嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第8章 18 今夜の予定は

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 17時半― 

「ただいま」

アパートメントに帰宅するとカミラが顔をのぞかせ、迎えに出て来た。

「お帰りなさいませ、ヒルダ様。寒かったのではないですか?お部屋はもう温めてありますから中へお入りください」

「ええ、ありがとう」

ヒルダはコートを脱いでフックに掛けると、カミラと共にリビングへ向かった。



リビングには既に美味しそうな料理の匂いが漂っている。

「今夜は特に冷えますのでお鍋の料理にしました」

カミラはテーブルの上に鶏肉が入ったクリームスープやバゲット、温野菜等を並べながら言った。

「まぁ、どれも美味しそう…頂きます」

そしてヒルダはカミラと温かな部屋で食事を食べながら思った。

(こうしてカミラと一緒に食事が出来るのもそろそろ終わりなのね…)

明日、アレンは19時にこのアパートメントを訪れる。
カミラとの結婚の返事について―。

(明日は…席を外した方が良さそうね。私がいれば話しにくいかもしれないから…)

アレンもカミラも何処かヒルダに結婚についてヒルダに遠慮しているところがあるように思えたのだ。なので明日は何処かへ出かけていようとヒルダは思うのだった―。


****


 翌日―

今日もヒルダはアルバイトの日だった。いつも通りに出勤し、一生懸命働いた。身体を動かしていれば辛い出来事を思い出す事も無かったからだ。

患者の手が空いたとき、診察室で包帯とガーゼの整理をしていたヒルダにアレンが声を掛けて来た。

「ヒルダ、カミラには今夜7時にアパートメントへ行く事はちゃんと伝わっているよな?」

「ええ、勿論です」

仕事の手を休め、アレンを振り返った。

「そうか…なら良かった」

アレンは何所かほっとしたようにため息をついた。そんなアレンを見てヒルダは言った。

「アレン先生」

「何だ?」

「私は早くカミラがアレン先生と結婚する事を望んでいます。カミラには私の事で苦労ばかりかけさせてしまっていたから…幸せになってもらいたいのです」

「ヒルダ…」

「アレン先生、カミラをどうぞよろしくお願いします」

「ああ。約束するよ」

(不思議な事もあるものだな…以前の俺は間違いないくヒルダに恋をしていたのに…今は冷静な目でヒルダを見る事が出来る。これも全てカミラのお陰だろうな)

アレンは返事をしながら思うのだった―。



****

 17時―

今日もヒルダは定時でアルバイトを終えると、診療所を出た。カミラには今夜は最近流行りのサイレント映画を観て来ると伝えてあった。映画を観て帰るとと言えばカミラが気を遣わないと思ったからだ。

「ヒルダ」

杖をついて薄暗い町中を歩いていると背後から声を掛けられた。

「え?」

突然呼びかけられて驚いて振り向くと、そこにはノワールが立っていた。

「ノワール様…一体どうされたのですか?何故こちらに?」

「ああ、買い物があってこの近くまで来たんだ。それで確かヒルダのアルバイト先はこのあたりじゃないかと思ってね。今から帰るのか?アパートメントまで馬車で送ろう」

「いいえ、アパートメントには今はまだ帰るつもりはないんです。アレン先生が19時に来る事になっていて、2人の邪魔をしない方が良いと思ってカミラに帰りは遅くなると伝えているんです。なので何処かで時間をつぶしてから帰ろうかと思っていたんです」

「そうなのか?なら丁度いい。実は今からある場所へ行くつもりだったんだが…一緒に行こう」

「え?何所へですか?」

「最近見つけた店なんだ。それじゃ行こう」

ノワールは返事も聞かずに歩き始めたので、ヒルダは慌ててその後を追った―。



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