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根付
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またいつにも増して慌ただしい一週間だった。
俺は出張の間ずっと立ちっぱなしで現場に指示出しをし、オフィスに戻ってこられたのはその週金曜日の午後だった。会社の最寄り駅で降りると、目の前に広がる空模様が嫌な感じの曇りだった。今夜あたり、雨が降るかもしれない。
「松山さぁん、お疲れ様で~す!」
入り口近くの総務の席にいる宮野に笑顔で挨拶されたが、その目は俺の持っている紙袋に向いている。非常に分かりやすい。
「ほい、お土産。感謝しろよー」
「わーさすが松山さん、ありがとうございますぅ!」
「これ、地方のお土産人気ランキングで上位の饅頭っすよね!宮野チャン、早く開けて開けて!」
いつの間にか中村を中心に人だかりができたので、土産はそちらに渡し、デスクのある島へ向かった。
「松山さん、お疲れ様でした。」
「金目もお疲れ。ごめんな、出張先からもこきつかっちまって。お前もあとで饅頭でも食ってくれ」
現場の打ち合わせでどうしても図面が必要で、今週も電話やメールでやり取りをしながら金目に随分仕事を頼んだ。
「全然大丈夫ですよ。あっ、戻られたばかりで申し訳ないんですけど、お時間よろしければ例の店舗について何点か確認したいことがあるのですが。」
「どれどれ」
お菓子よりも仕事優先。金目らしい。俺はその場に荷を下ろし、二人でパソコンの画面を覗き見ながらその場でちょっとしたミーティングを行った。
金目の机の上は、俺や他の現場担当者からの依頼書で山積みになっていた。残業も厭わず仕事を断らないからか、金目にはどうしても仕事が回ってきやすい。
顔を見てすぐ気が付いたが、先ほど「大丈夫だ」といった本人の目の下には少しクマが出来ていた。金目は色白であまり化粧っけもないためか、余計に目立ってみえる。皆、他の設計補助にも仕事を分散させてコイツの負担を減らしてほしいと、自分のことを棚に上げて少しイラっとした。
「ありがとうございました。修正が終わりましたら、また松山さんにお声掛けしますね」
「よろしくな。あっ、そうだ金目」
「はい?」
俺はおもむろに、出張の荷物でいっぱいのリュックを下ろし、チャックを開けた。
「最近ずっと金目に世話になってるだろ。お前の分だけで皆のは無いから、内緒な」
周囲にあまり聞こえないよう声の大きさに気を付けながら、リュックから取り出した小さい包み紙を金目に渡した。金目は少し驚いた顔をしたが、小さな声で遠慮がちに俺に礼を言った。
俺は自分の席に戻り、デスクの上のたまった書類を整理しながら遠目で金目を見ていた。金目は下を向きながらそっと包み紙を開けていたようだが、中身を見て、珍しく目を輝かせた。
渡したのは、出張先の土産物店で目に留まった、黒い漆器に螺鈿でシャチの模様が入った小さな根付。
少々渋いデザインだと思った。だがこの根付を見た時、今週初めに中村と宮野が騒いでいる横で一人静かに雑誌を読んでいた金目を思い出した。あの時金目は、水族館特集のシャチのページに見入っていた。いつもの伏し目がちな表情が、ほんの少し柔らかく見えた。
あの様子を見る限り、やはりあれを買ってきて良かった。少しは気休めになっただろうか。
金目は顔を上げ、俺に向かって顔をほころばせながらまた小さく会釈をした。
俺は出張の間ずっと立ちっぱなしで現場に指示出しをし、オフィスに戻ってこられたのはその週金曜日の午後だった。会社の最寄り駅で降りると、目の前に広がる空模様が嫌な感じの曇りだった。今夜あたり、雨が降るかもしれない。
「松山さぁん、お疲れ様で~す!」
入り口近くの総務の席にいる宮野に笑顔で挨拶されたが、その目は俺の持っている紙袋に向いている。非常に分かりやすい。
「ほい、お土産。感謝しろよー」
「わーさすが松山さん、ありがとうございますぅ!」
「これ、地方のお土産人気ランキングで上位の饅頭っすよね!宮野チャン、早く開けて開けて!」
いつの間にか中村を中心に人だかりができたので、土産はそちらに渡し、デスクのある島へ向かった。
「松山さん、お疲れ様でした。」
「金目もお疲れ。ごめんな、出張先からもこきつかっちまって。お前もあとで饅頭でも食ってくれ」
現場の打ち合わせでどうしても図面が必要で、今週も電話やメールでやり取りをしながら金目に随分仕事を頼んだ。
「全然大丈夫ですよ。あっ、戻られたばかりで申し訳ないんですけど、お時間よろしければ例の店舗について何点か確認したいことがあるのですが。」
「どれどれ」
お菓子よりも仕事優先。金目らしい。俺はその場に荷を下ろし、二人でパソコンの画面を覗き見ながらその場でちょっとしたミーティングを行った。
金目の机の上は、俺や他の現場担当者からの依頼書で山積みになっていた。残業も厭わず仕事を断らないからか、金目にはどうしても仕事が回ってきやすい。
顔を見てすぐ気が付いたが、先ほど「大丈夫だ」といった本人の目の下には少しクマが出来ていた。金目は色白であまり化粧っけもないためか、余計に目立ってみえる。皆、他の設計補助にも仕事を分散させてコイツの負担を減らしてほしいと、自分のことを棚に上げて少しイラっとした。
「ありがとうございました。修正が終わりましたら、また松山さんにお声掛けしますね」
「よろしくな。あっ、そうだ金目」
「はい?」
俺はおもむろに、出張の荷物でいっぱいのリュックを下ろし、チャックを開けた。
「最近ずっと金目に世話になってるだろ。お前の分だけで皆のは無いから、内緒な」
周囲にあまり聞こえないよう声の大きさに気を付けながら、リュックから取り出した小さい包み紙を金目に渡した。金目は少し驚いた顔をしたが、小さな声で遠慮がちに俺に礼を言った。
俺は自分の席に戻り、デスクの上のたまった書類を整理しながら遠目で金目を見ていた。金目は下を向きながらそっと包み紙を開けていたようだが、中身を見て、珍しく目を輝かせた。
渡したのは、出張先の土産物店で目に留まった、黒い漆器に螺鈿でシャチの模様が入った小さな根付。
少々渋いデザインだと思った。だがこの根付を見た時、今週初めに中村と宮野が騒いでいる横で一人静かに雑誌を読んでいた金目を思い出した。あの時金目は、水族館特集のシャチのページに見入っていた。いつもの伏し目がちな表情が、ほんの少し柔らかく見えた。
あの様子を見る限り、やはりあれを買ってきて良かった。少しは気休めになっただろうか。
金目は顔を上げ、俺に向かって顔をほころばせながらまた小さく会釈をした。
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