心の交差。

ゆーり。

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結人と夜月の過去。

結人と夜月の過去 ~小学校一年生⑮~

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現在 電車の中


「ここまでが・・・1年の時の話かな」
席に座り、小さく揺られながら夜月は静かに口にする。 
苦しい過去と向き合う時がきた今、彼は覚悟を決めたような表情をしているが、実際は視線をどこへ向けたらいいのか分からず、ずっと目が泳いでいた。
「・・・本当に、二人の過去はあまりよくないものだったんだな」
続くように、その場に合わせた小さな声で言葉を発した伊達。 それを聞き、夜月はゆっくりと頷いた。
「あぁ、だから言っただろ。 ・・・話を聞いて、予想していたものよりも酷い過去だと思ったか?」
なおも視点が合わない彼に、慌てて首を横に振る。
「いや、そこまでは!」
そして続けて、今度は冷静な口調で言葉を紡ぎ出した。

「・・・そう言えば、理玖くんっていう子は今どこに?」

「あぁ、理玖の話はまだ終わっていないから、それは話し終えた後でもいいか」
「あ、いいよ! 何かごめん、先走っちゃって」
伊達は一度興奮状態から冷めるため、一度深呼吸をして再び口を開く。
「でも本当に、理玖くんが目覚めて、退院もできてよかったな」
「本当だよ。 でももしあの時、理玖が目覚めていなかったら、俺は・・・」
「・・・いいよ。 無理して、深く考えなくて」
苦しい過去を思い出し心苦しそうな表情を見せる夜月に、伊達は優しい口調でそう言った。 その言葉に頷くと、ようやく結人の方へ視線を移す。
「・・・ユイ」
「・・・」
結人は名を呼ばれながらも、夜月と視線を合わすことができず、ずっと俯いたままでいた。 だがそんなことには構わず、ゆっくりと言葉を綴っていく。
「前に琉樹さんが言っていた『夜月のせいでユイは俺にいじめられていた』っていうのは、このことだ。 
 俺があの時ユイの名前を口にしなければ、ユイは琉樹さんにいじめられることはなかった」
「・・・」
そして――――夜月は初めて結人に向かって、あの言葉を発した。

「今まで言えずにいてごめん。 あの時俺はユイのことを酷い扱いして、琉樹さんにもいじめられていた。 それは全て俺のせいだ。 今まで・・・悪かった」

「ッ・・・」

この瞬間――――結人の目からは、薄っすらと涙が浮かぶ。 だけど流すのは何とか堪え、歯を食いしばった。 結人はこの時――――初めて夜月から謝られたのだ。
小学校1年生の時から今までは一度もなかった。 別に謝られるのを待っていたわけではないが、夜月からその言葉が聞けて素直に動揺を見せる。
だがそんな結人にも構わず、彼は続けて自分の思いを紡いでいく。
「理玖は本当に事故だったんだ。 なのにどうして俺は、あの時ユイの名前を口にしてしまったんだろう。 ・・・本当に、最低だ」
「・・・」
そして次に、結人から聞いた初めての情報に対しての感想を綴った。
「それに、理玖が事故に遭った当日、ユイは理玖にあんなことを言っていたんだな。 あれは俺たちの関係を壊さないために、あぁ言ったのか?」
それは――――結人が理玖に『しばらく僕たちは関わらない方がいい』と、言った時のこと。 あれは確かに、理玖と夜月の関係を崩さないために言ったものだった。
邪魔者は退散した方がいいと思った結人は、彼らのことを考えそう口にしたのだが――――
「今の話を聞いている限り、俺はユイに苦しい思いをたくさんさせちまっていたんだな。 ・・・毎日俺のことで、思い悩んでいたんだろ。 
 そんなユイの気持ちにも気付けなかったなんて、本当に俺は最低だ。 
 ユイは何も悪いことをしていないのに、俺は冷たい態度をとったり琉樹さんにいじめられたりもした。 それにあの時・・・ユイの首を絞めて、殺そうともした」
そして――――夜月はもう一度、結人に向かってあの言葉を言い放つ。

「このことは、簡単に許してくれだなんて思っていない。 それでも、謝らせてほしい。 ・・・ユイに今まで苦しい思いをさせて、本当にごめん」

「ッ・・・」

再び涙が出そうになるのを、必死に堪えた。 その代わり結人は――――小学校1年生の時に見せていた無邪気の笑顔を、夜月に向かって見せる。
「俺は大丈夫。 気にしないで」
そしてまた――――小学生の頃よく発していた言葉を、この場で口にしたのだ。 それを耳にした夜月は、当然苦しそうな表情を見せる。
「ユイ・・・」
「本当に俺、大丈夫だから」
「・・・どうしてユイは、昔から何も変わんねぇんだよ」
その問いに対しても、間を空けることなく笑顔で答えていく。
「どうしてって、これが俺だからだよ。 だからもう、どうしようもねぇだろ?」
そして――――過去の話を聞いて、思ったことを素直に口にした。
「でも、俺を避けていた理由が嫉妬だったなんてな・・・。 可愛いじゃんか」
初めて聞いた、夜月が結人を避けていた本当の理由。 結人は当時、彼に嫌な思いをさせてしまったのかと思い色々悩んでいたのだが、ただの嫉妬と聞いてどこか安心した。
「気持ち悪いことを言うなよ。 今思えば、俺はそんな理由でユイに」
「だから、俺は大丈夫だっての」
「・・・」
今更夜月の事情を知っても、嫌な思いは抱かない。 結人は彼から本当の理由を聞けただけで、それだけで満足だった。 それに――――

「今こうして夜月と仲よくできているなら、俺は不満なんてねぇよ」

「・・・」
笑顔で返すと、夜月は何も言うことができなくなったのか視線をそらしてしまう。 そんな彼を見て、結人は優しく微笑んだ。 
その瞬間――――二人の視界に、一人の少年が遮る。
「えっと・・・。 二人で、話す?」
結人と夜月の間に座っていることが苦痛に感じてきたのか、伊達は席から立ち上がり苦笑しながら言葉を挟んできた。 それを見て、首を小さく横に振る。
「いや。 続きを話そうか」
「そうだな。 とりあえず伊達、座れよ。 伊達が俺たちの間にいてくれた方が、話しやすいからさ」
結人に続けて夜月もそう口にすると、伊達は言う通りにもう一度二人の間に腰を下した。 そして1年生の時の話が終わった今、次は2年生の話を始めようとする。
「2年生は・・・そうだな。 俺があの時ユイの名前を出したせいで、琉樹さんは理玖からの信用を失った。 そのせいで俺は・・・琉樹さんから、たくさんの仕返しを受けたんだ」


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