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5.第四幕

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「ローズ」

 エイデン侯爵が前を見たまま、押し殺した声で私に呟きました。

「この状況、やばいわね」

 バロン伯爵令嬢暗殺の容疑がおそらくエイデン侯爵に掛けられるでしょう。

 というのも、エイデン侯爵が贈呈したネックレスをつけたバロン伯爵令嬢が体調を崩したのですから。

 ――それも公衆の面前で

 (でも、問題は黒幕が2人のうちのどちらかということなのよね)

 というのも、エイデン侯爵がバロン伯爵令嬢にあげたネックレスはルイ王子が紅茶に溶かしました。

「そこの2人を捕らえろ!」

 ルイ王子の淡々とした口調で、キビキビ動く衛兵が私たちのところへ向かってきます。

 その時、

「ルイ、俺がリリーを傷つけたとでも言うのか!?」

 突然膝から崩れるように、エイデン侯爵がひれ伏しました。

 ざわざわと貴族たちが騒ぎます。なぜなら、エイデン侯爵も王族の血を引く人間。

 そのような高貴な身分のものがひれ伏すなんて通常は有り得ないからです。


「この女に頼まれて仕方なくなんだ……」

 エイデン侯爵は透明な涙を目にうかべて、私を指さし、観衆に訴えかけるように話し出しました。

「この女の親は様々な宝石を扱う商人だ。それで、バロン伯爵令嬢の暗殺に加担すれば、賢者の石を俺の父上の病を治すために渡すと言われて……」

 そこまで言うと、エイデン侯爵はおいおいと泣きながら言葉を詰まらせます。

 (ちょっと、エイデン侯爵のお父上が病なんて初めて聞いた話だわ)

 私は驚きに身体を固まらせて、エイデン侯爵を見つめます。

 そんな私に向かってエイデン侯爵は私のドレスにすがりながら、

「ここは罪を認めた方がいい、もう君の悪事をかばいようがないよ」

 そう言いながら、私の手を掴んで跪くように促します。

 私は彼のこぼれんばかりの涙に覆われた瞳に圧倒されて、深々とルイ王子とリリー伯爵令嬢の前にひれ伏したのでした。

 そして、そのまま私だけ衛兵に連れられて会場を後にしたのでした。

 ――――――――

 じめじめとした宮廷の地下牢は、ポタポタとどこからか雪が溶けたような音が聞こえてきます。

 見張の衛兵は時折欠伸をしながら、ただただ立っていました。

 私は一夜にして侯爵家の婚約者から次期王妃暗殺未遂者となりました。

 (このままどうなるんだろう)

 そう思いながら、私は先程エイデン侯爵が私の手を掴んで跪くように促した際にこっそりと手渡してきた「彼の」婚約指輪を眺めていました。

 彼から貰った自分の婚約指輪はしっかりと指にはめてあります。

 その時、地上から地下に降りてくる足音がありました。

 
 
 
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