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4.第三幕

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エイデン侯爵は、さっと私を自分の後ろに隠すと

「リリー伯爵令嬢、どうされたのですか?」

 と、さも落ち着いた忠臣のような声色で彼女の問いかけに答えました。

「ああ、よかった。バルコニーにいらしたのね。先ほどのお礼をしたいと思いまして」

 リリー伯爵がカーテンに手をかけて、こちらに入ってこようとします。

 と、その時、エイデン侯爵は

「リリー伯爵令嬢、ルイ王子の婚約者ともあろう方がこんな人気のないところにきたらダメですよ」

 とすかさず言って、私を自分の背中で隠すような態勢のまま、

 バルコニーから舞踏会の会場に戻って行きました。

 私はエイデン侯爵が去った後、バルコニーにもたれかかり、自分の指で先程口付けされた唇を触ります。

 (ルイ王子に見せつけるように平民上がりの私にキスするなんて、何考えているんだろう)

 そう思っていると、上からひらひらと月明かりに光る白い花びらのようなものが落ちてきました。

 私がなんとなく、上を見上げると

 手に白い小さな花束を持ったルイ王子が、ちょうど私の真上に見える窓から、外の満月を哀しそうに見ていました。

 (欲しいものは全て手に入る王子という立場でも、あんな顔をするのね)

 月明かりに照らされた幻想的な銀髪に、彫刻師が丹精込めて作り上げた作品のような横顔に漂う哀愁に、私は思わず目が釘付けになってしまいました。

 すると、階下からの視線に気づいたのか、彼がチラとこちらに視線を向けます。

 私が慌てて目を逸らそうとしたら、

「ギルバート男爵令嬢?」

 ルイ王子が、窓から身を乗り出すようにして私の名前を呼びました。

「は、はい……」

 (なんか気まずい……)

 そう思いながら、彼に再び視線を戻すと

 ルイ王子は、心無しか寂しそうな笑みを称えて私を見つめてきます。

 この何とも言えない沈黙に何を言えば分からなかった私は、とりあえず

「今宵は月が綺麗ですね」

 とりあえず目にうつった景色をそのまま言葉にして彼に伝えました。

 彼は一瞬びっくりしたような顔をしましたが、

すかさず手を伸ばして、

「今宵の月は手が届きそうですからね」

 そうやって、窓から大きな満月に向かって手を伸ばしてちょっとおどけたフリをしてから、私にウィンクをして見せました。

 ――ズキン――

 その彼の行動を見た時、私はなぜかひどく頭痛がしました。

 (前にもどこかでこのやり取りをしたことがある)

 ルイ王子と話したことなんてないのに、私はなぜかこの時ひどい頭痛とともに、そう感じたのでした。
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