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第6章 第2話 日笠美玲 アイドルデビュー
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「ゲームのNPCが誘拐された…?話の筋が見えませんわね」
「順を追って説明します」
巴はまず“lunar eclipse project”というゲームに、自我を持つNPCがいる事を伝えた。そしてNPC達の一人がゲームの領域外に出た事、自分の友人が奮闘したがテロ組織に誘拐された事を秋亜に話した。
「自我を持つNPC…元はユーザーだったかも知れないという事ですわね」
「はい、本来ゲームの外に出られないはずの存在がストリートに現れて、最後はテロ組織に誘拐されてしまった…どんな事態を招くか分かりません」
秋亜は神妙な面持ちで、巴からの情報を聞いていた。本来自我など必要ないはずのNPCに心があるというのは信じ難い話だが、巴の事は信用していた。
「分かりましたわ。すぐに手伝ってもいいのですが…」
秋亜が持ち出したのは、日笠美玲というアイドルの資料だった。デビュー前のアイドルらしく、財団外に資料を持ち出すのは禁止とされている。
「彼女のアイドルとしてのデビューを、手伝ってくれるでしょうか? 015はアイドルへの注目度が低いのですわ…」
ーー
「あなたが手伝ってくれるの?アイドルをプロデュースした経験とか無さそうだけど?」
「…プログラマーやってるよ」
アナザーアース、アカデミーブロックの研究室にやって来たのは明るい茶色の髪の少女だった。中々に気が強い性格らしく、狭い研究室の中でも堂々と立っている。
「あなたも007出身なんだ。田舎を出たかったの?」
「あんなジジババばっかりのエリア、退屈過ぎて住んでられないよ」
鼎は同じエリア出身の美玲に興味を持ったが、彼女はその事についてはあまりに気にしていなかった。それよりも、巴の研究室にいた鼎と桃香がちゃんと協力してくれるのかが、気になっていた。
「あなた達も手伝ってくれるの?何できる?」
「私は探偵やってる」
「探偵の仕事でアイドルに関わった事は?」
「…犯罪に手を染めている可能性があるアイドルに関する調査はやった事がある」
アナザーアースにもアイドルはいるが、現実と同じで裏がある者もいる。鼎はそういう人物の調査をした結果、彼氏がいる事を突き止めてしまったり薬物の売買に手を染めている現場を撮影した事もある。
「ふーん…まあそういうの見た事ある人なら、むしろいい味方かも」
「私はパパラッチみたいな奴じゃなくて探偵だから」
美玲が次に視線を向けたのは、鼎の近くにいた桃香の方だった。桃香の方は美玲に対する興味がほとんど無いらしく、デバイスでブラックエリアの様子をチェックしている。
「あなたは何をしているの?」
「ブラックエリアで賭場を仕切ってるよ」
「賭場ってそれ違法でしょ?!犯罪者じゃん!」
「帰る」
一瞬で美玲に犯罪者認定された桃香は、さっさと研究室から出て行ってしまった。それを見ていた鼎は、少し呆れている様子だった。
「まあ犯罪者扱いもしょうがないよね…」
「ていうか本当に手伝ってくれるつもりなの?」
「情報を拡散したりする程度なら、できる」
「私のデビューの手伝いしてる暇無いんじゃない?隣の部屋にいる子は大丈夫なの?」
愛莉は研究室の隣に用意した即席の病室で眠っている。彼女の記憶はまだ戻っておらず、精神的にも安定していない。
「愛莉については焦ってもしょうがない。エンシャント財団が協力してくれれば、人手が増える。あなたのアイドルデビューを手伝うよ」
「…分かった。私もアイリって子の回復を祈ってる」
たが、鼎の情報拡散能力は普通の一般人と同等レベルである。鼎は、巴が何をするかが重要になると考えているが…
ーー
「さっきのアイドルのデビュー、どうするの?」
「インターネット上の電子掲示板を使う。今回はアナザーアースだけじゃキツい」
「電子掲示板?碌でもない奴がいっぱいいるんじゃない?」
「でもあそこの連中の拡散力は侮れないよ」
鼎にとっては、電子掲示板で好き勝手言っている連中に対する印象はかなり悪い。それだけではなく、鼎が懸念している理由は他にもあった。
「拡散力があるのは分かるけどその程度じゃダメ。まとめサイト系のアフィリエイトブログを頼らないと…」
「そっちの管理人にも頼んでみるよ」
「悪意のある情報がばら撒かれたら…」
「そこはエンシャント財団がしっかり監視しているから大丈夫」
あまり知られていないがエリア015には、独自のインターネット監視システムがある。エンシャント財団はそれを用いて、電子掲示板やアナザーアース内での評判をチェックしているのだ。
「他のエリアじゃ絶対に反発が起こるシステムだね…」
「015だと、悪質な書き込みがなくて助かるって言われてるよ」
兎も角、これで美玲に対する誹謗中傷に対して即座に対処できる。悪質な書き込みを排除しつつ、アイドルデビューの情報を拡散するのだ。
ーー
「もうすぐ楽曲発表。こっちの下準備は進めているけど…」
「私は発表の直後に“期待の新人アイドル”の情報を発信する。鼎も拡散してくれるみたい」
美玲のデビュー楽曲の発表まで、あと1時間だった。万全の準備はしてあるのだが、それでも彼女は不安そうだった。
「そういえば桃香もブラックエリアで何かやってたよ」
「それ聞くと不安になる…」
桃香は賭場の連中を協力させると言ってから、連絡に応じなくなった。鼎は「余計なことしなければいいんだけど」と言っていたが…
ーー
このアイドル、どう?
普通だな。
よく見たらエンシャント財団の広告塔じゃん…
顔は悪くないだろ。
ーー
美玲のアイドルデビューの結果は、まずまずといったところだった。
誰にも見向きもされないという、最悪の事態だけは防ぐ事が出来た。
「エンシャント財団のアイドルとしてそこそこ話題になってるよ。良かった…」
「こんなに話題になるなんて…」
話題になっている事に一番驚いているのは、何故か美玲本人だった。どうやらアイドルデビューの自信は、あまりなかったらしい。
「底辺から成り上がるアイドルってのは、フィクションの世界くらいにしかいないと思うよ」
「本当に最初から人気が出ないアイドルは簡単に見捨てられるから…」
鼎もそこまで詳しい訳では無かったが、美玲が芸能界に詳しくないのも仕方ない。彼女は芸能事務所に所属しているタレントではなく、エンシャント財団所属のローカルアイドルに近い存在だからだ。
「そう言えば桃香って人は…」
「賭場で情報を拡散したみたい。今日も来てないけど…」
桃香はアナザーアースのアンダーグラウンドである、ブラックエリアで情報を拡散した。幸い発生した問題は表沙汰になる前に、エンシャント財団が処理したようだ。
「おっと秋亜さんからメッセージ…リアルで呼び出されたから、行ってくるよ」
ーー
「おーほっほっ…美玲のアイドルデビューは無事成功しましたわね」
「話題にはなっています。ほっとしました」
秋亜は相変わらずのハイテンションだったが、巴はいつも通り接していた。巴は、美玲の人気が思ったほど出なかったといって落ち込んでいると思っていたのだが…
「最初から大人気になる事は望んでいません。ここから少しずつ人気を上げていくのは我々の仕事ですわ。それと、美玲自身の努力ですわね」
秋亜もアイドルの仕事を管理するのは、初めてである。今回のエンシャント財団は手探りの状態で始める事が、とても多い。
「それでは、誘拐された少女の詳細なデータを見せてくださいな」
「分かりました。…協力してくれるんですね」
それを聞いた巴は、優しげに微笑んだ。
「私が、約束を破るはずありませんわ」
「順を追って説明します」
巴はまず“lunar eclipse project”というゲームに、自我を持つNPCがいる事を伝えた。そしてNPC達の一人がゲームの領域外に出た事、自分の友人が奮闘したがテロ組織に誘拐された事を秋亜に話した。
「自我を持つNPC…元はユーザーだったかも知れないという事ですわね」
「はい、本来ゲームの外に出られないはずの存在がストリートに現れて、最後はテロ組織に誘拐されてしまった…どんな事態を招くか分かりません」
秋亜は神妙な面持ちで、巴からの情報を聞いていた。本来自我など必要ないはずのNPCに心があるというのは信じ難い話だが、巴の事は信用していた。
「分かりましたわ。すぐに手伝ってもいいのですが…」
秋亜が持ち出したのは、日笠美玲というアイドルの資料だった。デビュー前のアイドルらしく、財団外に資料を持ち出すのは禁止とされている。
「彼女のアイドルとしてのデビューを、手伝ってくれるでしょうか? 015はアイドルへの注目度が低いのですわ…」
ーー
「あなたが手伝ってくれるの?アイドルをプロデュースした経験とか無さそうだけど?」
「…プログラマーやってるよ」
アナザーアース、アカデミーブロックの研究室にやって来たのは明るい茶色の髪の少女だった。中々に気が強い性格らしく、狭い研究室の中でも堂々と立っている。
「あなたも007出身なんだ。田舎を出たかったの?」
「あんなジジババばっかりのエリア、退屈過ぎて住んでられないよ」
鼎は同じエリア出身の美玲に興味を持ったが、彼女はその事についてはあまりに気にしていなかった。それよりも、巴の研究室にいた鼎と桃香がちゃんと協力してくれるのかが、気になっていた。
「あなた達も手伝ってくれるの?何できる?」
「私は探偵やってる」
「探偵の仕事でアイドルに関わった事は?」
「…犯罪に手を染めている可能性があるアイドルに関する調査はやった事がある」
アナザーアースにもアイドルはいるが、現実と同じで裏がある者もいる。鼎はそういう人物の調査をした結果、彼氏がいる事を突き止めてしまったり薬物の売買に手を染めている現場を撮影した事もある。
「ふーん…まあそういうの見た事ある人なら、むしろいい味方かも」
「私はパパラッチみたいな奴じゃなくて探偵だから」
美玲が次に視線を向けたのは、鼎の近くにいた桃香の方だった。桃香の方は美玲に対する興味がほとんど無いらしく、デバイスでブラックエリアの様子をチェックしている。
「あなたは何をしているの?」
「ブラックエリアで賭場を仕切ってるよ」
「賭場ってそれ違法でしょ?!犯罪者じゃん!」
「帰る」
一瞬で美玲に犯罪者認定された桃香は、さっさと研究室から出て行ってしまった。それを見ていた鼎は、少し呆れている様子だった。
「まあ犯罪者扱いもしょうがないよね…」
「ていうか本当に手伝ってくれるつもりなの?」
「情報を拡散したりする程度なら、できる」
「私のデビューの手伝いしてる暇無いんじゃない?隣の部屋にいる子は大丈夫なの?」
愛莉は研究室の隣に用意した即席の病室で眠っている。彼女の記憶はまだ戻っておらず、精神的にも安定していない。
「愛莉については焦ってもしょうがない。エンシャント財団が協力してくれれば、人手が増える。あなたのアイドルデビューを手伝うよ」
「…分かった。私もアイリって子の回復を祈ってる」
たが、鼎の情報拡散能力は普通の一般人と同等レベルである。鼎は、巴が何をするかが重要になると考えているが…
ーー
「さっきのアイドルのデビュー、どうするの?」
「インターネット上の電子掲示板を使う。今回はアナザーアースだけじゃキツい」
「電子掲示板?碌でもない奴がいっぱいいるんじゃない?」
「でもあそこの連中の拡散力は侮れないよ」
鼎にとっては、電子掲示板で好き勝手言っている連中に対する印象はかなり悪い。それだけではなく、鼎が懸念している理由は他にもあった。
「拡散力があるのは分かるけどその程度じゃダメ。まとめサイト系のアフィリエイトブログを頼らないと…」
「そっちの管理人にも頼んでみるよ」
「悪意のある情報がばら撒かれたら…」
「そこはエンシャント財団がしっかり監視しているから大丈夫」
あまり知られていないがエリア015には、独自のインターネット監視システムがある。エンシャント財団はそれを用いて、電子掲示板やアナザーアース内での評判をチェックしているのだ。
「他のエリアじゃ絶対に反発が起こるシステムだね…」
「015だと、悪質な書き込みがなくて助かるって言われてるよ」
兎も角、これで美玲に対する誹謗中傷に対して即座に対処できる。悪質な書き込みを排除しつつ、アイドルデビューの情報を拡散するのだ。
ーー
「もうすぐ楽曲発表。こっちの下準備は進めているけど…」
「私は発表の直後に“期待の新人アイドル”の情報を発信する。鼎も拡散してくれるみたい」
美玲のデビュー楽曲の発表まで、あと1時間だった。万全の準備はしてあるのだが、それでも彼女は不安そうだった。
「そういえば桃香もブラックエリアで何かやってたよ」
「それ聞くと不安になる…」
桃香は賭場の連中を協力させると言ってから、連絡に応じなくなった。鼎は「余計なことしなければいいんだけど」と言っていたが…
ーー
このアイドル、どう?
普通だな。
よく見たらエンシャント財団の広告塔じゃん…
顔は悪くないだろ。
ーー
美玲のアイドルデビューの結果は、まずまずといったところだった。
誰にも見向きもされないという、最悪の事態だけは防ぐ事が出来た。
「エンシャント財団のアイドルとしてそこそこ話題になってるよ。良かった…」
「こんなに話題になるなんて…」
話題になっている事に一番驚いているのは、何故か美玲本人だった。どうやらアイドルデビューの自信は、あまりなかったらしい。
「底辺から成り上がるアイドルってのは、フィクションの世界くらいにしかいないと思うよ」
「本当に最初から人気が出ないアイドルは簡単に見捨てられるから…」
鼎もそこまで詳しい訳では無かったが、美玲が芸能界に詳しくないのも仕方ない。彼女は芸能事務所に所属しているタレントではなく、エンシャント財団所属のローカルアイドルに近い存在だからだ。
「そう言えば桃香って人は…」
「賭場で情報を拡散したみたい。今日も来てないけど…」
桃香はアナザーアースのアンダーグラウンドである、ブラックエリアで情報を拡散した。幸い発生した問題は表沙汰になる前に、エンシャント財団が処理したようだ。
「おっと秋亜さんからメッセージ…リアルで呼び出されたから、行ってくるよ」
ーー
「おーほっほっ…美玲のアイドルデビューは無事成功しましたわね」
「話題にはなっています。ほっとしました」
秋亜は相変わらずのハイテンションだったが、巴はいつも通り接していた。巴は、美玲の人気が思ったほど出なかったといって落ち込んでいると思っていたのだが…
「最初から大人気になる事は望んでいません。ここから少しずつ人気を上げていくのは我々の仕事ですわ。それと、美玲自身の努力ですわね」
秋亜もアイドルの仕事を管理するのは、初めてである。今回のエンシャント財団は手探りの状態で始める事が、とても多い。
「それでは、誘拐された少女の詳細なデータを見せてくださいな」
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それを聞いた巴は、優しげに微笑んだ。
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