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箱の中身はなんだろな
しおりを挟む「鍵が開きましたね」
「開いたな」
なんでかはわかんないですけど、思ったよりもあっさり鍵が開いちゃいました。教皇さんは信じられないのかパッカーンと口を開きっぱなしにしてる。
お口渇いちゃいますよ。お茶飲みますか?
「何が入ってるんです?」
ワクワク。
兄さまも気になるんだろう、心なしか前のめりになってる。
そして、オズお兄さんが箱を開いた。
「……何も入ってねぇじゃねーか」
箱の中はからっぽだった。
わたしの見えない耳がぴんっと反応する。
「にゃ!!!」
「へ?」
わたしは反射的にオズお兄さんの持っている箱に飛びついた。
「むっ、んにゅ」
がんばって中に入ろうとしたけど、今のわたしにとってこの箱は小さすぎた。ぷらーんと箱に手を掛けてぶら下がる。
は、はいれないです……。
「み、ミィ? 急にどうしたんだ?」
はっ!
イルフェ兄さまの声で我に返った。それでもって両脇に手を差し込まれ、回収される。
ポスっと兄さまの腕に納まった。
イルフェ兄さまはそのままオズお兄さんに顔を向ける。
「んで? なんでお前はその箱の開け方なんて知ってたんだよ勇者様?」
あ、たしかに。
イルフェ兄さまの言葉でミィの中にも疑問が生まれる。
「なんでなんです? オズお兄さん」
わたしがそう聞くと、オズお兄さんは箱を持ったまま微笑んだ。
「まだ分からないの? みー」
ミィとは若干違う発音で、オズお兄さんはわたしを呼んだ。
この笑い方、見覚えがある。
この呼び方も、立ち方も。
「―――ご主人さま?」
その言葉は、わたしの口から自然にこぼれ落ちた。
すると、オズお兄さんはフワリと花開くように微笑んだ。
「やっと気付いてくれたね、みー」
「―――ごっ、ご主人さま!!」
わたしはオズお兄さんに飛びついた。
そしてご主人さまの頬に自分の頬をスリスリする。
「ふふっ、ミィくすぐったいよ」
「はい回収~」
「んにゃっ」
背後から近づいてきたイルフェ兄さまに抱っこされた。むっとしたお顔をしてる。
「お三方、そろそろ時間です。詳しいお話は先程の部屋で聞かせてくれますかな」
「うん。もちろんいいよ」
教皇さんの提案をオズお兄さん改めご主人さまは快諾する。
さっきの部屋に戻る途中、わたしはイルフェ兄さまに運ばれてたけど、ご主人さまの方を気にしてそわそわしちゃってしょうがなかった。
「ミィ、落としそうになるから大人しくしてろ」
「あい……」
そうしてわたし達は話し合いをする部屋に戻った。そしてイルフェ兄さまがさっきいなかった人達に軽く状況を説明する。
「へ~、結局その箱には何もはいってなかったんだ。じゃあなんでそんな強固な鍵をかけたんだろうねぇ」
ご主人さまが持ってる箱を見てリーフェ兄さまが言う。
「それはね、この箱自体が初代教皇にとって大切なものだったからだよ」
箱を撫でながらご主人さまが答えた。
「だから、さっきからなんでお前がそんなこと知ってんだよ」
「僕がその初代教皇の生まれ変わりだからさ」
ご主人さまはさらりと言い放った。
「ちなみに、ミィの前世はこのカッツェ教の教祖なんだよ」
「「「……え?」」」
「って、どうしてミィも驚いているのだ?」
「だって、ミィも知らなかったんですもん」
オルフェ兄さまに聞かれたのでそう答える。
「まあミィの前世はただの猫だからね自覚はなくても無理ないよ。信者との交流も、みーにとっては近所の人がちやほやしてくれるくらいにしか思ってなさそうだったし」
ですです。
わたしはオルフェ兄さまの顔を見てコクコク頷く。
「この箱はね、猫のみーが一番お気に入りだった箱なんだよ」
オズお兄さんが手元の箱を撫でる。
「みーが死んじゃった後も、みーとの思い出がつまった品だから捨てるのも嫌だったし、かと言って他の人に使われたくもなかったから厳重に鍵をかけてあの部屋に置いておいたんだ」
「そうだったんですか」
ご主人さまらしいっちゃご主人さまらしい行動です。
「……嘘は吐いていないな」
今まで黙って話を聞いてた父さまが口を開く。どうやら魔法でこっそりオズお兄さんは嘘を吐いてないか確かめてたみたいだ。
「では、本当に勇者様が我らの初代教皇様なのですね!!」
おじいちゃん教皇さんは両手を組んで、今にも感激して泣き出しそうだ。そうだよね、カッツェ教の人からしたらご主人さまはすごく尊い人だもんね。
教皇さんはオズお兄さんに向けてなんかお祈りを始めちゃった。
「ふふっ、僕なんかよりミィに祈りなよ。なんせ君達の初代神様の生まれ変わりだよ?」
オズお兄さんが少しおどけた風に言う。
すると、教皇さんがグリンッとすごい勢いでわたしの方を向いた。
おじいちゃん腰とか大丈夫ですか?
思わず心配になっちゃう。
「お逢いできて光栄でございます」
うやうやしく頭を下げられてしまいました。
「ミィは神様だった自覚なんてないんですが……」
「癒しの手と緑の手を持った猫が信仰されないわけないでしょ」
オズお兄さんが言う。
そんなもんなんでしょうか……。
「ミィ様を抱っこさせていただいてもよろしいでしょうか……」
教皇さんがおずおずと申し出てきました。
オルフェ兄さまと顔を見合わせるけどダメって言われない。
「いいですよ」
「おおっ!感謝します!!」
よいしょっと、感激した様子のおじいちゃん教皇に抱っこされました。おじいちゃん意外と力ありますね。
慣れ親しんだ父さま達の抱っことは違うのでなんだかそわそわしちゃうのです。
「みー様を、生まれ変わりとは言えこの手に抱けるなんて感激です!」
「それはよかったのです」
抱っこされるだけでこんなに喜んでもらえるなんてお得です。エコです。
おじいちゃん教皇はなんだかいい匂いがします。さすがにいい石鹸を使ってますね。
「―――あ~、ゴホン」
「?」
人界の王様が咳払いをした。
「そろそろ本題に戻ってもよいか?」
「構わぬ」
父様が鷹揚に返事をする。
わたしを抱っこしたまま教皇さんが席に着いたので、そのまま教皇さんのお膝に座る形になっちゃいました。チラッと父さまを見ると一つ頷いてくれたので、このままでいいんでしょう。
人界の王様が口を開く。
「聞けば、そこの魔界の姫がカッツェ教の初代教祖というではないか」
「だから何だ」
「此度の罰として、カッツェ教の次代信仰対象をそちらの姫にするというのはどうだ?」
「ほう?」
みんなの視線がミィに集まる。
「……ほう?」
とりあえず首を傾げて父さまのマネをしておく。ミィの身内が一斉に渋い顔になった。
普段見ない顔だったから一瞬びっくりしたけど、すぐにみんな意識して顔を引き締めたことに気付いた。一応正式な場だからニヤニヤしちゃうとまずいのかな。
「人界の民はいまだに魔界に良いイメージを抱いておらぬ。それゆえ、カッツェ教の信仰対象が魔界の姫となればカッツェ教徒を辞める者も出てくるだろう」
「うむ」
父さまが相槌を打つ。
「そして姫はカッツェ教という人界でも奮える力を手に入れることができる。多少勢力は落ちると思うが、それでも巨大な宗教であることには変わりない。―――どうだろうか」
「……ふむ」
父さま思案するように口元に手を当てた。そしてわたしの方を見る。
「どうだ?ミィ、たくさんの下僕は欲しいか?」
「いや父上言い方。ミィの教育に悪いでしょう」
「む。ミィ、たくさんの大きいお友達はほしいか?」
リーフェ兄さまの言葉を受けて、父さまは聞き方を変えた。
「う~ん、ミィはべつにいらな……ほしいかもです」
いらないって言おうとした瞬間おじいちゃん教皇の熱烈な視線を感じました。ハイライトがないのです。おめめがお前ほしいって言えよって主張してました。
「では罰の一つはそれで決定だな」
人界の王様がうむと一つ頷く。
それからミィがお昼寝をしている間にお話しはまとまってました。
結果から言うと、ミィは信者と大量のお小遣いをゲットしました!
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