミィ」
「おきたのです」

 我の尻尾を掴んでピルプルと振るミィ。あ、これ、尻尾を口に入れるでない。

「……父さまのところにいきます」
「それがよいのう」
「モフ丸もついてきてくれますか?」
「うむ」
 珍しくミィがしょげておる。怒られると思っておるのかのう。魔王は怒らぬと思うが。

 ぬーんと落ち込み気味のミィを連れたって魔王の部屋へと向かった。



 ミィが魔王の部屋の扉をコンコンとノックする。
 おお、ミィがノックをしてから部屋に入るところなど初めて見たのう。

「父さま」
「ミィ、こっちおいで」

 ソファーに腰かけていた魔王は優しくミィを呼び寄せる。その左角はきれいに整えられ、元の形を取り戻していた。
 ミィはてててっと父親に向かって走っていき、膝に乗り上げてギュッと抱き着いた。抱き着くというよりもしがみつくの方が正しいかのう。

「……父さま、もうおこってないです?」
「もうもなにも、最初から怒っておらぬぞ」

 魔王は片手で優しくミィの後頭部を撫でる。
 ミィは小さな手を伸ばして魔王の左角を触った。欠けていないか確認するように角の上を小さな手が何度も往復する。

「……つるつるです」
「だろう?」
 魔王が片頬を吊り上げると、ミィの顔がぱあっと明るくなる。どうやら立ち直ったようだのう。

 







 その日の夜、ミィは枕と我を持って部屋を出た。

 ミィが向かったのは魔王の自室だ。
 部屋に入ってきたミィに魔王が気付いた。魔王は既にベッドに入っている。どうやら本を読んでいたようだ。
「ミィ、どうしたんだ?」


「今日は父さまと寝るのです!」

 ミィはそう宣言すると、ぬんぬんと部屋の中を進んでいき、魔王のベッドに飛び乗った。そして掛布団の中に潜り込み、掛布団から顔だけ出す。

「さあ父さま、ミィを寝かしつけてくださいなのです」
 お腹をぽんぽんしろとミィの目が訴えている。
 今日は泣いたから甘えたくなったのかのう。

 我も魔王のベッドの足元の部分に飛び乗り、クルンと丸まった。

 そして、悶える魔王を我は温かい眼差しで見守ったのであった。






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