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第4話

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 キャシーが帰った後、ジュリアンとフルールは応接室で紅茶のおかわりをする。

「何というか……凄い人でしたわね。人の話は聞かない・身分に応じた話し方も出来ない・思い込みは酷く、何でも自分の思い通りになると思っている」

「昔からあんな感じで苦労してきたんです。だから隣の国に一家で移住するって聞いた時は本当に嬉しくて。出来れば二度と会いたくない相手でした」

 ジュリアンは心底うんざりした様子である。

「今回は向こうが押しかけてきたから不可抗力ですわ。それにしても随分父親の権力を過信しておりますわね。国一番の商会だろうと此方が逆にボナリー商会に圧力をかけるのは本当に簡単ですのに。今まであの方のお願い事とやらで上位貴族が絡むようなことがなかったのでしょうね。力関係がまるでわかっていないですわ」


 ブロワ公爵家もベルレアン侯爵家も歴史・財力・権力といった側面で国内の貴族のランク付けをした場合、両家とも確実に上位10位以内には入る。

 因みに公爵家は7家、侯爵家は15家ある。

 それだけ力があるので、社交界での影響力は言わずもがな。

 影響力のある家が茶会やパーティーで一言噂を流せば、上位貴族から下位貴族まであっという間に話が広まる。

 ブロワ公爵家とベルレアン侯爵家を敵に回すという選択をする貴族なんてほぼいないに等しい。

「権力を使って圧力をかけるのはあまり好きではありませんが、我が家とベルレアン侯爵家連名で、貴族の方々がボナリー商会から商品を買わないよう圧力をかけます。それと同時にボナリー商会以外の商会にもボナリー商会に加担しないなら圧力をかけないが、加担するのなら容赦しないと通達します。勿論、ベルレアン侯爵家の方はお義父上とお義母上に話をして許可を得てからにします。数々の無礼な物言いと態度。今までは我慢していましたが、流石に頭に来ました。それと、もうすぐ公爵家の新しい特産品として売り出す例の商品もボナリー商会には卸しません。ボナリー商会に加担しない商会に卸します」

「私も賛成です。ベルレアン侯爵家はバンベルクにもバンベルクの貴族社会で影響力のある親戚がおりますので、親戚の方にお願いしてバンベルクの方でも圧力をかけますわ。其方こそ後で泣きついてきても知りませんというものです」


 もうすぐ売り出す例の商品とは繊細な金細工の容器に入った薔薇の花びらの頬紅のことである。


 ブロワ公爵家の領地は薔薇の生産地として有名である。

 だからこそ公爵邸にも見事な薔薇園があり、公爵家の家紋にも薔薇のモチーフがあしらわれている。

 薔薇は飾りの生花としては勿論のこと、薔薇を原料とした化粧水や香水やポプリ、はたまた乾燥させた薔薇の花びらを紅茶に浮かべるお洒落な楽しみ方をするのも貴族の夫人の間で最近流行っている。


 そんな中、ジュリアンはブロワ公爵領産の薔薇を使った新しい特産品を作り出そうとした。

 新しい特産品は見た目が綺麗な装飾品に薔薇を使った化粧品を入れて売ることを考えていた。

 見た目が綺麗で珍しいものを持っていることは貴族社会ではある種のステータスだ。

 しかし、中に入れる化粧品は既にあるありきたりなものではつまらない。


 自分の母や友達の妻、領民の女性など様々な意見を聞き、たどり着いたのが薔薇の花びらの頬紅だった。

 花びらの形の頬紅はまだ売り出している者はいない為、新しさを売りに出来る上、綺麗な装飾品に入れるととても映える。

 何度も試行錯誤を繰り返して頬紅が完成し、装飾品の素材は何にするのか?と考えた時、ジュリアンが真っ先に思いついたのが金だ。

 フルールの実家のベルレアン侯爵家の領地は金の産出地として有名で、それに付随して金細工で有名な職人も多数領内に在住している。

 そこでベルレアン侯爵家と交渉し、頬紅の中身の部分はブロワ公爵家、金細工の装飾の部分はベルレアン侯爵家と合同で制作して販売するという話になり、ジュリアンとフルールは政略結婚した。
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