心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑭~

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そしてこれは――――結人も夜月も知らない、二人の話。 琉樹は結人の家へ行き謝り終えた後、自分の家へ向かって母と一緒に歩いていた。
―――どういう、ことだ・・・?
琉樹は今の状況をよく理解できていない。 
夜月から『色折が理玖を病院送りにさせた』と聞き、今まではその仕返しのため結人に手を出していたのだが、それが今日未来の発言によって打ち消された。
『ユイは理玖を病院送りになんかさせていない』 これは一体、どういうことなのだろうか。
―――まさか・・・夜月が俺に嘘を教えたのか?

そう――――琉樹は夜月から嘘の情報を教えてもらったことに、気付いてしまったのだ。

「兄ちゃん」
「ッ、理玖・・・」
自分の家へ戻り玄関の扉を開けると、すぐそこには理玖が悲しそうな顔をして立っていた。 二人の間に気まずい沈黙が流れる中、母は淡々と靴を脱ぎ家の中へと入っていく。
「じゃあお母さん、晩御飯を作ってくるわね」
そう言って空気を読んでくれたのか、足早にこの場を去っていく彼女。 だけど二人は母の方へは一度も目を向けず、互いに静かに見据え合っていた。 
そしてこの気まずい沈黙を破るかのように、理玖はそっと口を開き言葉を放つ。
「・・・結人をいじめていたのは、兄ちゃんだったんだ」
「・・・」
残念そうな顔をしながら震えた声で放たれた事実に、何も言えなくなった琉樹は黙って視線をそらした。 だがその様子を見て、弟である理玖は大きな声で言葉を投げる。
「もう結人には近付かないで!」
その一言を聞き、慌てて事情を話そうとした。 大切な弟である理玖から、信用を失わないために――――
「いや、理玖、これは誤解なんだ。 確かに結人くんをいじめていたのは俺だけど、これはわざとじゃない。 だってこれは」
「兄ちゃんなんて、もう最低だ!」
「ッ・・・。 理玖!」
言い訳は聞きたくないと思ったのか、大きな声でその言葉を吐き捨てこの場から走り去ってしまった。 そんな理玖を止めようとするが、彼は止まってはくれない。

この瞬間――――琉樹は理玖から、信用を失ったのだ。

―――どうして、どうしてこうなった・・・!
―――そうか・・・これは全て、夜月のせいなのか・・・。
―――夜月が俺に嘘の情報を与えなければ、理玖はまだ俺のことを信用してくれていたのに・・・ッ!
―――夜月の奴・・・絶対に許さねぇ!

夜月と結人が知らない間では、二人はこのような会話を繰り広げていた――――





翌日 朝 学校 教室


学校へ登校して早々、理玖は結人のもとへと駆け寄った。 静かに席に座りながら黙々と授業の支度をしている結人に、小さな声で声をかける。
「・・・結人」
「ッ・・・。 何?」
突然呼ばれ驚きながらもそう返すと、理玖は目を泳がせながら小さな声で言葉を紡ぎ出した。
「えっと、その・・・。 前に見た身体のアザ、結人は僕の兄ちゃんにやられていたんだね」
「ッ・・・」
その発言に思わず反応をし俯いてしまうと、深く頭を下げ今度は大きな声で発してくる。
「僕のせいで、結人に苦しい思いをさせちゃって本当にごめん! それに結人とはずっと一緒にいたのに、今まで気付くこともできなかった・・・」
申し訳なさそうな表情で謝られると、結人はゆっくりと顔を上げ首を横に振った。
「ううん、大丈夫。 もう、いいよ」
そう返した瞬間、理玖は少し驚いた表情を見せる。
「え・・・。 いや、結人! もっと僕に言い返してこいよ!」
だけど結人は、また首を横に振った。
「ううん。 これは僕が悪いんだ。 だから理玖のことも琉樹さんのことも、悪くは言えないよ」
「どうして・・・」
なおも心配そうな表情で見つめ返してくる彼に、今度は優しく笑ってみせる。
「ありがとう、こんな僕を心配してくれて。 でも本当に、もう大丈夫だから」
「結人・・・」
これで琉樹からのいじめはなくなったとはいえ、結人の心に深い傷を負わせたのは、間違いなかった。





昼休み


午前の授業も無事に終え、結人は今日の昼休みから理玖と一緒に過ごすことができた。 それはもちろん、琉樹に解放されたから。 
少し懸念を抱きつつも、理玖との距離を少しずつ戻していった。 だが昼休みに入り、結人と理玖が二人で話していると――――別のところでは、違うことが起きようとしている。

「おい夜月。 ちょっと来い」

普段とは違い低い声のトーンで言葉を放した少年――――琉樹は、理玖たちに気付かれないよう夜月をこっそりと呼び出した。  場所はお馴染である――――裏庭だ。 
そこへ着き、琉樹は距離を縮ませ夜月を壁側に寄せる。 簡単に、逃げられないように。 そして俯いたままで何も言葉を発しようとしない夜月に、大きな声で言葉を放った。
「夜月、よくも俺を騙したな! どうして俺に嘘の情報を与えたんだ!」
琉樹は普段とても優しい性格のため、人に対して滅多に怒ったりはしない。 だが怒る時は、一つだけ特徴があった。 それは――――彼が大切にしている、弟のこと。
弟の身にもし何かが起これば、兄である琉樹は黙ってはいない。 そこまでも、弟思いなのだから。 
そして夜月も、どうして彼がこんなに怒っているのか理由は分かっていた。 

そして――――自分が、琉樹の怒りの火種を撒いた、ということも。

「いや、別に嘘は・・・」
「あの時お前が素直に『理玖は本当に事故だったんだ』と言えば、こんなことにはならなかった。 色折にも手を出さずに済んだ! 
 なのにどうしてあの時、色折の名を口にしたんだ!」
「・・・」
何も言わずに口を噤んでしまった夜月を、琉樹は睨み付けながら――――冷静かつ力強い口調で、こう言葉を放った。

「俺は夜月のせいで、理玖からの信用を失った。 大切な弟から信用を失ったんだ。 こんなこと、簡単に許されると思うか? ・・・俺はお前を絶対に許さない。 
 この一生をかけて・・・お前に、後悔させてやる」

夜月はこの時、何も感情を抱かなかった。 
だってそれは今でも結人のことを嫌っていたため、あの時琉樹の前で結人の名を出したことについては、後悔なんかしていなかったからだ。
それに夜月は、この期間結人は琉樹にいじめられていたことを知っていた。 だけどそんな彼を、見て見ぬフリをしていた毎日。 
大嫌いな結人が人からいじめられているのを見ると、何だか気持ちがスッキリしたのだ。 だから何も言わず、その光景を黙って眺めていた。

だがこの先――――夜月は、あの時結人の名を出してしまったことに、ようやく後悔し始める。 どうしてあの時、結人のことが思い浮かんでしまったのだろうか。
名を口に出さなければ、この先夜月は苦しい思いをしなくても済んだというのに。 
それに――――今まで理玖の兄として仲よくしてもらっていた琉樹にいじめられるなんて、思ってもいなかったというのに。 

そして琉樹は――――これを機に、性格が徐々に荒れていった。 あんなに弟思いで友達思いだった彼の私生活が、どんどん荒れていく。 
人にすぐ手を出すようになったり、学校や学校以外でも、たくさん問題を起こすようになった。 これらは全て、弟から信用を失ったストレスからきている。 
これはすぐには直らなく、これからもずっと続くことになる。 そしていつの間にか日にちが経ち、1年生が終わってしまう。

こうなってしまったのも全て――――夜月のせい。


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