鬼畜狼と蜂蜜ハニー《隼人編》

槇村焔

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2章

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 隼人さんと仲直りして、母さんの実家から戻ってきて、はや数日。
俺は、と言うと…

「って、聞いてる?鈴」
「え?なに?」
「ってまた、聞いてなかったのかよー。最近多いぞ鈴」

ぼんやりと呆けていた俺に、剛が呆れた視線をよこした。
 隼人さんと話し合って仲直りして、兄ちゃんともあれから話し合った。今まで兄ちゃんに『我慢させてごめんね、』といえば兄ちゃんは『我慢なんてしてない』と、弱気なことを言う俺に珍しく怒っていた。

母さんに子供が生まれても、たとえ血が繋がっていなくても兄ちゃんにとって俺は“弟なんだ”って。あの普段はクールな兄ちゃんが珍しく熱くなって俺に説教するから、兄ちゃんの前で久しぶりに泣いてしまったっけ。

色々あって今は緊張の糸がキレたみたいに、気の抜けた生活を送っている。
今までも充分、のほほんとマイペースだったけど、最近は自分でもまずいかなぁ…って思ってしまうくらい、頭のネジが外れてしまっていた。夏の暑さもあいまって、日々溶けきってしまっている。

あれから、隼人さんは凄く優しいし、忙しい合間も俺とあってくれるし。昨日だって…ーー。


「おい、鈴鈴ってば!なに赤くなってんだ?」
「なんでもない!あーハンバーガーおいしいなー」

持っていたハンバーガーに食らいつく俺を見て、隼人はわざとらしいため息をこぼした。


「いいなぁ、鈴って。悩みなんかなさそうで」
「失礼な。俺だって、色々考えてるんだぞ」

剛だって、悩みなんてなさそうだけど。
今も部活帰りによったハンバーガーショップで、俺の3倍の量のハンバーガーを1人で平らげているくらいだし、テストで悪い点をとってもあっけらかんとしてるし、おおよそ悩みなんてあるように見えないんだけど。
剛は俺もびっくりするくらい、鋼メンタルなんだから。
なんてったってヤクザの息子だから、強面のお兄さんに囲まれて日々ハラハラな毎日を送っているみたいだからね。


「はいはい…っと。
…あ、上条貴博があのドラマの主演するんだ…」
「え…主演?ちょっと見せて」
剛からスマホを奪い取り画面を覗くとそこには『上条貴博、主演期待作!』というニュース記事がアップされていた。
大物キャストは上条だけじゃなくて、周りの出演陣も大物がキャスティングされている。


「なに、鈴って上条貴博好きだった?それとも原作ファン?
ってか、鈴このドラマの原作知ってる?」
「…知らない…けどーー」
「結構面白いぞ。上条演じる孤独な主人公が、ある女とコンビを組むんだが、次第に命を狙われるようになって…。実はその女が上条の隠し子で、ずっと上条のことを恨んでて…ーー」

 剛は相当な原作のファンのようで、俺に事細かにあらすじを教えてくれた。
上条が出るドラマは今季一番の話題作で、大ヒット間違いなしらしくキャストも大物ばかり抜擢されていた。
主人公は難しい役どころだけど、上条ならばうまく演じられる…と剛は評論家よろしく上条を評価した。
上条貴博という男に演じられない役柄はない。
実力派俳優で、プライベートのことはあまり語らない男。
それが、芸能界の中でもトップクラスの男・上条貴博である。


「上条貴博…か」

鈴音さんは上条貴博を身体だけでも自分のものにしたいから、合意もなく上条を襲ったって母さんは言っていたけど…上条貴博は俺という子供の存在を知っているんだろうか。
上条は誰とも結婚していないようだけれど、俺みたいな隠し子他にもいたりするのかな。


「プライベートは秘密が多い・結婚したい男No.1。
いくつになってもかっこいいよなぁ。鈴、そんなに見つめても、鈴が上条みたいなモテ男になるってことはないと思うぞ」
「うるさいなぁ…。いいもん、俺は隼人さんに好かれていれば!」
似てないけど、本当は親子なんだぞ。
なんて、今ここで叫んだら明日のニュースの見出しは『上条貴博隠し子発覚』で決定だ。
 お父さんだなんて一生言えやしないだろうし、このまま会うことだってないかもしれない。
上条貴博はブラウン管の中の人で、俺は一般人。
今までも、これからも。
血は繋がっていたとしても、簡単に出会える方法なんてないのだ。


「隼人さん隼人さんって、最近の鈴はそればっかだなぁ…。お兄さんは悲しいぞ」
「お兄さん、って…。剛も誰かいい人いないの?
あ、紹介してあげようか?春ちゃんとか、どう?」
「お前なぁ…ったく、鈍感もここまでくればいっそ、清々しいというか…。俺の気持ちなんて、全くわかってないポケポケ君なんだからな…」

ガックシと剛は頭を垂れて机につっぷした。

「あ、そうだ。占い!剛、占いで言われたじゃん!貴方の運命の恋人は、もうすでに出会っているわ。貴方のすぐ側にいるって。誰か心当たりないの?」
「心当たりなんてあるかよ…。占いなんて、そうそう当たらないものなの」
「そうなのかなぁ…」

剛と前にいった占い、結構あたっていた気がするけど。
あの占い師は俺に、『近々、貴方は、記憶に苦しめられる。』とも言っていたけれど、あれって今思い返すと俺が思い出した記憶のことなのかもしれない。

“貴方の考え次第で、貴方の存在で他の誰かが不幸になることを…。貴方の行動が“呪い”を生んでしまうと”

『貴方がいると不幸になる』
時折、思い出すあの恨みのこもった言葉は、鈴音さんが俺に投げかけたものなのだろうか…。
俺のことが憎くてたまらない恨みがましいあの声は。


「未来なんて簡単に見えたら苦労はしないよなぁ。
鈴、進路相談表もう出したか?」
「ううん、まだ。ちょっと悩んでる。
俺、なりたいものないなぁ…って痛感中。
兄ちゃんは、お医者さんになりたいんだって。隼人さんの影響かな?」
「どうだろな。くそ真面目なあいつらしいといえば、あいつらしいけど…。俺もまだちょっと悩んでるんだよな。組を次ぐか、普通のカタギの道に進むか。
親父はどっちでもいいって言ってるんだけどよ…」


剛はしばらく暗い顔をしていたのだが、突然ガーッと頭をかいて顔をあげた。


「それより今は近い未来のことを考えようぜ。
鈴来週は部活の合宿だぞ!用意してるか?」
「ああ、まだだ。母さんいなくて全然できてないー。どうしよー」
「やっぱりな。大丈夫だ。荷造りは手伝ってやる」
「ありがとー、剛」
「ポテト奢りだからな」
「ちゃっかりしてるー」

他愛ない話に花を咲かせながら、俺達は20時にハンバーショップを出た。

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