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第三章 ~学院と盟友~

第六十話 ~アマゾネス~

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 帝都の街は朝の賑やかな様子そのままに夜も賑やかだった。馬の蹄が地面を蹴る音、車輪が砂利の上を移動する音。そんなうるさい馬車の中でも、外で民達が酒を飲み交わしている声ががよく聞こえる。

 僕はそんな馬車の中で母と妹と会話をするため、懐から丸い石を二つ取り出し軽く打ち鳴らした。すると、馬車の中に響いていた騒音は瞬く間に消え去った。

 僕が鳴らしたの『消音石』と呼ばれる魔石の一種で洞窟型ダンジョンの中で、最も見つけやすい魔石であるが、同時に最も新人冒険者を殺した石でもある。

 効果は単純明快で、魔素を含んだ状態の『消音石』を二つぶつけて音を鳴らせば、『消音石』の魔素が切れるまで外界の音を遮断することが出来る。そして、鳴らした音の大きさによって外界の音を遮断する範囲が決まる。

 つまり、小さくならせば数メートル範囲から発生した音以外は全て遮り何も聞こえなくなる。今回のようにうるさい馬車の中で軽くならせば馬車の外からの音は何も聞こえなくなる。

 そんな静かになった車内で、僕は意を決して質問した。


「ところでなんだけど、、、」


 僕が若干言いずらそうに話し始めると、テレサは深呼吸し、母は察したように聞き返した。


「何かしら?。レオン」

「その、、、何というか、、、」

「お兄様っ!」


 僕の煮え切らない様子に、テレサが大きな声で口火を切った。


「お兄様が気にしているのは、私のこの体のことでしょう」

「えっ!。そ、そうだけど。ごめん、、、」

「なぜ、謝っているのですか?」

「それは、、、」


 僕のしどろもどろした態度に母が諭すように話しかけた。


「レオン。こういう時はしっかりなさい。むしろ今のような態度は余計気づ付けてしまいますよ。むしろ、こういう時は無神経なくらいがちょうど良いものです」

「えっ!?」

「気にしている素振りなく聞けば、聞かれた本人も気にしすぎていたのかと思って、胸の締め付けも和らぐ場合もあるのです」

「なるほど」

「まあ、今回は、すでにレオンのその態度の所為で、テレサは少し面白がっていますが」

「へっ?」


 母からの思いもよらない一言に僕は気の抜けた返事を返してしまう。そして、テレサの方を向き返せば、笑いを何とかこらえている妹の顔が目に付いた。


「おっ、お兄様。面白すぎます。ホークお兄様や、アインお兄様達よりもはるかに面白い反応でっ、ぷっ、ハハハh」


 テレサの笑い袋の紐が切れたのか、一気に爆笑し始めた。


「えっ?」

「レオン。あなた達兄弟には内緒にしていましたけど、私の実家の家系は覚えているかしら?」

「え~と。、、、ごめんなさい。覚えてないです」

「まぁ、それもそうよね。実家に連れて行ったのは7歳の時が最後でしたものね。私の家系はかの有名なアマゾネスの血筋だといわれているわ」

「アマゾネスですか?」

「そう、私の実家のアネス家の娘は約10年で成人ほどまで成長する特異体質を持った家系なのよ。特に7歳からの成長が著しく大きくてね」

「つまり、テレサが大きいのは」

「そう。大人だから大きいのよ」


 母がなぜテレサが大きいのかネタ晴らしをした途端テレサが意気揚々と話しかけてきた。


「そうなのです。お兄様。私はもう立派な淑女なのです。お姉さんなのですよ」

「なんだぁ、心配して損したなぁ。てっ、え!。嘘だ!」

「本当ですよ。お兄様。それに全然この姿の事は気にしておりません。私モテモテですし」


 僕は母の言葉と、テレサの態度に、自分の心配が意味のないものだとしると、肩の荷が一気に下りた気分になった。


「それじゃぁ、どうして。最初に会った時気まずそうな顔をしてたんだよ」

「気まずそうな顔をしたのは、お兄様の初々しい反応を楽しみたかったからです。痛かったでしょ。本当は、ハグの時」


 テレサはニヤニヤ笑いながら僕の答えを待つ。

 ここで正直に答えては男として、そして兄としての威厳を損なうと思い強がることにした。


「そんなことはないさ。全然痛くなかったよ。もっと強くても良かったくらいさ」

「ふーん。そうですか、そうですか。まぁ、そう言うことにしといてあげましょう」

「なんだか。昔のテレサに戻ったみたいだ。すっかり礼儀正しくなって昔のようにふざけあうことは出来ないのかと思っていたよ」

「ふふふ。お兄様。人の性格はそうそう変わるものではないのですよ」

「そうか、良かった。じゃあ、全然会おうとしなかったのもこの演出のため?」


 僕のその質問にテレサはより一層、にやけ顔を増しながら僕にこう言った。


「実はですね。お兄様。私はお兄様が修行している3年間で大人になりました」

「それは聞いたよ」

「本当にわかってますか?。私はになりました。それに引き換えお兄様は修行して強くなったといってもまだ子供です」

「いやな、言い方をするな。なにが言いたいんだよ」


 僕の質問にテレサは腕を組んで堂々と返事した。


「私、テレサ・マルクは、今年からハルメシア学院・劣等生の副担当教員に任命されました。よろしくお願いします。レオン劣等生殿」

「ん?・・・」

(何を言ってるんだ?。テレサが。。。僕の先生?)
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