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第9章 15 エピローグ・そして少女は幸せになった <完>
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一方ノワールも頭の中を占めるのはヒルダの事だけだった。ずっとこのままヒルダとこの家で暮らしていきたい。いつか2人で合作で本を出版する事が出来たら…そしていつかは家族になって、幸せな家庭を築く事が出来れば…。
そんな未来を思い描いている自分がいる事に気付いてしまった。
(俺は…エドガーのように社交的では無い。不器用な人間だし、気の利く言葉を掛けてやることも出来ない駄目な人間だ…)
しかし、それでも物静かで穏やかなヒルダは気難しいノワールにとっては居心地が良かった。何より、ヒルダはノワールの初恋の相手だった。天使の様に愛らしかった少女は今や、まるで女神のような神々しい美しさをたたえる女性になっていた。
その何もかもに強く惹かれていた。
ノワールは俯き…気付くと、口が勝手に動いていた。
「ヒルダ…もし、俺がずっとこの家で暮らして欲しいと…いや、ずっと傍にいて欲しいと願ったら…どこにも行かずにここに居てくれるのか…?」
それはまるで告白と言っても過言では無かった。
「ノ、ノワール様…?」
ヒルダはその言葉に耳を疑った。
(何…?今のノワール様の言葉…もしかして、わ、私の事…)
ヒルダに声を掛けられ、ノワールはハッとなった。そして次の瞬間、自分がとんでもない台詞を口走っていたことに気付いた。見ると、目の前のヒルダは青い目を大きく見開き、自分をじっと見つめている。
「す、すまないっ!ヒルダ…い、今の言葉は…その…わ、忘れてくれ…」
(俺は何て馬鹿な事を…)
ノワールは自分で自分の言った言葉に激しく後悔した。
「忘れません…忘れたくありません…」
ヒルダが声を震わせながらノワールを見つめた。
「ヒルダ…」
「本当に…?本当に私…ずっと…ずっとここに居てもいいのですか…?」
ヒルダの大きな目から一滴の涙が落ちた。
「ヒルダ…泣いているのか…?」
「う、嬉しくて…」
「え?」
するとヒルダは涙交じりに言った。
「わ、私は今まで多くの辛い経験をしてきました…。ほとんどの人が…一度は私を捨てて来ました…。ですが、ノワール様は…違いました。私を捨てる事も無く…それどころか、ノワール様は私を拾って下さいました…」
「ヒルダ…」
「わ、私は…ノワール様の…手を取っても良い…と言う事なのですか?ずっと一緒にいても…良いと言う事ですか…?」
その言葉をノワールはヒルダからの告白だと受け取った。
「ああ、そうだ。ヒルダ。俺は…お前の事が好きだ。初めて会った時からずっと…」
ノワールは立ち上がり、ヒルダの傍に行くと跪いた。
「ヒルダ、俺はまどろっこしい事は苦手だ。小説だっていつも結末だけを先に考えてから書いている位なんだ。だから恋人同士になる事は一切考えていない」
そしてヒルダの手を握りしめると言った。
「ヒルダ…愛している。どうか俺と結婚してくれないか?俺はヒルダの手を絶対に離すつもりはない。この先もずっと…生涯かけて約束する」
勿論、ヒルダの言葉は決まっている。
「はい。どうか私を…ノワール様の…んっ」
そこから先、ヒルダの言葉は塞がれる。ノワールがヒルダにキスをしたからだ。
(ノワール様…)
ヒルダはノワールの首に腕を回し…その夜、2人は結ばれた―。
****
時は流れ、6月の日曜日―。
今日は二組の結婚式が同時に行われるおめでたい日だった。
その結婚式とは…。
ヒルダとノワール。そしてカミラとアレンの同時結婚式だった。この結婚式を提案したのは他でもない、カミラの方からだった。カミラはどうしても自分とヒルダは一緒に幸せになってもらいたいと強く願っていたからだった。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
海沿いに建つ真っ白なチャペルに鐘の音が鳴り響く。美しい海を背景に屋外での結婚式が開かれようとしていた。
「ヒルダ様…本当にお綺麗な姿です…」
青い空の下、ベンチに座り、純白のウェディングドレスに身を包んだカミラがヒルダのウェディングドレス姿を見て涙ぐんでいる。
「カミラ…貴女もとっても綺麗よ。ああ、泣いては駄目よ。お化粧が落ちてしまうわ?」
そういうヒルダの目にも涙が浮かんでいる。
そこへドレスアップしたハリスとマーガレットがカミラの姉夫婦と共にやってきた。
「2人共、まだこんなところにいたのか?新郎達が花嫁がまだ来ないとむくれていたぞ?」
ハリスがからかうように言う。
「まぁ、あなた。からかっては駄目よ。それよりもうすぐ式が始まるわ」
「はい、お母様」
ヒルダは返事をすると立ち上がった。カミラもすぐに立ち上がる。
「カミラ。行きましょう?」
ヒルダはカミラに手を伸ばした。
「はい、ヒルダ様」
カミラはしっかりその手を握りしめる。そして2人の花嫁は愛する花婿の元へと向かった。
式場の傍にはノワールが家族と一緒にいた。そして一旦カミラと別れてこちらへ向かって来るヒルダに気付き、駆け寄って来た。
「あ、ノワール様」
「ヒルダ…」
ノワールはヒルダを抱き寄せると言った。
「ヒルダ、中々戻ってこないから心配したぞ?」
「ごめんなさい。カミラと2人でベンチに座ってお話をしていたの」
「いや、別にヒルダを責めているわけじゃないんだ…」
そしてさらにヒルダを強く抱きしめると耳元で囁いた。
「本当に綺麗だ…ヒルダ。愛している」
「私も…ノワール様を愛しています」
固く抱きしめ合う2人をノワールの家族は優しい眼差しで見守っている。やがて抱擁を解くとノワールはヒルダに言った。
「それでは神父の所へ行こう?」
「はい!」
ヒルダはこぼれんばかりの笑顔で返事をする。
そして、この日…『ロータス』では前代未聞のダブル結婚式が行われ、二組の夫婦は新婦の前で永遠の愛を誓った―。
****
「ママー。絵本読んで~」
「早く早く~」
ベッドルームで生まれたばかりの赤子を寝かせつけていたヒルダの元に双子の男の子と女の子が絵本を持って現れた。2人共ヒルダにそっくりな青い目に金の髪のそれは美しい子供たちだった。
「ごめんね。もう少し待ってて。今赤ちゃんを寝かせつけているから」
ヒルダは愛し気に赤子を胸に抱きながら、今年6歳になる双子のエミールとエミリアに優しく語り掛ける。
「ええ~そんな~」
エミールが口をとがらせると、エミリアがたしなめた。
「駄目よ、エミール。お母さまを困らせたら」
そこへノワールが現れた。
「お前たち、本なら俺が読んでやるからママを困らせるな。ヒルダ、子供たちなら俺に任せておけ。丁度仕事が一段落したところだから」
「ありがとうございます。あなた」
「いや、当然さ…そうだ。どうせならこの部屋で2人に本を読んでやろう。どの本がいいんだ?」
ノワールが双子達に尋ねた。
「これ!この絵本読んで!」
エミリアが興奮した様子でノワールに絵本を見せた。
「!これは…」
その絵本はヒルダとノワールが初めて合作で出版した記念の絵本だった。
「まぁ…その絵本は…」
ヒルダも目を見開く。
「いい絵本を選んだな」
ノワールは目を細めてソファに腰かけるとエミールとエミリアを膝に座らせた。
「よし、それでは読むぞ。『昔々、あるところに冒険好きな仲良し兄妹が海沿いの家に住んでいました…』」
ヒルダはその様子を愛し気に見つめている。あの結婚式から早いもので7年の歳月が流れていた。ヒルダは3人の子供の母親になり、カミラも一男一女を設け、幸せに暮らしている。そしてエドガーは…風の便りによると、アンナと幸せな夫婦生活を送っているようだった。
初夏の清々しい風が波音と海の香りを運んでくる。
ヒルダの足は未だ治ってはいないが、以前に比べると麻痺が大分和らいでいた。それは毎晩ノワールがヒルダの足のマッサージをしてくれたからだった。
ヒルダが今、胸に抱きかかえている赤子の名前は『ルドルフ』と名付けられた。
この名前はノワールが名付けたのだ。
(ルドルフ…見ていてくれている?私…何も残されていない何て言ったけど…そんな事無かったわ。どうかいつまで私たちを見守っていて下さい…)
壮絶な少女時代を過ごしたヒルダ。
しかし真実の愛を見つけたヒルダはもう二度と不幸な目に遭う事は無かった。
長い人生の幕を閉じる、その時まで―。
<完>
※ 長文でしたが最後までお付き合い頂いた方々に感謝申し上げます
そんな未来を思い描いている自分がいる事に気付いてしまった。
(俺は…エドガーのように社交的では無い。不器用な人間だし、気の利く言葉を掛けてやることも出来ない駄目な人間だ…)
しかし、それでも物静かで穏やかなヒルダは気難しいノワールにとっては居心地が良かった。何より、ヒルダはノワールの初恋の相手だった。天使の様に愛らしかった少女は今や、まるで女神のような神々しい美しさをたたえる女性になっていた。
その何もかもに強く惹かれていた。
ノワールは俯き…気付くと、口が勝手に動いていた。
「ヒルダ…もし、俺がずっとこの家で暮らして欲しいと…いや、ずっと傍にいて欲しいと願ったら…どこにも行かずにここに居てくれるのか…?」
それはまるで告白と言っても過言では無かった。
「ノ、ノワール様…?」
ヒルダはその言葉に耳を疑った。
(何…?今のノワール様の言葉…もしかして、わ、私の事…)
ヒルダに声を掛けられ、ノワールはハッとなった。そして次の瞬間、自分がとんでもない台詞を口走っていたことに気付いた。見ると、目の前のヒルダは青い目を大きく見開き、自分をじっと見つめている。
「す、すまないっ!ヒルダ…い、今の言葉は…その…わ、忘れてくれ…」
(俺は何て馬鹿な事を…)
ノワールは自分で自分の言った言葉に激しく後悔した。
「忘れません…忘れたくありません…」
ヒルダが声を震わせながらノワールを見つめた。
「ヒルダ…」
「本当に…?本当に私…ずっと…ずっとここに居てもいいのですか…?」
ヒルダの大きな目から一滴の涙が落ちた。
「ヒルダ…泣いているのか…?」
「う、嬉しくて…」
「え?」
するとヒルダは涙交じりに言った。
「わ、私は今まで多くの辛い経験をしてきました…。ほとんどの人が…一度は私を捨てて来ました…。ですが、ノワール様は…違いました。私を捨てる事も無く…それどころか、ノワール様は私を拾って下さいました…」
「ヒルダ…」
「わ、私は…ノワール様の…手を取っても良い…と言う事なのですか?ずっと一緒にいても…良いと言う事ですか…?」
その言葉をノワールはヒルダからの告白だと受け取った。
「ああ、そうだ。ヒルダ。俺は…お前の事が好きだ。初めて会った時からずっと…」
ノワールは立ち上がり、ヒルダの傍に行くと跪いた。
「ヒルダ、俺はまどろっこしい事は苦手だ。小説だっていつも結末だけを先に考えてから書いている位なんだ。だから恋人同士になる事は一切考えていない」
そしてヒルダの手を握りしめると言った。
「ヒルダ…愛している。どうか俺と結婚してくれないか?俺はヒルダの手を絶対に離すつもりはない。この先もずっと…生涯かけて約束する」
勿論、ヒルダの言葉は決まっている。
「はい。どうか私を…ノワール様の…んっ」
そこから先、ヒルダの言葉は塞がれる。ノワールがヒルダにキスをしたからだ。
(ノワール様…)
ヒルダはノワールの首に腕を回し…その夜、2人は結ばれた―。
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時は流れ、6月の日曜日―。
今日は二組の結婚式が同時に行われるおめでたい日だった。
その結婚式とは…。
ヒルダとノワール。そしてカミラとアレンの同時結婚式だった。この結婚式を提案したのは他でもない、カミラの方からだった。カミラはどうしても自分とヒルダは一緒に幸せになってもらいたいと強く願っていたからだった。
ゴーン
ゴーン
ゴーン
海沿いに建つ真っ白なチャペルに鐘の音が鳴り響く。美しい海を背景に屋外での結婚式が開かれようとしていた。
「ヒルダ様…本当にお綺麗な姿です…」
青い空の下、ベンチに座り、純白のウェディングドレスに身を包んだカミラがヒルダのウェディングドレス姿を見て涙ぐんでいる。
「カミラ…貴女もとっても綺麗よ。ああ、泣いては駄目よ。お化粧が落ちてしまうわ?」
そういうヒルダの目にも涙が浮かんでいる。
そこへドレスアップしたハリスとマーガレットがカミラの姉夫婦と共にやってきた。
「2人共、まだこんなところにいたのか?新郎達が花嫁がまだ来ないとむくれていたぞ?」
ハリスがからかうように言う。
「まぁ、あなた。からかっては駄目よ。それよりもうすぐ式が始まるわ」
「はい、お母様」
ヒルダは返事をすると立ち上がった。カミラもすぐに立ち上がる。
「カミラ。行きましょう?」
ヒルダはカミラに手を伸ばした。
「はい、ヒルダ様」
カミラはしっかりその手を握りしめる。そして2人の花嫁は愛する花婿の元へと向かった。
式場の傍にはノワールが家族と一緒にいた。そして一旦カミラと別れてこちらへ向かって来るヒルダに気付き、駆け寄って来た。
「あ、ノワール様」
「ヒルダ…」
ノワールはヒルダを抱き寄せると言った。
「ヒルダ、中々戻ってこないから心配したぞ?」
「ごめんなさい。カミラと2人でベンチに座ってお話をしていたの」
「いや、別にヒルダを責めているわけじゃないんだ…」
そしてさらにヒルダを強く抱きしめると耳元で囁いた。
「本当に綺麗だ…ヒルダ。愛している」
「私も…ノワール様を愛しています」
固く抱きしめ合う2人をノワールの家族は優しい眼差しで見守っている。やがて抱擁を解くとノワールはヒルダに言った。
「それでは神父の所へ行こう?」
「はい!」
ヒルダはこぼれんばかりの笑顔で返事をする。
そして、この日…『ロータス』では前代未聞のダブル結婚式が行われ、二組の夫婦は新婦の前で永遠の愛を誓った―。
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「ママー。絵本読んで~」
「早く早く~」
ベッドルームで生まれたばかりの赤子を寝かせつけていたヒルダの元に双子の男の子と女の子が絵本を持って現れた。2人共ヒルダにそっくりな青い目に金の髪のそれは美しい子供たちだった。
「ごめんね。もう少し待ってて。今赤ちゃんを寝かせつけているから」
ヒルダは愛し気に赤子を胸に抱きながら、今年6歳になる双子のエミールとエミリアに優しく語り掛ける。
「ええ~そんな~」
エミールが口をとがらせると、エミリアがたしなめた。
「駄目よ、エミール。お母さまを困らせたら」
そこへノワールが現れた。
「お前たち、本なら俺が読んでやるからママを困らせるな。ヒルダ、子供たちなら俺に任せておけ。丁度仕事が一段落したところだから」
「ありがとうございます。あなた」
「いや、当然さ…そうだ。どうせならこの部屋で2人に本を読んでやろう。どの本がいいんだ?」
ノワールが双子達に尋ねた。
「これ!この絵本読んで!」
エミリアが興奮した様子でノワールに絵本を見せた。
「!これは…」
その絵本はヒルダとノワールが初めて合作で出版した記念の絵本だった。
「まぁ…その絵本は…」
ヒルダも目を見開く。
「いい絵本を選んだな」
ノワールは目を細めてソファに腰かけるとエミールとエミリアを膝に座らせた。
「よし、それでは読むぞ。『昔々、あるところに冒険好きな仲良し兄妹が海沿いの家に住んでいました…』」
ヒルダはその様子を愛し気に見つめている。あの結婚式から早いもので7年の歳月が流れていた。ヒルダは3人の子供の母親になり、カミラも一男一女を設け、幸せに暮らしている。そしてエドガーは…風の便りによると、アンナと幸せな夫婦生活を送っているようだった。
初夏の清々しい風が波音と海の香りを運んでくる。
ヒルダの足は未だ治ってはいないが、以前に比べると麻痺が大分和らいでいた。それは毎晩ノワールがヒルダの足のマッサージをしてくれたからだった。
ヒルダが今、胸に抱きかかえている赤子の名前は『ルドルフ』と名付けられた。
この名前はノワールが名付けたのだ。
(ルドルフ…見ていてくれている?私…何も残されていない何て言ったけど…そんな事無かったわ。どうかいつまで私たちを見守っていて下さい…)
壮絶な少女時代を過ごしたヒルダ。
しかし真実の愛を見つけたヒルダはもう二度と不幸な目に遭う事は無かった。
長い人生の幕を閉じる、その時まで―。
<完>
※ 長文でしたが最後までお付き合い頂いた方々に感謝申し上げます
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