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冒険者~始まり~

逃げられない

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フェリーチェたちが怒鳴り声の発生源を見ると、拘束されたザランがクロードの前で跪いていた。

「往生際の悪い。言い訳は王宮で聞く。連れていけ」
「ハッ!さぁ立て!」
「待ってくれ!私は悪くない!あの女……フルーのせいだ!フルーがやれと言ったからやったんだ!それなのに何故、私がこんな扱いをっ!」
「いい加減にしろ。貴様は領主だ。領地とそこに住む領民を守るべき領主が、どんな理由があろうと罪も無い領民を害するなど許され訳が無いだろ!」
「ヒッ!?……私は……私は悪く無い……悪く……」

クロードに諫められたザランはうつむきブツブツ呟きながら連行されて行った。
クロードが思わず眉間を揉みんでいると、騎士隊長が駆け寄ってきた。

「宰相様!」
「何だ?」
「少し気になる事がありまして」
「気になる事?」
「はい。奴の発言です。実はザラン・クレマーと共謀の疑いのあるセルシオの領主も、連行する際に‘あの女’と‘フルー’という言葉が出ていました」
「……そうか。どちらにしろ、その女は誘拐の重要参考人として王都に連行する事になっている」
「そうなのですか!?しかしっ……」
「どうした?」
「先程、部下に連れてくるように命じたのですが、そのフルーという女の姿が見当たらないと報告がありました!」
「あぁ、問題ない。そちらは我々で対処するから、クレマーを連れて先に王宮に戻って良い」
「ハッ!」

敬礼をして走り去る騎士隊長を見送ると、クロードはガイに視線を向けた。

「任せて良いんだな?ガイ」
「あぁ。あの女の対処は俺に任せてくれ。それにしても、予想通りの行動するな~バカな女だ」
「ガイ、本当に1人で行くの?」
「フェリ、ガイなら大丈夫だよ」
「アルの言う通りだ。領主は捕まえたが、まだ解決しなきゃいけない事があるだろ?あの女程度に全員で時間を割く必要はない」
「……うん。気を付けてね」
「おう!」

どうやらクロードたちはフルーの行動を予測しており、ガイが単独で動く事を予め決めていたようだ。
ガイは、心配するフェリの頭をワシャワシャと撫でると姿を消した。
ガイのいた場所をジッと見つめるフェリーチェの手をアルベルトがギュッと握る。

「フェリ、認めるのは癪だけどガイは強い。あっちは任せて、僕たちは僕たちにできる事をやろう」
「……うん!」

アルベルトの言葉に大きく頷いたフェリーチェは、繋いだ手を引っ張りグレイたちの方に走り出し、その後ろをミゲルとネイサンが着いて行った。
一方その頃、姿を消したフルーは隣町セルシオに向かうため門を抜けて森に足を踏み入れていた。
彼女の隣には恰幅の良い中年の男がいて、2人
を囲う様に周りを数名の冒険者が少し距離を置いて歩いている。
中年の男は不機嫌な顔をしてフルーに話しかけた。

「いい加減に説明しなさい。今日はクレマー伯爵から御布施・・・を頂く予定だったのですよ。貴女も知っているでしょう?」
「フンッ……何が御布施よ。奴隷を手引きしたお金でしょ。可哀想な孤児を奴隷にするんだから、神父が聞いて呆れるわね。貴方はわたしに感謝するべきなのよ」
「感謝ですって?」
「今、あの邸には国の騎士が来ているの。ザランも捕まったわ。もちろんセルシオの領主もね」
「何を馬鹿な!?いったい何の罪でっ……まさか!」
「えぇ、全部バレたのよ。盗賊も誘拐も奴隷も全部ね。たぶん孤児院のお金もバレてるわよ」
「そんな……おい、だったら何故セルシオに行くのだ?領主は捕まったのだろう?」
「口調が乱れてるわよ。エセ神父様」
「黙れ!早く説明しろ!」
「怒鳴らないでよ。いい?セルシオの領主は連行されたの。なら、今のセルシオには騎士は残っていないでしょ。それに今回の件と関係のあるセルシオに、まさか私たちが向かっているとは思わないわ」
「フンッ、成る程な。それでその後はどうするんだ?」
「ちょっとは自分で考えたらどうなの?まぁ良いわ。セルシオに着いたらっ!?」
「何だ?どうした?」

自分の計画を自慢げに話し始めたフルーが、途中で言葉を切ったので神父は怪訝な顔で彼女を見た。
フルーはその視線を気にする余裕が無いのか、キョロキョロと辺りを見回していて返事もしなかった。
自分を無視するフルーの態度に腹を立てた神父は、彼女の腕を掴んで強引に自分の方へ顔を向けさせた。

「聞いてるのか!」
「うるさい!あんた気付かないの!?周りを見なさいよ!」
「周り?いったい何だと……おい冒険者がいないぞ!」
「どういう事?さっきまでいたのに……」

周りにいた冒険者が突然いなくなり、2人が唖然としていると近くの茂みからガサガサと音を立て1人の獣人が姿を現した。

「誰!?」「誰だ!」
「彼等の予想通りか……」
「ちょっと何ブツブツ言ってるのよ!誰かって聞いてるの!」
「我が名はゾーイ。安心しろ。わたしは何もしない。只の足止めだ」
「足止めですって?」
「おい、アレは竜人族だろ!我々では敵わん!逃げるぞ!」
「分かったわ!」

我先にと走り出す神父に続いてフルーも走り出すが、ゾーイは腕を組んで静かにそれを見ているだけで追う事はしなかった。
何故なら、彼等の向かう先にはもう1人……もう1体の足止め役がいたからだ。

「グゥルルルル……」
「ヒィ!?」
「シ、シルバーウルフか!?」
「バカ言わないで!大きさが違うわよ!」
「そうだそ~。うちの可愛いペットを、そんな魔物と一緒にするなよ」
「「………誰!?」」

突然割り込んできた声の方を見ると、ガイがゾーイの横で不敵に笑っていた。

「貴方は……たしかガイだったわよね」
「ガイ?何者だ!」
「主!もの申すぞ!俺は断じて可愛くない!格好いいんだ!」
「「喋った!?」」
「ん~?」

魔物が喋り固まるフルーと神父を無視して、ヴィルヘルムがガイに文句を言うと、ガイは考え込む様にジ~っとある場所を見つめた。
その視線の先には怒っている顔とは対照的に、激しく振られているフサフサの尻尾がある。
口では文句を言っていても、主に褒められて嬉しいのだろう。
‘可愛い’がヴィルヘルムにとっての褒め言葉かは別にして。
ガイは隣のゾーイに顔を向け、指で尻尾を指差しながら一言。

「可愛いよな?」
「……そうですね」
「ぬがっ!?ゾーイまで!俺はフェンリルだ!強くて凛々しくて格好いい!」
「はいはい。格好いい格好いい」
「適当!」
「まぁまぁ」

抗議を軽く流されショックを受けるヴィルヘルムをゾーイがなだめる。
ガイは、未だに唖然としているフルーと神父に視線を向けて話しかけた。

「お~い。話を進めたいから、いい加減しっかりしてくれ」
「な、何でここが……」
「そうだな。どこから話すか……まぁ簡単に言えば、お前がセルシオに逃げる事は予測していた。さすがにそっちの神父が一緒とは思わなかったが」
「嘘よ!」
「嘘じゃないさ。先ず始めに、警戒が厳重な領主邸からお前だけが逃げれた。普通なら無理だ。だが、お前ならそれが可能だと俺たち・・・は分かっていた。だから門の近くに冒険者を待機させていた。お前が護衛として雇うと思ったからな。雇わなくてもここに誘導させるつもりだったが」
「そこまで……でもわたしならって、何の事?」
「しらばっくれるな。冒険者ギルドで接触した時、俺たちに使っただろ?『魅力』チャームのスキルを」
「っ!?そ、そうよ。使ったわよ!今まで使った相手は私の思い通りになったのに、あんたたちには効かなかったわ!」
「あんなの効くわけないだろ。だが、アレは駄目だ」
「フンッ!どうせ効かなかったから良いじゃない!」
「確かに効かなかったさ。だがな……貴様は俺の大事な主にそれを向けた。効果がなかった?そんなのは関係ねぇ!」
「ヒィ!?」

今まで向けられた事もない怒気と殺意に、フルーはガタガタと震え神父は泡を吹いて気絶した。

「本当は俺が始末したいとこだが、事件の解決にはお前の証言が必要らしい。だから殺さないが、お前を尋問するためある場所に連れていく」
「じ、尋問ですって?」
「覚悟するんだな。その場所には、俺に負けないくらい怒っている奴がいるからな」
「や、止めて!」

ガイは後退るフルーに近付き腕を掴んで転移した。
転移したのはファウスト邸、目的の人物の目の前だっが全員動きを止めていた。

「「「…………」」」

無言で見つめ合うのは、お茶を注いだままの体勢で固まるオリビア、満面の笑みでドーナツを頬張ったままのサマンサ、嫌な汗が出てきたが目をそらせないガイ。
沈黙が続くなか、最初に動いたのはサマンサで口の中のドーナツを飲み込み、紅茶を一口飲んでから何事も無かったかのように口を開いた。

「お帰りなさいガイ。早かったのね」
「ま、まぁな。じゃあこいつは任せた!」
「あら、もう少しゆっくりしたら良いじゃない」
「いや、早く戻らないと!大丈夫!俺は何も見ていないから!」
「あらあら、ウフフフ……」
「見てない、見てない!決めるられた時間以外で甘味を食べてるのは見てないから、近付いてくるなって!」
「ウフフフ……駄目よガイ、さっき見たものが記憶から消えるまで……逃がさないわ!」
「ギャー!転移防止の魔道具使うな!オリビア、見てないで助けろ!」
「……………」
「何で目を逸らす!?」
「無駄よ!あの子も共犯なんだから」
「何!?」

ガイが、サマンサの言葉に驚いてオリビアを見ると、その口元にはドーナツの欠片が付いている。
視線に気付いたオリビアは、ハンカチでさっと欠片を拭った。

「お前~!フェリ助けて!アルでも良いから~!」

ガイの叫びは残念ながら届く事はなかった。









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