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「ちょっと触られたくらいでアホ面晒しやがって…男なら誰でもいいのかお前は?なぁ?」
大林くんに連れていかれたのは人気の少ない学校の裏庭だった。
少し錆びたベンチが置いてあって、大きな桜の木が隣に立っている。
そこで私は校舎の壁際で大林くんに詰め寄られていた。
「アホづらって!わ、わたし女扱いに慣れてないだけでぅぅう!?」
私が言い終わる前に、ガッと両頬を指で掴まれる。
華奢にみえる体なのにどこにそんな力があるのか、大林くんは私の両足の間に片足を割り入れ、全く身動きが取れない。
しかも口元は笑っているが吸い込まれそうな瞳で下からこちらを睨み上げてくるので、私は顔を真っ赤にしながら耐えている。
「そーかそーか。じゃあこれから慣れるために俺がたっぷり女扱いしてやるよ…。」
「ひぃぃぃいっ!」
今度はガシリとお尻を掴まれる。
先ほど異性から頭を触られるのも人生初だったが、お尻なんてもってのほかである。
それも、学校で一番可愛い男の子にである。
「…たく、ケツでかいくせに尻が軽いんだよな。」
白くて綺麗な指で私のお尻を触りながら、薄紅色の唇からまるでセクハラ親父のような言葉が出てきたとき、私はとうとう耐えきれなくなって地面にへたり込んだ。
「…ひ、ひどい…っ!背が高いのも、お尻が大きいのも気にしてるのにーっ!!」
「めいこ。」
「別に女扱いとかいいし!私ささやかな幸せだけで生きていけるしっ!」
「めいこ!!」
「ひゃいっ!!」
大林くんがしゃがんで私に目線を合わせ、私の頬を今度は両手で掴んだ。
「…お前、俺の顔が好きだな?」
「…ぇ、ぁ」
「好きだな?」
「…はぃ…。」
「ならこの顔に女扱いにされたら幸せだよな?」
「…は、はぃ…。」
「つまりは俺の彼女になれて幸せだよな?」
「………は?」
「返事は?」
「ひゃいっ!!」
へたり込んで曲がった私の背中を大林くんがバシンと叩き、私の体が弓形になった。
私の耳元に大林くんの吐息がかかる。
「…俺の彼女として隣を歩くのに、猫背になったら犯すぞ。」
私は顔を真っ赤にして大林くんの肩を掴み、ブルブル震えたままコクコクと頷くと、大林くんは長いまつ毛を伏せ、フッと頬を緩めた。
その顔に慣れることになんて、絶対不可能なのですが…。
私が大林くんの微笑みに見とれていると、校舎から裏庭に出る連絡通路側から声が聞こえてきた。
「たいちゃーん。たしかこの辺りに行ってたと思うんだけど…」
「たいがー、次の授業遅れるよー…て、え!!?」
「!!!!」
タイミング悪くクラスメイトの男子たちが大林くんを探しにやって来たようだ。
彼らには私たちがしゃがみ込んで抱き合っているように見えるだろう。
私はこんな姿を見られて固まる他ない。
「あ、いや、お邪魔だった…?」
「まさか…たいちゃん、小野田と本当に付き合ってるの…?まじ…?」
「はは…冗談だろ?」
男子たちはまさか私たちの抱き合うシーンを見るとは思わず、その違和感に若干引き気味である。失礼である。
大林くんは私にだけ聞こえるように舌打ちした。
そして天使のような微笑みに変わると、私を抱いたまま後ろの男子たちを振り返った。
「だめ…かなぁ?」
その姿はまるで、大きな聖母(私)に抱かれる純粋無垢で小さな天使。
男子たちは顔を真っ赤にさせて、首を振った。
「いや、いやいやダメじゃないよ!」
「い、いいと思う!いいと思う!」
「ほんと?じゃあ、俺たちのこと応援してくれるよね?」
今度は、コテンと首を傾げて萌え袖を口元に持ってくる。瞳を潤ませるのを忘れない。
「す、するするする!!!」
「なんなら二人のこと守るから!!」
天使の破壊力抜群の追攻撃は男子の顔面にクリティカルヒットしたようだ。
ていうかなんだ。この状況は。
「小野田!たいちゃんを泣かせるなよ!!」
私は彼女になりたいという言質も取られた挙句、これで外堀まで埋められたのでは…??
「ふっ…ちょれぇな。おもしれぇー。」
天使は低い声で私の胸元でほくそ笑んだ。
もちろん私にしか聞こえない声で。
それから大林くんは不意に立ち上がると、さらりと明るい栗色の前髪をかきわけ、こちらを見下ろした。
「行くぞ。めいこ。」
「…。」
私は何だか腑に落ちない気持ちで大林くんの後をついて行った。
次の日から、私の生活は一変した。
朝、学校の最寄り駅に着くと既に天使が改札口で待っていて、周りはその美しさに振り返り、また私がやってくると驚いて二度見をする。
これは背が高いあるあるなんだど、大林くんが話しかけてきたときに、私が少し背を曲げて話を聞こうとすると、大林くんはめちゃくちゃ怒る。そして背中を叩かれる。
彼は猫背が嫌いらしい。そんなことを言われても…。
お昼は色んなところでご飯を一緒に食べる。
しかも"女扱い"に慣れさせるためか、恋人同士みたいにお弁当を食べさせてあげたりしないといけない。
そしてまさに今、私は訓練の最中にある。
「だーかーら、手をつなぐだけだろ!」
「む、むりむり!」
お昼休みのいつもの裏庭。
今日はご飯を食べた後、大林くんは教室に戻る際に訓練の一貫として私から手を繋げと言ってきたのだ。
「なんで、ご飯食べさせるのはできて手はつなげねぇんだよ。おかしいだろ。しかももう何回かつないだだろ。」
「いや、もう最初のころはテンパっててそれどころじゃなかったの!いざ私から手をつなげって言われても!む、無理なものは無理なの…!」
「なめてんのかお前。手がつなげないと女扱いに慣れるどころか何もできねぇだろ。理由を言え。」
「…い、いやだ…。」
「めいこ?」(ニッコリ)
「い、い、言います!言います!うぅ…。秘密にしてくれる…?」
「あぁ。」
私は観念して制服のスカートの裾をギュッと掴んだ。
大林くんはなぜか私のその様子を上から下までじっくり眺めた後、耳をこちらに傾けた。
私はその耳元でそっと囁いた。
「あ、あのわたし…男の人より手が大きくて…っ。だから手を出すのが、は、恥ずかしいの…。」
「…。」
言った。言ってしまった。甦る私のトラウマ。
中学生の文化祭の飾り付け、大きな垂れ幕にクラスみんなの手形ペイントをしようという話になり、皆でワイワイ楽しみながら垂れ幕に手形をつけた。
その時、誰が一番大きいか男子達が競っていて、私の手形が群を抜いて大きかった。
それから私は男子達から「ジャイアント手のひら」という安直でダサい名前をつけられた。
その名前を呼ばれるたび、私は私の手が恥ずかしくなって、いつも手をグーにする癖が付いた。
そんなことってみんな思うかもしれない。でも辛かった。
きっと誰にも理解されない。だから今まで誰にも話さなかった。
それをよりによって、この学校の男子の中で一番小さくて可愛い、「スダ高の天使」に打ち明けることになるなんて。
私は顔を茹蛸のように真っ赤にして手を制服のスカートに隠すように閉じた。
大林くんは私の言葉を聞いて一瞬固まったが、次の瞬間にはちょっと変な顔をした。
まるで怒っているみたいな。
そして突然私の手を掴むと、私の大きな手にキスをした。
「ひぇっ!!」
「まじどーでもいいことで悩んで無駄に時間とらせんな。」
そう乱暴に言い放つと、帰るぞと一言言ってスタスタと去っていく。
(ーーー大林くんが、私のコンプレックスにキスをした。)
私の醜い部分を何でもないと言ってくれる男の子が、いるなんて。
その事実が私の心をいっぱいにして、心臓が大きく音をたてた。
「あ、ま、まって…!」
私はまだじんじん熱い手を握りながら、慌てて大林くんの後ろをついて行く。
ーーー私の前を歩く大林くんが、真っ白な肌を赤く染めていることには気づかないまま。
(くそ…無自覚…。)
大林くんに連れていかれたのは人気の少ない学校の裏庭だった。
少し錆びたベンチが置いてあって、大きな桜の木が隣に立っている。
そこで私は校舎の壁際で大林くんに詰め寄られていた。
「アホづらって!わ、わたし女扱いに慣れてないだけでぅぅう!?」
私が言い終わる前に、ガッと両頬を指で掴まれる。
華奢にみえる体なのにどこにそんな力があるのか、大林くんは私の両足の間に片足を割り入れ、全く身動きが取れない。
しかも口元は笑っているが吸い込まれそうな瞳で下からこちらを睨み上げてくるので、私は顔を真っ赤にしながら耐えている。
「そーかそーか。じゃあこれから慣れるために俺がたっぷり女扱いしてやるよ…。」
「ひぃぃぃいっ!」
今度はガシリとお尻を掴まれる。
先ほど異性から頭を触られるのも人生初だったが、お尻なんてもってのほかである。
それも、学校で一番可愛い男の子にである。
「…たく、ケツでかいくせに尻が軽いんだよな。」
白くて綺麗な指で私のお尻を触りながら、薄紅色の唇からまるでセクハラ親父のような言葉が出てきたとき、私はとうとう耐えきれなくなって地面にへたり込んだ。
「…ひ、ひどい…っ!背が高いのも、お尻が大きいのも気にしてるのにーっ!!」
「めいこ。」
「別に女扱いとかいいし!私ささやかな幸せだけで生きていけるしっ!」
「めいこ!!」
「ひゃいっ!!」
大林くんがしゃがんで私に目線を合わせ、私の頬を今度は両手で掴んだ。
「…お前、俺の顔が好きだな?」
「…ぇ、ぁ」
「好きだな?」
「…はぃ…。」
「ならこの顔に女扱いにされたら幸せだよな?」
「…は、はぃ…。」
「つまりは俺の彼女になれて幸せだよな?」
「………は?」
「返事は?」
「ひゃいっ!!」
へたり込んで曲がった私の背中を大林くんがバシンと叩き、私の体が弓形になった。
私の耳元に大林くんの吐息がかかる。
「…俺の彼女として隣を歩くのに、猫背になったら犯すぞ。」
私は顔を真っ赤にして大林くんの肩を掴み、ブルブル震えたままコクコクと頷くと、大林くんは長いまつ毛を伏せ、フッと頬を緩めた。
その顔に慣れることになんて、絶対不可能なのですが…。
私が大林くんの微笑みに見とれていると、校舎から裏庭に出る連絡通路側から声が聞こえてきた。
「たいちゃーん。たしかこの辺りに行ってたと思うんだけど…」
「たいがー、次の授業遅れるよー…て、え!!?」
「!!!!」
タイミング悪くクラスメイトの男子たちが大林くんを探しにやって来たようだ。
彼らには私たちがしゃがみ込んで抱き合っているように見えるだろう。
私はこんな姿を見られて固まる他ない。
「あ、いや、お邪魔だった…?」
「まさか…たいちゃん、小野田と本当に付き合ってるの…?まじ…?」
「はは…冗談だろ?」
男子たちはまさか私たちの抱き合うシーンを見るとは思わず、その違和感に若干引き気味である。失礼である。
大林くんは私にだけ聞こえるように舌打ちした。
そして天使のような微笑みに変わると、私を抱いたまま後ろの男子たちを振り返った。
「だめ…かなぁ?」
その姿はまるで、大きな聖母(私)に抱かれる純粋無垢で小さな天使。
男子たちは顔を真っ赤にさせて、首を振った。
「いや、いやいやダメじゃないよ!」
「い、いいと思う!いいと思う!」
「ほんと?じゃあ、俺たちのこと応援してくれるよね?」
今度は、コテンと首を傾げて萌え袖を口元に持ってくる。瞳を潤ませるのを忘れない。
「す、するするする!!!」
「なんなら二人のこと守るから!!」
天使の破壊力抜群の追攻撃は男子の顔面にクリティカルヒットしたようだ。
ていうかなんだ。この状況は。
「小野田!たいちゃんを泣かせるなよ!!」
私は彼女になりたいという言質も取られた挙句、これで外堀まで埋められたのでは…??
「ふっ…ちょれぇな。おもしれぇー。」
天使は低い声で私の胸元でほくそ笑んだ。
もちろん私にしか聞こえない声で。
それから大林くんは不意に立ち上がると、さらりと明るい栗色の前髪をかきわけ、こちらを見下ろした。
「行くぞ。めいこ。」
「…。」
私は何だか腑に落ちない気持ちで大林くんの後をついて行った。
次の日から、私の生活は一変した。
朝、学校の最寄り駅に着くと既に天使が改札口で待っていて、周りはその美しさに振り返り、また私がやってくると驚いて二度見をする。
これは背が高いあるあるなんだど、大林くんが話しかけてきたときに、私が少し背を曲げて話を聞こうとすると、大林くんはめちゃくちゃ怒る。そして背中を叩かれる。
彼は猫背が嫌いらしい。そんなことを言われても…。
お昼は色んなところでご飯を一緒に食べる。
しかも"女扱い"に慣れさせるためか、恋人同士みたいにお弁当を食べさせてあげたりしないといけない。
そしてまさに今、私は訓練の最中にある。
「だーかーら、手をつなぐだけだろ!」
「む、むりむり!」
お昼休みのいつもの裏庭。
今日はご飯を食べた後、大林くんは教室に戻る際に訓練の一貫として私から手を繋げと言ってきたのだ。
「なんで、ご飯食べさせるのはできて手はつなげねぇんだよ。おかしいだろ。しかももう何回かつないだだろ。」
「いや、もう最初のころはテンパっててそれどころじゃなかったの!いざ私から手をつなげって言われても!む、無理なものは無理なの…!」
「なめてんのかお前。手がつなげないと女扱いに慣れるどころか何もできねぇだろ。理由を言え。」
「…い、いやだ…。」
「めいこ?」(ニッコリ)
「い、い、言います!言います!うぅ…。秘密にしてくれる…?」
「あぁ。」
私は観念して制服のスカートの裾をギュッと掴んだ。
大林くんはなぜか私のその様子を上から下までじっくり眺めた後、耳をこちらに傾けた。
私はその耳元でそっと囁いた。
「あ、あのわたし…男の人より手が大きくて…っ。だから手を出すのが、は、恥ずかしいの…。」
「…。」
言った。言ってしまった。甦る私のトラウマ。
中学生の文化祭の飾り付け、大きな垂れ幕にクラスみんなの手形ペイントをしようという話になり、皆でワイワイ楽しみながら垂れ幕に手形をつけた。
その時、誰が一番大きいか男子達が競っていて、私の手形が群を抜いて大きかった。
それから私は男子達から「ジャイアント手のひら」という安直でダサい名前をつけられた。
その名前を呼ばれるたび、私は私の手が恥ずかしくなって、いつも手をグーにする癖が付いた。
そんなことってみんな思うかもしれない。でも辛かった。
きっと誰にも理解されない。だから今まで誰にも話さなかった。
それをよりによって、この学校の男子の中で一番小さくて可愛い、「スダ高の天使」に打ち明けることになるなんて。
私は顔を茹蛸のように真っ赤にして手を制服のスカートに隠すように閉じた。
大林くんは私の言葉を聞いて一瞬固まったが、次の瞬間にはちょっと変な顔をした。
まるで怒っているみたいな。
そして突然私の手を掴むと、私の大きな手にキスをした。
「ひぇっ!!」
「まじどーでもいいことで悩んで無駄に時間とらせんな。」
そう乱暴に言い放つと、帰るぞと一言言ってスタスタと去っていく。
(ーーー大林くんが、私のコンプレックスにキスをした。)
私の醜い部分を何でもないと言ってくれる男の子が、いるなんて。
その事実が私の心をいっぱいにして、心臓が大きく音をたてた。
「あ、ま、まって…!」
私はまだじんじん熱い手を握りながら、慌てて大林くんの後ろをついて行く。
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