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第一章【殺された女子高生】

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 20XX年、十月。
 ーーーある一人の女子高生が殺されたというニュースが流れた。

 その女子高生は、俺達のクラスのクラスメイトだった。
 名前は橘智夏【たちばなちなつ】 彼女はまだ、十七歳だった。
 


「どうして、橘さんが……」
 
「信じられないよね……」

「橘さん……林の中で、死んでたんだって」

 橘智夏が亡くなった翌日、俺達のクラスのはその話題で持ちきりになっていた。
 橘さんはとても美人で、誰とでも仲が良くて、明るくてとても可愛らしい人だった。
 
「まさか橘が……殺されるなんてな」 

「……そうだな。まだ信じられないな」

 警察の話によると、橘さんは林の中で暴行を受けた形跡があったようだ。犯人に暴行を受けた後で、殺されたのではないかということだった。
 死因は首を絞められたことによる、窒息死だということだった。

「………犯人、捕まるといいな」

「そうだな」 


 
 そんな橘さんは、一体誰に殺されたのかーーー。
 その犯人が一体誰なのか、俺達はまだ知る由もなかったーーー。





◇ ◇ ◇





「橘って本当に可愛いよな」

「……ああ、まあな」


 橘さんが殺される半年前。四月になり、俺達はクラス替えがあった。
 そして俺は、橘さんと同じクラスになった。 橘さんとも席は近くて、毎日挨拶を交わした。
 
 その内少し話すようになり、橘さんは俺にたまにお菓子をくれたりした。チョコやお煎餅などを、たまにくれたんだ。  
 橘さんはみんなから好かれていた。明るくて美人で、誰とでも仲良くなれる社交的な人だった。
 そんな橘さんのことが、俺は羨ましくも思った。
 


「橘さん、お菓子ありがとう。……これ、お返し。いつももらってばかりだからさ」

「え?いいの? ありがとう、藤嶺(ふじみね)くん」

 ーーー橘さんのその笑顔が、俺は好きだった。
 男子はみんな、橘さんのことが好きだったことに違いはないと思う。
 まあ橘さんにその気持ちを伝えたことなんて、なかったけど。

「藤嶺くん、赤ペン貸して?」

「ああ、はい」

「ありがとう」

 橘さんの笑顔を見ていると、本当に可愛らしいなって思った。 
 橘さんとの距離はなかなか詰められなかったけど、それでも橘さんのことを遠くから眺めているだけで、俺は充分だった。

 それから半年。まさか橘さんが殺されるなんて、その時の俺達は思ってもなかったーーー。

 




「みんな、橘のお通夜が決まった」
 
 それから数日後、担任の城戸(きど)先生が俺達にそう告げてきた。

「お通夜は明日の16時からだ。みんなで参列しよう」

 先生の問いかけに、みんなは「はい」と頷いた。

「……橘さん」

 橘さんのあの笑顔が、未だに忘れられない。
 明るく楽しそうに笑っていた、あの笑顔を……。

 ーーー俺は橘さんの笑顔を、ずっと忘れられそうにない。




◇ ◇ ◇




「橘さん……」

 葬儀に参列した俺達は、橘さんの最後を見届けた。
 橘さんの最後のその表情からは、何も読み取ることもできなかった。

 クラスの女子はみんな泣いていた。仲の良かったクラスメイトたちは、棺桶の中で眠る橘を見て、思いに打ちひしがれていた。
 縋りついて泣いていて、みんな涙が止まらなかった。


「……橘さん、元気でね」

 俺は橘さんの最後の顔が……忘れられそうにない。
 せめて、好きだと一言伝えておけば良かった。……その時、そう思った。

 橘さんを殺した犯人が捕まることだけを、俺達はただひたすら祈った。
 橘さんがなぜ殺されなければならなかったのか、なぜ橘さんだったのか。
 
 その答えを知る日は、まだ来ないとーーー。
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