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第5章 9 手紙の内容は
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「…」
夕食の後、ヒルダはリビングで便箋を前に考え込んでいた。
「ヒルダ様、何をされているのですか?」
薪ストーブの傍で編み物をしていたカミラが声を掛けて来た。
「実はノワール様からお兄様にお手紙を書くように言われていたの。だけど何を書けばよいのか思いつかなくて…」
「そうですか…」
カミラは編み物の手を休めて考え込んだ。ヒルダはカミラの編み物に気付き、声を掛けた。
「ねぇ、ひょっとしてその編み物は…アレン先生に?」
「え、ええ。分りましたか?」
カミラは頬を染めた。
「ええ、分るわ。ブラウンの毛糸ですもの。マフラーを編んでいるのかしら?」
「そうなんです。後少しでクリスマスですよね?編み始めたのが遅かったので今から間に合うかどうか…」
カミラは心配そうに小首を傾げた。
「カミラなら大丈夫よ。だって以前私のセーターを1週間で編んでくれた事があったじゃない」
「ええ。そうでしたね」
「だったら絶対に余裕で間に合うはずよ?」
ヒルダは笑顔をカミラに向ける。
「はい、頑張って編み上げます」
「そうね。アレン先生きっと喜んでくださるわ。だって恋人からの手編みのマフラーなんですもの」
「恋人…、そ・そうですね。た、確かに私とアレン先生は恋人…同士ですよね…」
ますます赤くなるカミラにヒルダは思った。
(良かった…カミラが幸せそうで。私は今までカミラに辛い時や悲しい時、いつも支えて貰っていたから…ぜったいにカミラには幸せになってもらいたいわ…)
けれど、カミラが結婚した後に自分はこのアパートメントで一人ぼっちになってしまう。もうヒルダは故郷のカウベリーで生活するという選択肢は頭に無かった。愛しいルドルフの思い出が沢山つまった故郷で…しかも領民から嫌われているヒルダは二度とカウベリーで暮らす事は無いだろうと心に決めていた。
突然黙ってしまったヒルダを見てカミラが声を掛けて来た。
「ヒルダ様。どうされましたか?」
「ううん、お兄様に何て手紙を書こうか考えていただけよ」
「そうですね。なら大学生活の事でも書かれたら如何でしょうか?」
「そうね…」
(そう言えば、以前お兄様は大学生活の話を楽しそうに聞いて下さったわ…そうしましょう)
ヒルダはペンを握りしめると、大学生活の事を書き始めた。
しかし、ヒルダは気付いていない。エドガーはヒルダの話ならどんな内容でも楽しく感じていると言う事を―。
****
翌日の午後4時―
今日はドロシーはアルバイトだと言う事で、ゼミに顔は出さない日だった。ヒルダは1人でゼミの教室に向かった。
(ノワール様、いるかしら…)
今このゼミに顔を出しているのはノワールだけであった。この時期、学生たちは試験も終わり、誰もがアルバイトや早目の休みに入っていたからである。そしてノワールはこのゼミの教室をまるで自室の様に使っていたのだ。
コンコン
扉をノックすると中から返事が聞こえた。
「誰だ?」
「私です、ヒルダです」
「何だ、ヒルダか。勝手に入って来るといいだろう?」
「はい、失礼致します…」
カチャリと扉を開けると、そこにはノワールが原稿用紙に向かっている姿があった。
(あ…ひょっとすると小説を書いているのかしら…)
ヒルダは入口の前に立ったまま、その様子を見ているとノワールが顔を上げてヒルダを見た。
「どうした?そんなところに立っていないで座ったらどうだ?」
「は、はい…」
ヒルダは小さく返事をすると、椅子に座るとノワールに声を掛けた。
「あの、ノワール様。お兄様に手紙を書いてきました」
「そうか。なら早速預かろう。きっとヒルダからの手紙だと知ったらあいつ、喜ぶだろうな」
「はい…」
ヒルダは複雑な気分で返事をしながらノワールに手紙を差し出した―。
夕食の後、ヒルダはリビングで便箋を前に考え込んでいた。
「ヒルダ様、何をされているのですか?」
薪ストーブの傍で編み物をしていたカミラが声を掛けて来た。
「実はノワール様からお兄様にお手紙を書くように言われていたの。だけど何を書けばよいのか思いつかなくて…」
「そうですか…」
カミラは編み物の手を休めて考え込んだ。ヒルダはカミラの編み物に気付き、声を掛けた。
「ねぇ、ひょっとしてその編み物は…アレン先生に?」
「え、ええ。分りましたか?」
カミラは頬を染めた。
「ええ、分るわ。ブラウンの毛糸ですもの。マフラーを編んでいるのかしら?」
「そうなんです。後少しでクリスマスですよね?編み始めたのが遅かったので今から間に合うかどうか…」
カミラは心配そうに小首を傾げた。
「カミラなら大丈夫よ。だって以前私のセーターを1週間で編んでくれた事があったじゃない」
「ええ。そうでしたね」
「だったら絶対に余裕で間に合うはずよ?」
ヒルダは笑顔をカミラに向ける。
「はい、頑張って編み上げます」
「そうね。アレン先生きっと喜んでくださるわ。だって恋人からの手編みのマフラーなんですもの」
「恋人…、そ・そうですね。た、確かに私とアレン先生は恋人…同士ですよね…」
ますます赤くなるカミラにヒルダは思った。
(良かった…カミラが幸せそうで。私は今までカミラに辛い時や悲しい時、いつも支えて貰っていたから…ぜったいにカミラには幸せになってもらいたいわ…)
けれど、カミラが結婚した後に自分はこのアパートメントで一人ぼっちになってしまう。もうヒルダは故郷のカウベリーで生活するという選択肢は頭に無かった。愛しいルドルフの思い出が沢山つまった故郷で…しかも領民から嫌われているヒルダは二度とカウベリーで暮らす事は無いだろうと心に決めていた。
突然黙ってしまったヒルダを見てカミラが声を掛けて来た。
「ヒルダ様。どうされましたか?」
「ううん、お兄様に何て手紙を書こうか考えていただけよ」
「そうですね。なら大学生活の事でも書かれたら如何でしょうか?」
「そうね…」
(そう言えば、以前お兄様は大学生活の話を楽しそうに聞いて下さったわ…そうしましょう)
ヒルダはペンを握りしめると、大学生活の事を書き始めた。
しかし、ヒルダは気付いていない。エドガーはヒルダの話ならどんな内容でも楽しく感じていると言う事を―。
****
翌日の午後4時―
今日はドロシーはアルバイトだと言う事で、ゼミに顔は出さない日だった。ヒルダは1人でゼミの教室に向かった。
(ノワール様、いるかしら…)
今このゼミに顔を出しているのはノワールだけであった。この時期、学生たちは試験も終わり、誰もがアルバイトや早目の休みに入っていたからである。そしてノワールはこのゼミの教室をまるで自室の様に使っていたのだ。
コンコン
扉をノックすると中から返事が聞こえた。
「誰だ?」
「私です、ヒルダです」
「何だ、ヒルダか。勝手に入って来るといいだろう?」
「はい、失礼致します…」
カチャリと扉を開けると、そこにはノワールが原稿用紙に向かっている姿があった。
(あ…ひょっとすると小説を書いているのかしら…)
ヒルダは入口の前に立ったまま、その様子を見ているとノワールが顔を上げてヒルダを見た。
「どうした?そんなところに立っていないで座ったらどうだ?」
「は、はい…」
ヒルダは小さく返事をすると、椅子に座るとノワールに声を掛けた。
「あの、ノワール様。お兄様に手紙を書いてきました」
「そうか。なら早速預かろう。きっとヒルダからの手紙だと知ったらあいつ、喜ぶだろうな」
「はい…」
ヒルダは複雑な気分で返事をしながらノワールに手紙を差し出した―。
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