嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第5章 2 クリスマスの誘い

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 ヒルダとドロシーはゼミの教室で思い思いに本を読んでいた。不意にドロシーがヒルダに尋ねてきた。

「ヒルダ、冬休みは実家に里帰りするの?」

「え?」

その言葉にドキリとしたヒルダは一瞬固まってしまった。

「あら?どうしたの?その顔は…何だか困ったように見えるけど?」

「そ、そう?自分ではあまり意識していなかったけど…」

「…ひょっとすると実家には帰らないつもり?」

「…帰らないかもしれないわ」

ヒルダはポツリと呟いた。エドガーの家族に会って、フィールズ家がどれほど憎まれているかよく分かった。自分たちの利益のためにエドガーを踏み台にして自分は大学へ通っているのかと思うと罪悪感で一杯だった。

(いくら知らなかったとはいえ、私はお兄様の不幸の上に立っている…罪深い人間。そんな立場の私がフィールズ家に戻って一家団欒の時間を過ごすなんて無理よ…)

それに離れの屋敷にはエドガーがいる。フィールズ家に戻れば必ずエドガーに遭遇してしまうだろう。それだけは避けたほうが良いと思ったのだ。

「どうしたの?ヒルダ」

ドロシーは自分の質問でヒルダが押し黙ってしまった姿をみて心配そうに声を掛けてきた。

「う、ううん。何でも無いの」

その時、授業開始5分前のチャイムが鳴った。

「あ、行けない。私、次の講義に出席しなくちゃ」

ドロシーは本を閉じると立ち上がった。これから教員資格を取得するための必須科目の講義があるのだ。

「行ってらっしゃい」

ヒルダは座ったままドロシーに声を掛けた。

「そう言えばこの時間はヒルダは講義が入っていないのよね?」

「ええ、だから次の講義までここで本を読んでいるわ」

「そう?それじゃ講義が終わったらまた戻ってくるわね」

ドロシーは手を振ると教室から去っていった。ヒルダも手を振って見送り、扉が閉じられると再び本に視線を落した。

カチコチと響く時計の音と、時折ペラペラと頁をめくる音が教室に響く。どれくらい時間が経過しただろうか…。

突然カチャリと扉が開く音が聞こえ、ハッとなったヒルダが顔を上げた。すると教室に入ってきたのはノワールだった。

「こんにちは、ノワール様」

「ヒルダ、ここにいたのか」

あの日…ノワールと一緒に『エボニー』へ行って以来、ヒルダとノワールは2人きりで顔を合わすことが無かった。

(困ったわ…気まずいからカフェに行きましょう。きっとノワール様もその方が良いだろうし…)

「それでは私は…」

ガタンと席を立ったところでノワールに声を掛けられた。

「待て、何処へ行くつもりだ?」

「え…っと…カフェテリアへ…」

「コーヒーが飲みたいならここで飲めばいいだろう?しかも外は寒い。雪が降っているんだぞ?足が痛むんじゃないのか?」

「え?雪が?」

慌てて窓の外を見ると、確かに小雪が舞っていた。

「そんな…いつの間に…」

ヒルダがポツリと呟くと、ノワールはテーブルの上に置いてあるアルコールランプに火をつけると言った。

「ヒルダ、クリスマスは何か予定があるのか?」

「いいえ?何もありませんけど」

「そうか、なら予定をあけておけよ。一緒に出掛けるからな」

「え…?」

それは有無を言わさない態度だった―。

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