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神殿に行くのです
しおりを挟むミィの体調が改善したので今日は人界に行くらしいです。
「ミィ準備できたか?」
「ばっちしです!」
わたしは水筒やおやつなど、必要なものと一緒に箱の中に入った。病み上がりなので歩かなくていいと、今日に限ってはむしろ箱に入ってることを推奨された。
「よいしょっと」
箱ごとイルフェ兄さまに持ち上げられる。ミィの負担軽減と迷子防止のために今日はずっとこのスタイルらしい。楽ちんです。
「それじゃあ行くぞ」
「はい!」
わたし達は父さまの転移で人界にある神殿に飛んだ。
「あ! ミィもう具合はいいの? 心配したんだよ?」
「オズお兄さん」
なんか広くて神聖そうな広間で出たらオズお兄さんが突進してきた。ガシッとわたしの箱を掴んだと思ったら額同士を合わせてグリグリしてくる。
動物のあいさつかな?
「おい、うちの妹に触んじゃねぇ」
「わっ」
イルフェ兄さまが無理やりお兄さんをわたしから引き離す。
「今日はあんまり俺らが慣れ合っていい雰囲気の場でもねえだろ」
「うちの陛下はそんなこと気にしないと思うけどね」
「へいか?」
え、人界の王様もここに来てるの?
「なんでって顔してるな。いいかミィ、魔界の姫が人間に誘拐されたんだから今回のことは結構な大ごとなんだぞ?」
「そーなんですか」
全く自覚なかったです。
「でも魔界と人界は仲良くないのに、両方のトップがそんなにほいほい会っちゃって大丈夫なんですか?」
「両方とも昔からの言い伝えで相手に対するイメージがよくないってだけで、国としてはそろそろ仲良くしたいんだよ。あと今回のことは秘密裏に行われる集まりだからね。護衛も最低限で僕だけなんだ」
「なるほどです」
「へぇ、護衛勇者だけなのか。人界の陛下も思い切ったな」
兄さまが関心半分、呆れ半分といった様子で言う。
「どういうことです?」
「今代の勇者は忠誠心がないことで有名なんだよ」
イルフェ兄さまの言葉にオズお兄さんが反応する。
「失礼な。忠誠心がないわけじゃないよ。ちゃんと陛下の優先順位は二番目だって宣言してるだけだ。誠実でしょ?」
「ほほう。ちなみに一番は誰なんです?」
「聞きたい?」
オズお兄さんがズイっと顔を近づけてくる。真っ黒い瞳としっかり目が合った。
「だから離れろっての」
お兄さんは再び兄さまに押されてわたしから距離を取らされた。
「ふふっ、僕の一番はかわいいかわいい飼い猫だよ」
「猫?」
「うん。陛下なんかよりももっと大事な子がいるんだ」
さらりと自分の王様を「なんか」とか言っちゃうお兄さん。
「お前よく怒られないな」
「仕事はちゃんとするからね」
ニッコリと笑うお兄さん。
「おーい、いつまで話してんの? そろそろ話し合いが始まるよ~」
リーフェ兄さまが呼びにきてくれた。どうやら場が整ったらしい。
***
神殿の一室にはなんか偉そうな人が二人とこの前会った教会の人達、そしてわたしの家族がいた。窓から見える景色からしてあんまり都会じゃなさそう。むしろ田舎っぽい?
イルフェ兄さまはオルフェ兄さまとリーフェ兄さまの間に座ると、その前の机に箱ごとわたしを置いた。
え? わたしだけ机上参加なんですか?
父さまはわたしと兄さまを見るとうむ、と一つ頷いた。
「では早速話し合いに入ろう。今回、我が娘のミィが誘拐されたことだが」
父さまわたしの場所スルー!?
にょきっと箱から顔を出して物申してやろうと思ったらイルフェ兄さまに頭を押さえられた。
「……兄さまなんですかこの手は……」
「ミィが起き上がると前が見えなくなる」
「にゃ!?」
じゃあお椅子に座らせてくれればいいのに! 勝手な兄さまだ。
もう真面目そうな話が始まっちゃってるのでわたしは大人しく箱の中で丸くなった。モフ丸は今日お留守番だし相手してくれる人がいない。
おやすみなさい。
「こらミィ寝るな。ミィは当事者なんだぞ」
「む」
小声でイルフェ兄さまに起こされた。視線で抗議しても受け流される。どうやらミィもお話を聞かなきゃいけないみたい。
ふむふむ、どうやら偉そうな人のうちの一人は人界の王様で、もう一人はこの神殿の教皇様みたい。
「では、このカッツェ教に罰をあたえるだけで事を収めてくれるということでいいだろうか」
「ああ。こちらも人界とことを荒立てたくはない」
人界の王様に父さまがそう返す。
いやいや長いよ。ここまでくるのに何時間かかってるの?
「では、罰の内容だが……」
え? まだ話し合い続くんですか?
げんなりした顔で父さまを見ると、パチッと目が合った。
「……その前に少し休憩を挟もう。我が子は病み上がりなのでな」
「それもそうだな」
「ですね」
おお! 休憩ゲットです!
わたしはにゅっと箱から顔を出した。その瞬間、オズお兄さんに箱ごと持ち上げられる。
「さぁミィ! この神殿探検しにいこ~」
「ふぇ?」
探検とな?
お兄さんはわたしの返事も聞かずにズンズンとこの部屋の出口に向かって進んでいく。拒否権はないみたい……。
まあ探検という言葉に若干うずうずしてしまってるわたしもいるのでそこは問題ない。
「じゃあいってきまーす」
「あ、こら! 俺も行くぞ!」
慌ててイルフェ兄さまもついてきた。
オズお兄さんはなぜか勝手知ったる感じで神殿の中をズンズン進んでいく。
「お~、広いですね~」
「まあカッツェ教の総本山だからね」
「そんなに大きな宗教なのですか?」
わたしは人界のことはほとんどなんにも分からないので素直に尋ねます。
「人界の中でも一、二を争うくらい人気だよ。カッツェ教の教義には『無理して働かない。週に一日以上は必ず休む』ってのがあるから労働者からの支持が厚いんだ。休みをゲットする大義名分が欲しいためだけに入信する人も少なくないんだよ」
ほうほう。それを許しちゃうってことは結構ゆるい宗教なんですかね。
イルフェ兄さまは既に知っている知識なのかあくびをしながら後をついてきてる。
オズお兄さんは、わたし達が最初にいた広間にくると、迷いなく祭壇の方に足を進めた。そして祭壇横の壁についてる燭台を慣れた手付きで捻る。
すると、ガコッという音がして祭壇の後ろの壁に亀裂が入り扉のようにかすかに開いた。どうやらその先には道があるっぽい。
「おお、隠し部屋につながる道っぽいのが見つかっちゃったね。せっかくだから行こうか」
「……お前、それは白々しすぎるだろ……」
イルフェ兄さまの言葉にわたしもコクコク頷いて賛同する。
「よし、行くよ~♪」
オズお兄さんはわたし達の言葉を聞いてないのか聞く気がないのか、片手で隠し扉を開き入って行く。
「ミィ、怒られたら全部勇者のせいにするぞ」
「はい!」
「君達、本人の前で……まあいいけどね」
隠し通路を進んでいくと、木でできた扉があった。オズお兄さんは迷わずその扉を開ける。
なんか重要な部屋なのかと思ったら、そこはただの小部屋だった。その部屋の主な家具はベッドと棚、そして机とイスのワンセットだけだ。全体的に使い込まれてるし、かなり古い感じ。
「なんか隠し部屋にしてはしょぼいな。神殿にとって大事なもんでもあんのかと思ったが……」
「ミィもそう思った」
ここは神聖な感じもしないし、普通に誰かが一人暮らししてる部屋みたい。
「ちょっとミィ預けるよ」
「え? ああ。……ってかミィは元々うちの子だっつの」
オズお兄さんはわたしをイルフェ兄さまにわたすと、机の上にあった箱を手に取った。一抱え程の大きさの箱は、見た感じ魔法で鍵がかかってるみたい。箱の前側には肉球マークが描かれてるプレートみたいなのが付いている。
「なんだ? それ。その中に金目のもんでも入ってんのか?」
「それは我々にも分かりませんよ」
「「「!?」」」
急に知らない声がして心臓がビクンとなった。
慌てて振り向くと、いつの間にか教皇が後ろにいた。
「ふぉっふぉっふぉっ、叱ったりなどしませんよ。この部屋を荒らされたりしたら話は別ですがな」
おじいちゃん教皇はにこやかにそう言った。
「それにしても、よくこの部屋に来られましたな」
「俺とミィは勇者についてきただけだぞ」
イルフェ兄さまがそう言う。
あ、ちょっと責任逃れが入ってますね。
「ほう、では勇者様、その箱は開けられますかな?」
おじいちゃん教皇は視線でオズお兄さんの持っている箱を指す。
「……」
「教皇さん、この箱はなんなのですか?」
「これはですね、このカッツェ教を作った最初の教皇様が残したものなのですよ。この部屋もその教皇様が過ごされていたものです」
「おー!」
大事な部屋だったのですね。
「ですが、この箱は誰も開けられないため今では何が入っているか分からないのです。初代教皇様の大切なものを壊すのも罰が当たりそうなのでそのままにしています」
「そうなのですか」
ちょっと中身が気になりますけどしょうがないですね。
ミィは諦めたけど、オズお兄さんはジッと箱を見つめている。そして、箱の次はわたしを見てニッコリ笑った。
「はい」
「へ?」
そんなズイっと箱を差し出されてもミィは何もできませんよ?
「ミィ、この肉球マークのところタッチしてみて?」
「?」
よくわかんないけど、わたしは言われるがままにペタっと肉球マークにタッチした。
ガチャッ
「「「へ?」」」
わたしが肉球マークに触った瞬間、あっさりと開錠する音が聞こえた。
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