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1話/臭いの存在
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「この講義終わったらさー、香織の家行ってもいい?」
「えぇー?私の家~?」
大学の講義中、私たちは後ろの席でこそこそと話す。
しかし、講義中の教授は高齢で耳が遠いので、気づくことはない。しかも教授はごにょごにょと呪文のように話すのでまともに聞くと寝てしまうのだ。今も、一番前の席で船をこぐ生徒が1人。
流石に一番前の席で寝たら、あの教授でも気づくのではないだろうか。
他にも隠れてスマホいじっていれば、私語をしていたり…。集中して聞いている人なんて、いないだろう。
だがらこの講義は出席するだけで単位が取れる、所謂楽単なので、講義室は生徒で埋まっている。
うじゃうじゃいる生徒たちに紛れ、私たちは会話を続けた。
「最近私の家ばっかじゃん。1人暮らし始めたんでしょ?いいじゃん香織。連れてってよ。」
確かに、ここのところ友人である楓美の家にばかり入り浸っていた自覚はある。申し訳ないと思っていながらも、私の部屋に友人を連れて行きたくなかったのだ。
「実は、私の部屋さ…なんか、臭うんだよね」
「はぁ?臭い?」
引っ越してきて初日、私はその臭いの存在に気づいた。
異様で強烈な臭い。
気にしないようにすればするほど、気になってしまう。
「臭いって、煙草とか?」
友人が怪訝そうな顔で見つめてくる。
「いや、煙草の臭いではないんだよね。」
部屋を決める時、即決だった訳ではない。初めての1人暮らしだったこともあり、しっかり内見もした。
内見した時には、部屋の臭いなんて全く気にならなかったのに。
「その臭い、鼻につくんだよね。」
「ふーん…。煙草じゃないなら、どんな臭いなの?」
「…なんか、肉が焼けた匂いみたいな感じ?」
「肉…?」
例えるならば、そうだ。でも、焼肉屋の臭いとかではない。今までに嗅いだことのない、不快感を催す臭い。
肉が腐ったような…。何かが焦げているような…?
もちろん、原因となりそうなものをくまなく探したが、見つかることはなかった。
「それに、煙草の臭いが部屋に染みつくのと同じで、窓を開けても換気にならないで臭いはそのまんまなの。」
「何それ?かおりって、引っ越したの先月だよね?」
「そうそう、まだ一ヶ月もたってないのに。なーんか嫌な感じするんだよね」
「うーわ、訳あり物件じゃん。最近多いよね。」
訳あり物件か…最終的に家賃の安さで部屋を決めたのが仇となったかもしれない。
「不動産屋は何も言ってなかったのに…」
「余計に気味悪いね…。ねぇ、その匂い気になる。嗅ぎに行かせてよ」
好奇心旺盛の彼女が、そう言いだすことはなんとなく分かっていた。ここまで話したのだし、部屋に来てもらおうか。
「うーん…いいよ。でも本当に鼻に残る嫌な臭いだよ?」
「ふふ、私がなんの臭いか解明してあげる、そういうの得意なんだから」
「解明って…楽しんでるでしょ。」
名探偵のように眼鏡を上げる仕草をし、自信ありげに笑う。
なんだかんだ、そんな楓美がチャーミングで可愛い。
「私、ミステリーもの結構好きなんだよね」
「勝手に家をミステリーにしないでよ~!」
そうこう今日の予定を話しているうちに、講義は終了した。
・
大学を出て電車を乗り継ぎ30分。私の住んでいるアパートに、楓美を連れて一緒にやってきた。
「香織、一階に住んでるんだ?」
「うん。階段しかないから、面倒くさくて。」
「女の1人暮らしで一階って…危ないじゃない」
「え?そうなの?まぁ平気だよ。」
鍵を開け、楓美をワンルームの部屋に招き入れる。
「お邪魔しま~す。…うわ~なんか、緊張する~。」
「そんな緊張しないでよ。」
玄関から一歩踏み出したところで、あの臭いが漂う。本当になんなんだろう…。この臭いのせいでご飯が不味く感じるのでキッチンはまともに使っていない。最初に夜ご飯を食べて以来、この部屋では食事をしていないのだ。
おかげで、食事はほぼ外食、お金もなくなっていく。
「ちょっと待って、なんか、この臭い…」
楓美は鼻をつまんで顔を顰める。
それから何かを思い出したように目を見開き、走って部屋から出ていってしまった。
「えっ?ちょっと…!」
やはり、この臭いは嗅がせるべきではなかった。
私は楓美の後を追いかけ、部屋の外に出る。
そうして、楓美は気分を悪くしたようなので部屋には戻らず、近くのカフェで話をすることになった。
「ごめんね、やっぱりきつかった?私は慣れちゃって、耐性ついてたから…」
「香織、あの部屋やばいよ。引っ越した方がいい。」
「えぇ?どうしたの、急に」
引っ越しを考えたこともあったが、なんせまだ一ヶ月なので、踏ん切りがつかなかった。
「あの臭い、私嗅いだことある。」
「えっ?」
「火葬場で、バイトしてたときに。」
「えぇー?私の家~?」
大学の講義中、私たちは後ろの席でこそこそと話す。
しかし、講義中の教授は高齢で耳が遠いので、気づくことはない。しかも教授はごにょごにょと呪文のように話すのでまともに聞くと寝てしまうのだ。今も、一番前の席で船をこぐ生徒が1人。
流石に一番前の席で寝たら、あの教授でも気づくのではないだろうか。
他にも隠れてスマホいじっていれば、私語をしていたり…。集中して聞いている人なんて、いないだろう。
だがらこの講義は出席するだけで単位が取れる、所謂楽単なので、講義室は生徒で埋まっている。
うじゃうじゃいる生徒たちに紛れ、私たちは会話を続けた。
「最近私の家ばっかじゃん。1人暮らし始めたんでしょ?いいじゃん香織。連れてってよ。」
確かに、ここのところ友人である楓美の家にばかり入り浸っていた自覚はある。申し訳ないと思っていながらも、私の部屋に友人を連れて行きたくなかったのだ。
「実は、私の部屋さ…なんか、臭うんだよね」
「はぁ?臭い?」
引っ越してきて初日、私はその臭いの存在に気づいた。
異様で強烈な臭い。
気にしないようにすればするほど、気になってしまう。
「臭いって、煙草とか?」
友人が怪訝そうな顔で見つめてくる。
「いや、煙草の臭いではないんだよね。」
部屋を決める時、即決だった訳ではない。初めての1人暮らしだったこともあり、しっかり内見もした。
内見した時には、部屋の臭いなんて全く気にならなかったのに。
「その臭い、鼻につくんだよね。」
「ふーん…。煙草じゃないなら、どんな臭いなの?」
「…なんか、肉が焼けた匂いみたいな感じ?」
「肉…?」
例えるならば、そうだ。でも、焼肉屋の臭いとかではない。今までに嗅いだことのない、不快感を催す臭い。
肉が腐ったような…。何かが焦げているような…?
もちろん、原因となりそうなものをくまなく探したが、見つかることはなかった。
「それに、煙草の臭いが部屋に染みつくのと同じで、窓を開けても換気にならないで臭いはそのまんまなの。」
「何それ?かおりって、引っ越したの先月だよね?」
「そうそう、まだ一ヶ月もたってないのに。なーんか嫌な感じするんだよね」
「うーわ、訳あり物件じゃん。最近多いよね。」
訳あり物件か…最終的に家賃の安さで部屋を決めたのが仇となったかもしれない。
「不動産屋は何も言ってなかったのに…」
「余計に気味悪いね…。ねぇ、その匂い気になる。嗅ぎに行かせてよ」
好奇心旺盛の彼女が、そう言いだすことはなんとなく分かっていた。ここまで話したのだし、部屋に来てもらおうか。
「うーん…いいよ。でも本当に鼻に残る嫌な臭いだよ?」
「ふふ、私がなんの臭いか解明してあげる、そういうの得意なんだから」
「解明って…楽しんでるでしょ。」
名探偵のように眼鏡を上げる仕草をし、自信ありげに笑う。
なんだかんだ、そんな楓美がチャーミングで可愛い。
「私、ミステリーもの結構好きなんだよね」
「勝手に家をミステリーにしないでよ~!」
そうこう今日の予定を話しているうちに、講義は終了した。
・
大学を出て電車を乗り継ぎ30分。私の住んでいるアパートに、楓美を連れて一緒にやってきた。
「香織、一階に住んでるんだ?」
「うん。階段しかないから、面倒くさくて。」
「女の1人暮らしで一階って…危ないじゃない」
「え?そうなの?まぁ平気だよ。」
鍵を開け、楓美をワンルームの部屋に招き入れる。
「お邪魔しま~す。…うわ~なんか、緊張する~。」
「そんな緊張しないでよ。」
玄関から一歩踏み出したところで、あの臭いが漂う。本当になんなんだろう…。この臭いのせいでご飯が不味く感じるのでキッチンはまともに使っていない。最初に夜ご飯を食べて以来、この部屋では食事をしていないのだ。
おかげで、食事はほぼ外食、お金もなくなっていく。
「ちょっと待って、なんか、この臭い…」
楓美は鼻をつまんで顔を顰める。
それから何かを思い出したように目を見開き、走って部屋から出ていってしまった。
「えっ?ちょっと…!」
やはり、この臭いは嗅がせるべきではなかった。
私は楓美の後を追いかけ、部屋の外に出る。
そうして、楓美は気分を悪くしたようなので部屋には戻らず、近くのカフェで話をすることになった。
「ごめんね、やっぱりきつかった?私は慣れちゃって、耐性ついてたから…」
「香織、あの部屋やばいよ。引っ越した方がいい。」
「えぇ?どうしたの、急に」
引っ越しを考えたこともあったが、なんせまだ一ヶ月なので、踏ん切りがつかなかった。
「あの臭い、私嗅いだことある。」
「えっ?」
「火葬場で、バイトしてたときに。」
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