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4.第三幕

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「…っ」

 慌てて逃げようとする私の腰をさらに引き寄せて、エイデン侯爵は深く私に口付けを落とします。

 甘味と酸味が混じったノクタム王国特産のワインの香りが鼻を抜けていきました。

「レオ…どうやら邪魔したみたいだね」

 私たちの様子が見えたのか、心なしか気を落としたように聞こえる声のルイ王子は去っていきました。

 私はルイ王子が去ったのを音で確かめると、それでもなお私を貪ろうとするかのような口付けをするエイデン侯爵の足をピンヒールで踏みました。

「全く、乱暴なお嬢さんだな」

 彼はそう言って、ようやく口付けを離すと私を自身の方へと抱き寄せます。

そうして、愛しの恋人の髪を撫でるように彼は私の髪の毛を触りながら、甘く私に囁きました。

「今ノクタム王国では、バロン伯爵家が勢力を伸ばしていてね、このままリリー令嬢がルイに嫁がれると困るんだよ」

「それと私と何か関係が?」

 私はさもエイデン侯爵に恋する乙女のように、恥じらいうつむきながら、そう囁き返しました。

 というのも、彼の肩越しにこちらをチラッと見る人影を確認したからです。

「血筋を大切にするバロン伯爵家が権力を握ると、先祖代々から続く貴族以外は廃止されるだろう。君の国には、平民上がりの貴族が多くいるだろう?」
 
そう言いながら、彼は私の髪の毛をクルクルともて遊びます。

「今の世界に混乱をもたらさないためにも、なんとしてもバロン伯爵家が嫁ぐことを阻止したいんだ」

「そんなの、ルイ王子が婚約破棄すればいいだけでは?」

 私はエイデン侯爵をじっと見つめながら言いました。

「いや、あいつは無理だ。リリーの操り人形みたいなものだから」

 エイデン侯爵は吐き捨てるように言いました。

 私はエイデン侯爵の言い方が少し引っかかったのですが、それについては問い詰めることはせず、

「では、なぜ私に協力依頼なさるので」

 と、ずっと聞きたかったことを聞きました。

「リリー令嬢は宝石類が大好きだ。君の父上はその道の商人として成功を納めてきただろう?」

 (なるほど、そういうことか)

 私がエイデン侯爵が今宵私をここに招待したことに、ようやく合点がいったのでした。

 とその時、

「エイデン侯爵様?」

 バルコニーのカーテン越しにリリー伯爵令嬢の声がしたのでした。
 
 
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