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カッツェ教の実態 side教皇

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 我らカッツェ教の初代神の生まれ変わり、ミィ様が再び我らの信仰対象になってくださることになった。
 カッツェ教に対する罰としてそうなったとはいえ、私にとっては僥倖でしかない。

 ミィ様が訪れてくださる前に信者達に事前説明をしなければならないので、神殿にある会議室に各地の教会の代表者とカッツェ教の幹部を集めた。
 私が会議室に入ると、もう既に皆自分の席に着席していた。私も自分の席に歩いていく。


「皆、よく集まってくれましたね。今日は重要な報告があるので皆さんに集まっていただきました」


「皆さん、我がカッツェ教徒が魔界の姫であるミィ様を誘拐したことはもう知ってると思います」
 私がそう言うと、皆が頷いて答えてくれる。
「そこで、我が国の陛下からこのカッツェ教に罰が下されました」
 『罰が下された』という言葉に信者達がざわめく。それもそうでしょう、魔界の王族を誘拐した上に自国の陛下まで出てきてしまったのだ。正直、罰の内容が決まるまでは私も内心戦々恐々としておりました。皆の内心も今そんな感じなんでしょう。
 実行犯のおバカさん達もこの場にはいますが、先に罰の内容を伝えてしまったせいで反省どころかむしろドヤ顔をしているのが腹立ちますね。後でもう一回お説教をしましょう。


「ですが皆さん、心配しないでください。罰の内容はむしろ我々にとってはご褒美です」
 カッツェ教徒達の頭上にクエスチョンマークが見えますね。

「我が国の陛下から、カッツェ教の新しい神を先日誘拐された魔界の姫様にするようにと沙汰が下されました」

 私がそう言い終わると、会議室が急激にざわつき始めた。
 魔界の姫といことで引っかかりを覚える者、陛下がカッツェ教の信仰神にまで口を出すのはどうなのかと言う者。

 ―――そして、『魔界の姫』というワードに期待感を高める者。

 カッツェ教で私に次いだ権力者の男が挙手をした。

「して、魔界の姫とはどんな方なのですか?」

 期待通りの質問です。さすが私の右腕。


「簡潔に申し上げますと、角が生えた幼女です」

 水を打ったように一瞬にして場が静まりかえる。

「角が生えた幼女です」

 大事なことなので二回言いました。

「さらに言いましょう。魔族は我々とは段違いに寿命が長い。すなわち、成長も遅い。―――どういうことか分かりますね?」
 数人がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
 つまりは、長い年月可愛い幼女を愛でられるということだ。信仰神であるという愛でるための大義名分まである。

 ……誰です?「合法ロリ」とか呟いたのは。

 つい先程とは打って変わってミィ様を歓迎するムードが一気に広がった。
 それもその筈です。カッツェ教は小動物やかわいいものが好きな人間の集まりなのですから。さらに、能力はあるが仕事をするのが苦手な人間の集まりでもある。そして、カッツェ教の上層部にいくほどその傾向が強くなる。
 先程質問をした私の右腕の男も、業務時間外には「残業は敵だ」と書かれたTシャツを着てゴロゴロとしている。

 おっと、思考が脱線しましたね。

「さらに朗報です。なんと魔界の姫、ミィ様は我らがカッツェ教の始祖神、みー様の生まれ変わりなのです!」

「「「!!!」」」
 流石に皆驚きの表情ですね。それもそうでしょう。みー様の絵姿は今でも複製が出回っており、カッツェ教徒の大半はみー様の絵姿を肌身離さず持っている。カッツェ教徒であることの証明にもなる上に、癒しも得られるからだ。

「それは本当なのですか?」
「もちろんです。きちんと確認も得られました」
 これでもう反対の声は上がらないでしょうね。これまでの歴史でカッツェ教には様々な信仰神がいましたが、初代のみー様がもっとも人気が高いのですから。ここまで言ってもなお反対する者はカッツェ教徒ではありません。
 まあ、反対したところでこの決定は覆せないのですが。

 予想通り、会議室には喜びの声が満ち溢れていた。

「皆さん、今から一週間後にミィ様と顔合わせの予定を取り付けました。どうしても外せない用事があるなら構いませんが、できるだけ参加してください」
「「「はいっ!」」」
 きっと参加率は百パーセントですね。


 会議が終わった後、私の右腕の男が駆け寄ってきた。

「魔界の姫を誘拐したにしては随分と軽い罰ですね」
「そうでもないですよ。人界では印象の悪い魔族の姫を信仰せよと急に言われても普通は人心がついていきませんしね。今まで外では真面目な皮をかぶってきた甲斐がありましたよ」

 私はそう言って男にニヤリと笑いかけた。



***




 そして、待ちに待った顔合わせ当日になりました。
 万全な準備をしていたのですが、朝早く勇者様がいらっしゃったのには驚きましたね。私としたことが、少し狼狽えてしまいました。
 初代教皇の生まれ変わりである勇者様は私の憧れです。
 人格者と評判の教皇だったので、その点でも憧れなのですがなによりみー様と暮らしていたというのが羨ましいです。




 顔合わせに来たミィ様は一段とかわいらしかった。白い衣装がミィ様の神々しさを際立たせている。
 このミィ様を今日は合法的に写真に撮れるなんて、なんと幸せなことなのでしょう。

「ミィ様、オルフェ様、よくいらっしゃいました。またお会いできて光栄です」
 顔が緩み過ぎないように、萌えが爆発して叫ばないように注意しながら挨拶をします。

 ふぅ、どうやら平静を装うことができたみたいです。奇行をどうにか抑えることができました。




 さて、いよいよ顔見せの時間ですね。皆の反応が楽しみです。
 私はカッツェ教徒の反応を思い浮かべ、一人ほくそ笑んだ。




 そして、案の定ミィ様のカッツェ教徒受けは最高でした。

 ミィ様の姿を目に焼き付けようと目をかっぴらく者多数。まったく、ミィ様を怖がらせないでほしいですね。

「皆、ここにいらっしゃるお方が我らの新しき信仰神、ミィ様です」
「ミィなのです!」

 ミィ様は可愛らしく片手を上げて挨拶されました。
 あまりの可愛らしさに何人か撃沈しましたね。分かります。

 皆、各々が感じた萌えをシェアしようと小声で話し始めてしまいました。我慢できなかったんでしょうね。
 ―――誰です?「合法ロリ」とか言ったの。お前さっきと同じ奴だろ。

 ゴホン。少々口調が乱れました。

 神獣様がピクピクとお耳を動かしていらっしゃいます。おそらくコソコソ話の内容を聞いているんでしょうね。少々遠い目をされてますが、敵意がないことは伝わったようです。

 ミィ様の素晴らしさはもう十分伝わったようなので、さっさと写真撮影の方にいきましょうかね。

 私は手を叩いて皆の注目を集めました。
「皆、ミィ様の素晴らしさは分かりましたね?」
「え、ミィまだなにもお話してないですよ?」
「よいのですミィ様。ミィ様の素晴らしさはわざわざ説明せずともそのお姿を見ただけで皆理解しました。むしろ理解できない者はカッツェ教徒ではありません」
「?ミィにはちょっとついていけないのです」
 小首をかしげるミィ様。これ以上萌えさせて爺をどうする気ですか?
 上がりそうな血圧を必死に抑えます。

「それでよいのです。ミィ様はそのままでいてください」

 そして、顔見せは早々に終了しました。

 私達が退室して、私が扉を閉じた瞬間、室内がワッと騒がしくなった気配がします。
 うんうん、存分に語り合いなさいな。私はミィ様の写真を撮っておきますから。
 カメラマンなんて呼びませんよ。ミィ様の良さは下手なカメラマンより私の方が引き出せる自信があります。


 ミィ様は大変可愛らしく、写真撮影は私にとってとても楽しい一時でした。









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