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第8話
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『これ以上、家族が減ってほしくないもの。』
小さく呟いたその言葉は、冗談かと思うくらい清々しかった。
「大丈夫だって。人間、そんな簡単に死なないさ」
俺は背中に突き刺さる刺を取り払うように軽く笑い飛ばす。しかし、心は通じ合わなかったようだ。姉貴は静かに素早く言った。
『そんなの死んでみなくちゃ分からないじゃない。』
『お母さんだって...。大丈夫って言いながら死んでいったんだもの。』
姉貴は母親を知っている。俺が生まれた頃に撮った家族写真。その中の姉貴はとても楽しそうで、俺を抱えるその人はとても優しそうな目をしていた。
母さん...。
俺の記憶の中に居ないはずの、母親の姿が優しく笑った気がした。
『というか、なんでこんな重たい話になってるのよ...。やめやめ。』
姉貴はふと我に返ったような声を出した。
自分で振った話だろうが...。
と、そう思っているがここは何も言わないのが得策だ。
俺は静かにグラスに入った水を飲んだ。
『で、どうなのよ。咲菜ちゃんには会えたの?』
今度は明るく。
しつこいくらいに聞いてきやがる。
はぁ。それ知ってどうするんだよ。そう言ってやりたいが、姉貴はこうなると答えを知るまで引き下がらないと分かっている。俺は早々に諦め、包み隠さず情報を提供した。
「ああ。今、隣の席に座ってる。」
『うわっ!すごいじゃん!めちゃめちゃ運命。』
姉貴が興奮したように声を上げた。
「そうでもないよ。あいつは俺に気付かなかったから。」
俺はポツリと呟く。
闘病生活を送っていく中で変化した自分の容姿に空笑いが出た。
『......。』
姉貴は何も言ってこない。
「自分で話振っといて押し黙るなし。」
『うん。そうだった。そうだった。』
ほぼ棒読みの返答が逆に俺の心を軽くする。
「この空気、実の家族なのに気まずいって、何?」
思わず突っ込む。
『だって...。あんなに大切な約束したのに、気づいてもらえない弟が不憫で不憫で...。』
うっうっ。
噓泣きの天才が嗚咽を堪える。
「おい。なんか、失礼だな。」
『励まされるよりましでしょ?』
いかにも上から目線で、姉貴っぽい。
「はぁ。」
俺はため息だけで返した。
咲菜ちゃん、気づかなかったかぁ。姉貴は他人事のように呟く。そして、言った。
『けど、そばにいるしかないものね。』
そう諭すように確かめてきた。
弟よ。そんなんでへこたれたらダメだぞ?
「ああ。分かってるさ。俺はどんなに嫌われようが、殺気を向けられようが傍にいるよ。正直、気づいてもらえないってのが一番堪えるけどな。」
はは。
また、空笑いが漏れる。
姉貴は俺の卑下にも何も口を挟んでこなかった。
俺は自分をまとう重い空気を引き剝がすように笑い続けた。
そう。
あの日、俺は約束をしたんだ。
何があっても、彼女を守って見せるんだと。
俺は、無意識に窓の外を見ていた。
遠くに霞のかかった月がいた。秋口とは言え、まだ夜は昼間の熱気が外を覆う。俺は遠くに行ってしまったあの人の顔を思い浮かべながら、ゆっくりとカーテンを閉めた。
■■■■■
テレビをつけると、丁度、Cherry’sの特集をやっていた。悲しいかな、俺は画面の中に居ないはずの自分の姿を思い浮かべ、静かな夜を過ごした。
小さく呟いたその言葉は、冗談かと思うくらい清々しかった。
「大丈夫だって。人間、そんな簡単に死なないさ」
俺は背中に突き刺さる刺を取り払うように軽く笑い飛ばす。しかし、心は通じ合わなかったようだ。姉貴は静かに素早く言った。
『そんなの死んでみなくちゃ分からないじゃない。』
『お母さんだって...。大丈夫って言いながら死んでいったんだもの。』
姉貴は母親を知っている。俺が生まれた頃に撮った家族写真。その中の姉貴はとても楽しそうで、俺を抱えるその人はとても優しそうな目をしていた。
母さん...。
俺の記憶の中に居ないはずの、母親の姿が優しく笑った気がした。
『というか、なんでこんな重たい話になってるのよ...。やめやめ。』
姉貴はふと我に返ったような声を出した。
自分で振った話だろうが...。
と、そう思っているがここは何も言わないのが得策だ。
俺は静かにグラスに入った水を飲んだ。
『で、どうなのよ。咲菜ちゃんには会えたの?』
今度は明るく。
しつこいくらいに聞いてきやがる。
はぁ。それ知ってどうするんだよ。そう言ってやりたいが、姉貴はこうなると答えを知るまで引き下がらないと分かっている。俺は早々に諦め、包み隠さず情報を提供した。
「ああ。今、隣の席に座ってる。」
『うわっ!すごいじゃん!めちゃめちゃ運命。』
姉貴が興奮したように声を上げた。
「そうでもないよ。あいつは俺に気付かなかったから。」
俺はポツリと呟く。
闘病生活を送っていく中で変化した自分の容姿に空笑いが出た。
『......。』
姉貴は何も言ってこない。
「自分で話振っといて押し黙るなし。」
『うん。そうだった。そうだった。』
ほぼ棒読みの返答が逆に俺の心を軽くする。
「この空気、実の家族なのに気まずいって、何?」
思わず突っ込む。
『だって...。あんなに大切な約束したのに、気づいてもらえない弟が不憫で不憫で...。』
うっうっ。
噓泣きの天才が嗚咽を堪える。
「おい。なんか、失礼だな。」
『励まされるよりましでしょ?』
いかにも上から目線で、姉貴っぽい。
「はぁ。」
俺はため息だけで返した。
咲菜ちゃん、気づかなかったかぁ。姉貴は他人事のように呟く。そして、言った。
『けど、そばにいるしかないものね。』
そう諭すように確かめてきた。
弟よ。そんなんでへこたれたらダメだぞ?
「ああ。分かってるさ。俺はどんなに嫌われようが、殺気を向けられようが傍にいるよ。正直、気づいてもらえないってのが一番堪えるけどな。」
はは。
また、空笑いが漏れる。
姉貴は俺の卑下にも何も口を挟んでこなかった。
俺は自分をまとう重い空気を引き剝がすように笑い続けた。
そう。
あの日、俺は約束をしたんだ。
何があっても、彼女を守って見せるんだと。
俺は、無意識に窓の外を見ていた。
遠くに霞のかかった月がいた。秋口とは言え、まだ夜は昼間の熱気が外を覆う。俺は遠くに行ってしまったあの人の顔を思い浮かべながら、ゆっくりとカーテンを閉めた。
■■■■■
テレビをつけると、丁度、Cherry’sの特集をやっていた。悲しいかな、俺は画面の中に居ないはずの自分の姿を思い浮かべ、静かな夜を過ごした。
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