半分異世界

月野槐樹

文字の大きさ
上 下
271 / 305
第29章 広田5

第270話 商業ギルドで情報収集

しおりを挟む
「‥‥商業ギルドってところ、寄ってみる?」

マヨネーズと大豆ソースを買って、ツェット商会を出た後、ちらりと、店に入り口脇に鎮座したサスケイ様の銅像に目をやりながら武井さんが言った。

「商業ギルドでは制作者の情報は公表してないんじゃなかったっけ。」
「でも、何か情報があるかもしれないだろ。」
「うーん‥‥、まあダメもとか。」

オスタリコラルから逃げて来て、国境を越えるまではとにかく逃げ出すことしか考えていなかったけど、
ようやく国境を越えて、これからどうするかを考えると、やはり同郷の人がいる可能性があるならその情報は欲しい。
その人に助けを求めるとまでは考えていないけど、
今は、必死に逃げて来たばかりで、何も指針がないのだ。少しでも情報があった方が良いと思う。

ツェット商会で商業ギルドの場所を聞けばよかったな、と思いながら、キョロキョロと通りを見て回り、パン屋でパンを買うついでにパン屋に商業ギルドの場所を聞いた。
パンを買ったのはマヨネーズを付けて食べる為だ。
宿で朝夕の食事は出るし、先程肉団子パンを食べたばかりではあるけど、正直まだ腹は減っている。
粗食生活には慣れているから、肉団子パンで一食分ってことでも別に良いんだけど、屋台で調理されて売られているものに比べればパンはそんなに高くない。
そんな理由付けをしながら買ったパンの入った包みをちょっと軽く押さえてみた。ふんわりとしていて、弾力がある。

「ソーセージパンや肉団子パンの時に気付いてはいたけど、やっぱりパンが柔らかいよな。」
「あきらかに隣国のパンと違うんだよなぁ。」

パンの製法だって、もしかしてって思ったりする。
ハンバーガーだってあったし、醤油があるっていうことは、登録したのは日本からきた人だったりしないだろうか。
色々考えを廻らせながら歩いていたら、パン屋が教えてくれた辺りに、それらしい建物を見つけた。

事務所みたいな雰囲気の場所と店舗っぽい場所がある。店舗っぽい場所はツェット商会よりは無骨な感じでランプだとかが棚にぎっしり並んでいるのが、分厚いガラスがはめ込まれた小さい窓から見えた。

「ここは入って大丈夫なのかな。」
店舗っぽい場所の方は扉が閉ざされていて、ドアマンもいなかった。
事務所っぽい方にだけドアマンが居る。

「あっちで訊いて見るのがいいんじゃないか?」
何か変わった品があるかもしれない、と店舗っぽい方に興味を引かれたけど、もともと商業ギルドには話を訊きに来たわけだし、事務所のようなところに行って見ることにした。入り口近くに、サスケイ様の像があったので軽く手を合わせた。

中に入るとエキゾチックな中世の商人みたいな雰囲気の人が出迎えてくれた。質が良さそうなたっぷりの布地を使った服を着ている。

「ご用件をお伺いいたします。」
「マヨネーズと大豆ソースの製作者についての情報をお訊きすることはできますか?」
イソラさんと名乗ったギルド職員の人に、武井さんがダイレクトに質問をした。

「生憎でございますが、製法のご登録者の情報はお教えすることはできません。」
あっさりと情報提供を拒否されてしまった。
ダメだったか、と思ったけど、武井さんは質問を続けた。

「やはりそうですか。では、登録時期だけでもお教えいただけないでしょうか。登録から一定時間経つとレシピの使用料はかからなくなるのですか?」
何で登録時期?と思ったけど、口を挟まずに黙っていた。

「マヨネーズは三年前。大豆ソースはご登録から二年経っています。登録から二十年はレシピの使用料は変わりません。
二十年経ちますと、使用料が減額されますが、五十年間は使用料がかかります。」
「なるほど‥‥。最近登録されたものを教えていただく事はできますか?もしかして隣の店舗にあるのがそうかと思ったのですが。」

「はい。ご案内いたします。」
事務所のフロアの中側から、隣の店舗らしい場所へ繋がる扉があったらしい。
屈強そうな護衛みたいな人が立っていて、ちょっと厳重に警備がされているみたいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~

ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」  騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。 その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。  この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。

チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました

鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。 そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。 「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。 ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね? という「誰が勇者だ?」的な物語。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

定年退職後の生活は異世界でした

青山ねこまる
ファンタジー
50歳を機に早期定年退職し、第二の人生を田舎でのんびりとしようとしたら、異世界で開拓村の村長をする羽目になりました。

ドグラマ3

小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。 異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。 *前作ドグラマ2の続編です。 毎日更新を目指しています。 ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。

処理中です...