病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向

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第7話

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「今日は色々案内してくれてありがとう。助かったよ。」
俺はゴールのスタート地点、自分達の教室に戻ってきたところで、清水さんにお礼を言った。外はもうすっかり真っ暗だ。
「いえいえ。こちらこそ。お役に立てて何よりです。竹中君の学校生活を全面的にお手伝いします。困ったことがあったらまた、言ってください。竹中君のお世話係、引き受けましたので。」
愛想よく清水さんが頷いた。


世話係....。そういえばそうだった。
「うん。よろしく。」
俺はそう答える。

すると、清水さんは思い出したように言った。
「そうだ!私達、これからきっと頻繁に連絡を交わす必要が出てきそうです。クラスのグループラインに招待するついでに、連絡先、交換しておきませんか?」
清水さんは自分のスマホを取り出し見せた。



とっさに良い感じの言い訳が思いつかなかった。
「あー。俺、もうすぐスマホ買い換えるつもりなんだ。機種変するから、履歴引き継げないかもしれないし、また今度で良いか?多分、そんなに遅くにはならないと思う。」
今、連絡先を交換するのはマズい。
すっかり忘れていた俺が馬鹿だったけれど、今のスマホのアカウントはあの時のままだ。
アイコンすら変えていない。

それに、彼女とは既に連絡先を交換済みだ。
自分から地獄釜に飛び込むなんて自殺行為だ。
苦し紛れの話を信じてくれ....。
チラッっと清水さんを見る。


「機種変更.............。そうなんですね。」
あっさりと納得してくれた。
「分かりました。では、新しいスマホになったらまた教えてください。それまでは、緊急の連絡は私から竹中くんに直接お伝えすることにします」
「ああ。手間をとらせて悪い」
そうしてもらえると助かる。
「全然。大丈夫ですよ」
気にしないでください。


■■■■■

そうして、俺たちは一緒に昇降口まで降りていった。
「再来週には文化祭です。竹中くん、一緒に盛り上げていきましょうね!」

「竹中くんは電車組ですか?」
「ああ。清水さんは?」
「私は、お迎え組です」
清水さんは校門前に止められた白のワゴン車に目を向けた。
「そっか。そうだよな。アイドルだし。そうじゃなくても、女子一人の夜道は危ない」


「いいえ。いつもって訳じゃないですよ。今日はこの後、歌番組の収録があるんです。あの車で直行します」
なるほど。
「何もない日は、普通に歩いて駅までいきますよ?私も電車通学組なんです」
いつか、一緒に帰りましょう?
そうはにかんだように笑った笑顔は、真っ暗な夜空に花が咲いたみたいだった。


■■■■■
『どうだった?』
その夜、俺は自室で姉貴からの電話に対応していた。俺の家は父子家庭だ。しかも、父親は航海士なので一年に数回、会うか会わないかレベル。俺はほぼ姉貴に育てられたと言っても過言じゃない。この家は俺が芸能界で食っていくと決めた時に、父親が買い与えてくれた1kのマンション。姉貴は実家に住んでいて、都内の広告代理店で働いている。俺が実家を出た頃から姉貴は仕事終わりに必ず電話をくれるようになった。多分、不摂生な生活をしていないか、姉貴なりに心配してくれてのことだろう。まぁ、年相応の荒れ方をしていた時期はこの電話がウザかったりしたが、今では家族の良い交流の場となると感謝している。
「別に...。普通にクラスに馴染んだと思うけど?」
自己紹介で陰口が聞こえた事は黙っておこう。
『そうじゃないわよ。咲菜ちゃんとは話した?』
「...。なんで知ってるんだよ。」
俺、あいつと同じ高校って言ってなかったのに...。
『ふふふ。お姉様の情報網を舐めないで頂きたい。』
『なーんて。この前、駅で同僚と待ち合わせしてたら、制服姿の彼女を見かけたのよ。その時、校章をちょっとね。』
「話しかけはしなかったのか...」
『そうね。祐の事聞かれたら、どう反応していいか分かんないから。『祐に合わせて下さい!』とか言われても無理でしょ?』
「確かに、言いそうだな。」
『彼女を泳がせておくのは申し訳ないけど、私的にはこれ以上家族が減ってほしくないもの。』
ぽつりと呟いた姉貴の言葉が俺の背中にずしりとのしかかる音がした。




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