前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

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リーフェ兄さまとお仕事するのです!

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 今世のわたしには前世の三角形の耳の代わりに二本の角が頭に生えている。きゅーとなお耳もよかったですけど、かっこいい角もいとおかしなのです。
 角のケアをされるのがわたしの至福の時間です。

 わたしは今、我が家の三男、リーフェ兄さまの膝で微睡んでいる。角の表面を紙やすりでシャッシャッと削られ、ツルツルにしてもらう。
 最後にあっためた濡れタオルで角をきれいに拭き取ってもらって終わりだ。
「ほらミィ、ツルツルになったよ」
「おお、ミィの女子力が上がったのです」
「ミィは元々世界一かわいいから女子力なんて上げる必要ないんだよ」
 毎回そう言って家族はわたしを甘やかす。
「今度は兄さまの角もやってくれる?」
「はい」
 魔族にとって角や毛など、自分の特徴をケアし合うことは大事なコミュニケーションになっている。わたしの家族もよく角のケアを互いにし合っている。イルフェ兄さまには角はないけどその分他の家族の角のケアをしてくれてる。
 まずお湯にタオルを浸し、ホカホカのタオルで兄さまの角の汚れを落としていく。
「やっぱりミィの手は特別だね」
 ソファに寝っ転がったリーフェ兄さまが言う。
 わたしの手は魔族や人間に関わらず生物を癒す手らしい。ただ自分にはその癒しができないのが残念。
 丁寧に兄さまの角をきれいにしていった。

「ありがとうミィ」
 ちゅっとリーフェ兄さまがおでこにちゅーしてくれた。
「さてミィ、お勉強と兄さまの仕事」
「兄さまのお仕事についていきます」
「即答だね。そんなにお勉強嫌い?」
「きらいです」
 お勉強するとただでさえ眠いのにさらに眠くなっちゃうのです。一日何時間ミィを寝かせる気なんですか。

 わたしはすっぽりと段ボールの中に納まりました。そしてわたしを段ボールごと兄さまが持ち上げてくれます。
「じゃあ行こうか」
「はい」

 リーフェ兄さまのお仕事は民の声を聞いて必要があればそれに対処することだ。大体は書面で寄せられるものに目を通して、しかるべき対処をする。

 だが、今日は珍しく直接お客さんが来ていた。
 応接室でお客さんのお話を聞く。
 ミィも兄さまの隣で真面目に話を聞いてますよ。

「―――触れない狐?」
「はい、人間界との国境付近で傷だらけの狐を見つけたのですが、なぜかその狐に触れないのです。できれば手当をしてあげたいのですが……」
「……それは気になるね。人間側の罠かもしれないし、すぐに向おう」
 






 そうして、わたし達はその狐が保護された場所まで転移した。ちょっと離れたところに砦が見えます。

 狐は誰も触れないので地面に寝そべったままになっていた。お客さんが狐に触ろうとすると、結界のようなものに手が弾かれる。
 お客さんは手をさすりながらこっちを向いた。

「このように、狐を動かすこともできないのです」
「この狐反抗期なんですかね兄さま」
 わたしは狐の頭を人差し指でツンツンとつついた。
「!? ……ミィはなんで触れてるんだい」
「はっ! 兄さま、狐に触れましたよ」
「そうだねぇ」
 無意識に狐をつついてました。びっくりなのです。
 ついつい動いちゃう子どもの本能怖いです。

 兄さまはしゃがみ、わたしの背中に手を置いた。
「ミィ、そのまま狐さんの傷を治せるかい?」
「やってみます」
 今こそわたしの癒しの手の出番なのです!
 癒しの手は無意識でも発動するけど意識した方が効果は高い。狐さんの傷を治すように意識を集中させます。

 わたしは狐の頭を撫で撫でしました。傷口を直接触っちゃうと痛いから、頭をなでなでして体全体に癒しの力を届ける。

 するとみるみるうちに狐の傷口が塞がっていった。

「おおっ!」
 治った。

「兄さま兄さま」
 兄さまを見ながらぴっぴっと狐を指さす。
「うんうん偉いねぇミィ。狐さん治ったねぇ」
 兄さまが頭を撫でて褒めてくれる。

「―――キュィ……」
 狐が小さな声で鳴いた。先程まで閉じられてた目が薄っすらと開かれている。
「兄さま、狐起きました!」
「起きたね」

 そして、狐の目がパッチリと開かれた。
「キュ……」
 狐の長い鼻先をわたしの手にスリスリしてくる。
 ―――か、かわいいのです。

 わたしは結構大きめな狐のモフ首に腕をまわして抱き着いた。
「兄さまこいつかわいいやつです。うちで飼ってもいいですか?」
「だめです! 元いた場所に返してきなさい!」
「……」
 三秒ほど兄さまと見つめ合う。

 わたしは狐をそっと地面に置いた。
「返しました」
「返したね」
「飼ってもいいですか?」
「うんいいよ」
 さっきのは言いたかっただけなのか、今度はあっさりと許可が出た。

「さっき『察知』したけどこの狐から悪い気配は感じなかったしね。まぁミィに危害を加えるようだったら毛皮にしてミィの防寒具にしようね」
「モフ丸はいい子ですよ兄さま」
 モフ丸と呼んだ瞬間モフ丸が唸りだした。こらこら、いい子にしないと毛皮街道まっしぐらですよ。
 わたしはどうどうとモフ丸をいさめる。

「さすがミィ。とてもセンスのいい名前だね」
「ミィもそう思うのです」
 兄さま達は基本なんでも褒めてくれます。わたしは兄さま達の優しさで生かされてるのです。

「さあモチ丸、ミィと帰りましょうね」
「早速名前間違ってるよミィ」
「おっと。ケアレスミスです」
「見直しはしっかりしようね」

 まだちょっと不服そうなモフ丸は抱っこして帰ることにしよう。そう思ってモフ丸の脇に手を差し込んで抱き上げた……。
「……」
「……ちょっと余りましたね」
 予想以上に伸びたモフ丸はわたしが抱き上げても余裕で後ろ足が地面についてる。モフモフの尻尾も若干機嫌悪そうに地面を這い回ってます。

 ちがいます。わたしが小さいんじゃないです。モフ丸がでかいんです。
 わたしは一旦モフ丸を下ろした。

「ふぅ……。モフ丸、あなたはできる子なのです。自力で歩きましょうね」
「キュウウウ……」
 モフ丸は胡乱な目をしつつも大人しくついてきた。
「じゃあミィお家に帰ろうか」
「はい」
 リーフェ兄さまに抱き上げられ、転移でお家に帰る。


 ミィ、新しい家族が出来ました。






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