Welcome to Another Earth

八神獅童

文字の大きさ
上 下
7 / 75

第1章 第3話 張り巡らされし道

しおりを挟む
「本来人がいないエリアなのにユーザー反応があって気になったから、調査しに来てたんだ」

愛莉達を助けた巴は、彼女達と共に暗い通路を歩いていた。あちこちにデータ処理用のチューブが張り巡らされていて、余計に狭いと錯覚させられる。

「あの…助けてくれて、ありがとうございます」

「ま、放っておけないでしょ。さっきの穴はもう塞がってるから、追手が入って来る心配はないよ」

愛莉は巴に感謝していたが、今歩いている通路は何なのか疑問に思っていた。本来アナザーアースでは、そもそも"壁が物理的に崩れる"という現象事態起きないはずだが…

「この通路ね、私が作ったの」

「アナザーアースの壁の中に道を…特に権限は持ってないですよね?」

「持ってないよ。プログラムを壊して道を作ったけど、許可は取ってないな」

「…それって違反行為じゃないですか」

「この辺り、ちゃんとメンテナンスが行われてないから…私の勝手でしょ」

(この人…大丈夫なのかな?)

アナザーアースの利用規約に違反している事を気にしていない巴を見て、朱音は不安になっていた。愛莉よりも小柄な体格の巴が何者なのかも、朱音は把握できていない。

「愛莉さん…この人は誰なんです?」

「私は西園寺巴、アカデミーの研究者だよ」

「アカデミーの研究者?愛莉さんより年上なんですか?」

「そうだよ。ちょーっとだけ背が低いから分かりにくいかもしれないけどね」

(割とちっちゃい気が…)

「君が何考えてるか分かってるよ。その内私も、大人らしい体型になるさ」

西園寺巴は小柄な体格な上に幼い顔立ちだったので、中学生と間違えられても無理はないだろう。19歳の彼女がこれから背が伸びるというのも、非常に怪しい話である…

「さて、と…それじゃあ早く鼎と合流しないとねね」

この通路を通れば、賭場の追手に追いつかれる心配は無いだろう。愛莉は足止めをしてくれた鼎の所に早く行きたかった。

「この辺りに来てるのは、賭場の連中だけじゃなさそうなんだよね…」

「どういう事ですか?」

「データが改竄されているせいでよく分からないユーザーがこの辺りを出入りしている…賭場とは関係ない妙な奴らもここを出入りしてる可能性があるんだ」

「…危険な人の可能性が高いんですよね?」

ユーザーデータを改竄している人は、大抵が後めたい事情を持つ者だ。そうした者がこのブロックで良からぬ事をしようとしている可能性が高いのだ。

「私たちも監視されている可能性がある」

「え…何の目的で?」

何者かに監視されていると聞いた愛莉は、不安になっていた。彼女は、自分にも危害が及ぶ可能性がある事を恐れていた。

「早く鼎と合流して、その子をログアウトさせないとね…」

ーー

「はぁっ…ぐっ!」

「よく頑張るなぁ」

鼎のアバターは既に関節がいくつか破壊されていて、満身創痍の状態だった。美しい体つきをしたアバターだったが、既にあちこちでノイズが発生して痛々しい見た目になっていた。

「あの子に手を出させは…」

「俺らはロリコンじゃねえよ。依頼人に引き渡すだけさ」

アバター売りに雇われた男達は、既にボロボロの鼎を放置して朱音を探しに行こうとした。鼎は立ち上がるのも困難な状態で、彼らを止める事は不可能だった…

ガンッ!

「がはっ⁉︎」

「な、何が…」

朱音を探しに行こうとした男たちが、突然吹っ飛んだ。吹っ飛ばされた男のアバターは、既に頭部の損傷が激しい状態だった。

「ふー、スッキリした」

「桃香…ありがとう」

「どういたしまして。他の追手も全員倒したはずだよ」

「もう…?やっぱり貴方、すごいのね」

ネカマ呼ばわりにブチ切れた桃香は、アバター売りとその部下を既に殲滅していた。関節など重要部分を破壊していたので、追手達は既に再起不能になっていた。

「彼ら…放置して大丈夫かな?」

「その内勝手にログアウトさせられるから、問題ないよ」

アバターが大きなダメージを負っても、現実の肉体に害はない。もちろん、アナザーアース内でした行為について、現実で取り調べを受ける事になる可能性はあるが…

「それよりも朱音チャンは大丈夫なの?ボク、結構広範囲で暴れたけど、見かけなかったよ」

「何ですって…まさか賭場の人間に捕まったんじゃ…」

鼎達は朱音達のの行方を探す為に、愛莉のデバイスに連絡を取ろうとした。しかし繋がらず、今もこのブロックにいるのか分からない状態だった。

「賭場の人に捕まったとしたら、ブラックエリアに…」

ガシャン!

「うわっ!壁が!」

「鼎大丈夫?随分派手にやられてるように見えるけど」

「巴…ついて来ないんじゃなかったの?」

突然白い壁が崩れて、穴から小柄な体格の女性が顔を出した。小柄な女性…巴に続いて、愛莉や朱音も壁に空いた穴から出て来た。

「カナエさん!大丈夫ですか⁉︎」

「アイリこそ無事で良かった…デバイスに連絡がつかなかったから不安になったよ」

「あー…この通路、普通のデバイスじゃ電波通せないからね」

ーー

「賭場の連中以外にも出入りしてる人間がいるのか…」

「運営の人達じゃないの?」

「運営側のユーザーだったら、ちゃんと情報が読み取れる。今回は改竄されていて、まともに読めなかった」

巴は鼎と桃香にも、賭場の人間以外の出入りがある事を伝えていた。桃香は運営側かもと思ったが、それ以外となると深刻だという事も分かっていた。

「それじゃ、さっさとログアウトエリアに行った方が良さそうね。アカネ、もうすぐ現実に帰れるからね」

「うん…大丈夫、だよね?」

鼎達は巴と一緒に、ログアウトエリアへと急いだ。

わずかな不安を感じながら…
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

専業ネカマの生態

magnet
SF
36歳プロヒキニートが推しの宣伝によりゲームを始めることを決意。コツコツお金を貯め一ヶ月遅れでようやくゲームを始めるも、初心者狩りにカモられ、キャラを削除されてしまう。そんな失意の中、復習に燃える主人公(デブメガネオタク)は二度目のログイン時に前回には無かったキャラクリエイト画面を発見する。そこでは詳細な顔だけでなく、生体認証により選択できなかった性別すら変更可能で…… 人生オワコン男性による怒涛の人生逆転劇!

冴えない理系大生はVRゲーム作って一山当てたい!

千華あゑか
SF
祝日を合わせて4日間の連休。その初日。  もう昼過ぎだというのにカーテンを閉め切った薄暗い部屋。バネの飛び出たベッドの上でVRヘッドセットを付けて、トランクスとTシャツ姿で横になっている男がいた。「レストランで美味しいシーフードを振舞えば美女もイチコロって本当かよ!」などと一人興奮している男"ルパート・アビエス"。  一方、真面目を誇張"体現"したかのように、朝から息が詰まりそうな学術書や論文の数々を開き、コーヒー片手に勉学に没頭する"デイヴィッド・デイヴィス"。  神様が気まぐれを起こさなければ、交わることなんてなさそうなこの二人。一応、エリート校に通う天才たちではあるのだが。どうも、何かが何処かでどういう訳かオカシクなってしまったようで……。  「吸い込まれそうな彼女の青い瞳には、もう君しか映っていない!?」なんて適当な商売文句に興奮しているトランクス姿の残念な男によって、胃もたれしてもまだお釣りが返ってきてあり余るくらいに、想定外で面倒で面倒なことになるなんて。きっと後者の彼は思いもよらなかったでしょう。  絵に描いたような笑いあり、涙あり、恋愛あり?の、他愛ないキャンパスライフをただ送りたかった。そんな、運命に"翻弄"されてしまった2人の物語。さてさてどうなることやら……。 ※ただいま改装中です。もしお読みになられる際は、プロローグからアクセス権限が解除された話数までに留めておかれることをお勧めします。 ※改修しはじめましたが、現在プライベートとの兼ね合いにより定期更新がむずかしい状態にあります。ですが打ち止めとするつもりは毛頭ありませんので、あまり構えず気長にお付き合い頂けますと嬉しいです。 [Truth Release Code] ※No access rights

未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。

kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。 異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。 魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。 なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

終末の運命に抗う者達

ブレイブ
SF
人類のほとんどは突然現れた地球外生命体アースによって、消滅し、地球の人口は数百人になってしまった、だが、希望はあり、地球外生命体に抗う為に、最終兵器。ドゥームズギアを扱う少年少女が居た

処理中です...