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第5章 3 強引なノワール
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「あ、あの…出かけるって何所へ…?」
ヒルダは恐る恐る尋ねた。
「エボニーでクリスマスパーティーが開かれるんだ。そこに行く」
「え…?で、でも何故私を…?」
ヒルダはノワールが苦手だった。出来るだけ距離を置きたい相手なのに、一緒にクリスマスパーティーに参加するなど重荷でしかなかった。
「だってクリスマスは何も予定が無いのだろう?」
「確かにありませんが…」
(予定は無くてもアパートメントで好きな本を読んだり、絵本を書いたりしてみようと思ったのに…)
実はヒルダは最近になって絵本作家を目指すべく、自分で物語を書いてみたり、イラストを描くのが趣味になっていた。今年の冬期休暇はアルバイトと絵本作りに没頭してみようかと密かに考えていたのだ。
「クリスマスは楽しく過ごすものだ。ヒルダはクリスマスに俺と一緒にパーティーに出席する事、分ったな?」
「は、はい…」
半ば強引とも思える誘いをヒルダは断ることが出来なかった。何故ならヒルダは弱みを握られているようなものだったから。しかし、ヒルダは思った。
(私の行いで、少しでもハミルトン家に償えるなら…甘んじて受け入れましょう)
「ヒルダ。今日この後講義があるんだろう?」
「はい、そうです」
「今日の大学の講義が全て終わるのは何時だ?」
「16時ですけど?」
「その後は何か用事が入っているのか?例えばアルバイトとか…」
「アルバイトは基本、大学に通っている時は各週の土曜日だけ行ってます。学校が休暇中の時は週に4回通っています」
正直なヒルダは聞かれてもいないことまで説明した。
「そうか、16時までだな。それじゃ講義が終わったら、この教室に来るんだぞ?分ったな?」
「え?何故ですか?」
(まさか今日も…一緒に出掛けるつもりなのかしら…)
しかし、ヒルダの質問が気に入らなかったのかノワールは眉をしかめた。
「ヒルダ。前から聞こうと思っていたが…そんなに俺の事が嫌か?」
「い、いえ。嫌と言う訳では無く…」
ヒルダはビクリとした。その様子を見たノワールは溜息をついた。
「まぁいい。とにかく今日は後で一緒に出掛けるからな」
その時、タイミングよく講義が始まる10分前のチャイムが鳴り響いた。
(た、助かったわ…!)
「あ、あの。それではもう私行きますね」
ヒルダは慌ただしく読んでいた本を片付け、リュックを背負うとノワールに頭を下げた。
「それでは失礼致します」
「…ああ」
ノワールはヒルダの顔を見る事も無く返事をする。返事を貰ったヒルダは扉を開けると教室を出て行った。
「…」
ヒルダが出て行く後ろ姿をノワールは意味深な目でじっと見つめていた―。
****
「えっ?!ノワール先輩にクリスマスパーティーに誘われた?!」
本日一番最後の講義終了後、ドロシーが驚きの声を上げた。
「ドロシー、声が大きいわ。他の人達に聞かれちゃう」
ヒルダはキョロキョロしながら小声で言う。
「あ、ごめんなさい。つい…」
そしてため息をつくと言った。
「全くノワール先輩は何を考えているかさっぱり分らないわ。あんなに女子学生から人気があるのに、恋人すらいないみたいだし、ぶっきらぼうだし…」
「そうね…あ、いけない。もうすぐ約束の時間になるわ。ごめんなさい、先に行くわね」
ヒルダは急いで荷物を片付けた。
「ええ、分ったわ。それじゃ…頑張ってね?」
何をどう頑張ればよいのかヒルダは分らなかったが笑みを浮かべて返事をする。
「ええ、頑張るわ」
ヒルダは立ち上がり、ドロシーに手を振ると痛む足を引きずりながらゼミの教室を目指した―。
ヒルダは恐る恐る尋ねた。
「エボニーでクリスマスパーティーが開かれるんだ。そこに行く」
「え…?で、でも何故私を…?」
ヒルダはノワールが苦手だった。出来るだけ距離を置きたい相手なのに、一緒にクリスマスパーティーに参加するなど重荷でしかなかった。
「だってクリスマスは何も予定が無いのだろう?」
「確かにありませんが…」
(予定は無くてもアパートメントで好きな本を読んだり、絵本を書いたりしてみようと思ったのに…)
実はヒルダは最近になって絵本作家を目指すべく、自分で物語を書いてみたり、イラストを描くのが趣味になっていた。今年の冬期休暇はアルバイトと絵本作りに没頭してみようかと密かに考えていたのだ。
「クリスマスは楽しく過ごすものだ。ヒルダはクリスマスに俺と一緒にパーティーに出席する事、分ったな?」
「は、はい…」
半ば強引とも思える誘いをヒルダは断ることが出来なかった。何故ならヒルダは弱みを握られているようなものだったから。しかし、ヒルダは思った。
(私の行いで、少しでもハミルトン家に償えるなら…甘んじて受け入れましょう)
「ヒルダ。今日この後講義があるんだろう?」
「はい、そうです」
「今日の大学の講義が全て終わるのは何時だ?」
「16時ですけど?」
「その後は何か用事が入っているのか?例えばアルバイトとか…」
「アルバイトは基本、大学に通っている時は各週の土曜日だけ行ってます。学校が休暇中の時は週に4回通っています」
正直なヒルダは聞かれてもいないことまで説明した。
「そうか、16時までだな。それじゃ講義が終わったら、この教室に来るんだぞ?分ったな?」
「え?何故ですか?」
(まさか今日も…一緒に出掛けるつもりなのかしら…)
しかし、ヒルダの質問が気に入らなかったのかノワールは眉をしかめた。
「ヒルダ。前から聞こうと思っていたが…そんなに俺の事が嫌か?」
「い、いえ。嫌と言う訳では無く…」
ヒルダはビクリとした。その様子を見たノワールは溜息をついた。
「まぁいい。とにかく今日は後で一緒に出掛けるからな」
その時、タイミングよく講義が始まる10分前のチャイムが鳴り響いた。
(た、助かったわ…!)
「あ、あの。それではもう私行きますね」
ヒルダは慌ただしく読んでいた本を片付け、リュックを背負うとノワールに頭を下げた。
「それでは失礼致します」
「…ああ」
ノワールはヒルダの顔を見る事も無く返事をする。返事を貰ったヒルダは扉を開けると教室を出て行った。
「…」
ヒルダが出て行く後ろ姿をノワールは意味深な目でじっと見つめていた―。
****
「えっ?!ノワール先輩にクリスマスパーティーに誘われた?!」
本日一番最後の講義終了後、ドロシーが驚きの声を上げた。
「ドロシー、声が大きいわ。他の人達に聞かれちゃう」
ヒルダはキョロキョロしながら小声で言う。
「あ、ごめんなさい。つい…」
そしてため息をつくと言った。
「全くノワール先輩は何を考えているかさっぱり分らないわ。あんなに女子学生から人気があるのに、恋人すらいないみたいだし、ぶっきらぼうだし…」
「そうね…あ、いけない。もうすぐ約束の時間になるわ。ごめんなさい、先に行くわね」
ヒルダは急いで荷物を片付けた。
「ええ、分ったわ。それじゃ…頑張ってね?」
何をどう頑張ればよいのかヒルダは分らなかったが笑みを浮かべて返事をする。
「ええ、頑張るわ」
ヒルダは立ち上がり、ドロシーに手を振ると痛む足を引きずりながらゼミの教室を目指した―。
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