前世は猫、今世は(文字通り)魔王の箱入り娘です!

雪野ゆきの

文字の大きさ
上 下
3 / 49

リーフェ兄さまとお仕事するのです!

しおりを挟む



 今世のわたしには前世の三角形の耳の代わりに二本の角が頭に生えている。きゅーとなお耳もよかったですけど、かっこいい角もいとおかしなのです。
 角のケアをされるのがわたしの至福の時間です。

 わたしは今、我が家の三男、リーフェ兄さまの膝で微睡んでいる。角の表面を紙やすりでシャッシャッと削られ、ツルツルにしてもらう。
 最後にあっためた濡れタオルで角をきれいに拭き取ってもらって終わりだ。
「ほらミィ、ツルツルになったよ」
「おお、ミィの女子力が上がったのです」
「ミィは元々世界一かわいいから女子力なんて上げる必要ないんだよ」
 毎回そう言って家族はわたしを甘やかす。
「今度は兄さまの角もやってくれる?」
「はい」
 魔族にとって角や毛など、自分の特徴をケアし合うことは大事なコミュニケーションになっている。わたしの家族もよく角のケアを互いにし合っている。イルフェ兄さまには角はないけどその分他の家族の角のケアをしてくれてる。
 まずお湯にタオルを浸し、ホカホカのタオルで兄さまの角の汚れを落としていく。
「やっぱりミィの手は特別だね」
 ソファに寝っ転がったリーフェ兄さまが言う。
 わたしの手は魔族や人間に関わらず生物を癒す手らしい。ただ自分にはその癒しができないのが残念。
 丁寧に兄さまの角をきれいにしていった。

「ありがとうミィ」
 ちゅっとリーフェ兄さまがおでこにちゅーしてくれた。
「さてミィ、お勉強と兄さまの仕事」
「兄さまのお仕事についていきます」
「即答だね。そんなにお勉強嫌い?」
「きらいです」
 お勉強するとただでさえ眠いのにさらに眠くなっちゃうのです。一日何時間ミィを寝かせる気なんですか。

 わたしはすっぽりと段ボールの中に納まりました。そしてわたしを段ボールごと兄さまが持ち上げてくれます。
「じゃあ行こうか」
「はい」

 リーフェ兄さまのお仕事は民の声を聞いて必要があればそれに対処することだ。大体は書面で寄せられるものに目を通して、しかるべき対処をする。

 だが、今日は珍しく直接お客さんが来ていた。
 応接室でお客さんのお話を聞く。
 ミィも兄さまの隣で真面目に話を聞いてますよ。

「―――触れない狐?」
「はい、人間界との国境付近で傷だらけの狐を見つけたのですが、なぜかその狐に触れないのです。できれば手当をしてあげたいのですが……」
「……それは気になるね。人間側の罠かもしれないし、すぐに向おう」
 






 そうして、わたし達はその狐が保護された場所まで転移した。ちょっと離れたところに砦が見えます。

 狐は誰も触れないので地面に寝そべったままになっていた。お客さんが狐に触ろうとすると、結界のようなものに手が弾かれる。
 お客さんは手をさすりながらこっちを向いた。

「このように、狐を動かすこともできないのです」
「この狐反抗期なんですかね兄さま」
 わたしは狐の頭を人差し指でツンツンとつついた。
「!? ……ミィはなんで触れてるんだい」
「はっ! 兄さま、狐に触れましたよ」
「そうだねぇ」
 無意識に狐をつついてました。びっくりなのです。
 ついつい動いちゃう子どもの本能怖いです。

 兄さまはしゃがみ、わたしの背中に手を置いた。
「ミィ、そのまま狐さんの傷を治せるかい?」
「やってみます」
 今こそわたしの癒しの手の出番なのです!
 癒しの手は無意識でも発動するけど意識した方が効果は高い。狐さんの傷を治すように意識を集中させます。

 わたしは狐の頭を撫で撫でしました。傷口を直接触っちゃうと痛いから、頭をなでなでして体全体に癒しの力を届ける。

 するとみるみるうちに狐の傷口が塞がっていった。

「おおっ!」
 治った。

「兄さま兄さま」
 兄さまを見ながらぴっぴっと狐を指さす。
「うんうん偉いねぇミィ。狐さん治ったねぇ」
 兄さまが頭を撫でて褒めてくれる。

「―――キュィ……」
 狐が小さな声で鳴いた。先程まで閉じられてた目が薄っすらと開かれている。
「兄さま、狐起きました!」
「起きたね」

 そして、狐の目がパッチリと開かれた。
「キュ……」
 狐の長い鼻先をわたしの手にスリスリしてくる。
 ―――か、かわいいのです。

 わたしは結構大きめな狐のモフ首に腕をまわして抱き着いた。
「兄さまこいつかわいいやつです。うちで飼ってもいいですか?」
「だめです! 元いた場所に返してきなさい!」
「……」
 三秒ほど兄さまと見つめ合う。

 わたしは狐をそっと地面に置いた。
「返しました」
「返したね」
「飼ってもいいですか?」
「うんいいよ」
 さっきのは言いたかっただけなのか、今度はあっさりと許可が出た。

「さっき『察知』したけどこの狐から悪い気配は感じなかったしね。まぁミィに危害を加えるようだったら毛皮にしてミィの防寒具にしようね」
「モフ丸はいい子ですよ兄さま」
 モフ丸と呼んだ瞬間モフ丸が唸りだした。こらこら、いい子にしないと毛皮街道まっしぐらですよ。
 わたしはどうどうとモフ丸をいさめる。

「さすがミィ。とてもセンスのいい名前だね」
「ミィもそう思うのです」
 兄さま達は基本なんでも褒めてくれます。わたしは兄さま達の優しさで生かされてるのです。

「さあモチ丸、ミィと帰りましょうね」
「早速名前間違ってるよミィ」
「おっと。ケアレスミスです」
「見直しはしっかりしようね」

 まだちょっと不服そうなモフ丸は抱っこして帰ることにしよう。そう思ってモフ丸の脇に手を差し込んで抱き上げた……。
「……」
「……ちょっと余りましたね」
 予想以上に伸びたモフ丸はわたしが抱き上げても余裕で後ろ足が地面についてる。モフモフの尻尾も若干機嫌悪そうに地面を這い回ってます。

 ちがいます。わたしが小さいんじゃないです。モフ丸がでかいんです。
 わたしは一旦モフ丸を下ろした。

「ふぅ……。モフ丸、あなたはできる子なのです。自力で歩きましょうね」
「キュウウウ……」
 モフ丸は胡乱な目をしつつも大人しくついてきた。
「じゃあミィお家に帰ろうか」
「はい」
 リーフェ兄さまに抱き上げられ、転移でお家に帰る。


 ミィ、新しい家族が出来ました。






しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

処理中です...