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第4章 1 突然の誘い
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10月―
ヒルダが大学に入学し、1カ月が経過していた。大学生活にも少しずつ慣れて来たヒルダは授業とゼミの研究に励んでいた。ヒルダ達以外に他に新入生は3名入って来たが、あまり熱心に参加する事は無く、ほとんど出席しているのはヒルダとドロシーのみだった。他の学年の学生達もあまり顔を出す事が無く、誰がゼミ生なのか未だにヒルダは把握できていなかった。どうやら彼らはゼミよりもサークル活動に力を入れているらしい。一度、ドロシーが憤慨しながらヒルダにそう説明したのだ。
そんな不真面目な学生とは反対に毎日の様にゼミの教室に顔を出すのはこのゼミの部長であるノワールだったが、相変わらずそっけない態度でヒルダは対応に困っていた。用事があって話しかけてもノワールは視線を合わす事無くヒルダと会話し、用が無くなれば、もう話しかけないでくれとあからさまな態度を取って来るのはやはり少し心が傷付いた。
(ノワール様は本当に私の事が嫌いなのね…やっぱりゼミに入らない方が良かったかしら…。でも…)
この教室にはヒルダが好きな本が沢山置いてある。それは非常に魅力的な事だった。そしてゼミの授業も面白い。だからヒルダは居心地が悪くてもゼミを辞める気は無かった。
そしてそんなある日の事―
****
その日、ドロシーは家庭教師のバイトがあると言う事でゼミを休んだ。そこでヒルダは授業終了後、ゼミの教室に行ってみると運の悪い事にノワールが1人、椅子に座り本を読んでいた。
(ノワール様…!)
ここ1週間程、ノワールはゼミに顔を出す事が無かった。教授によると風邪を退いてしまった為、大学を休んでいるとの事だったのだが…。
(風邪が治って大学へ来たのね…。困ったわ、今日はドロシーもいないし…)
ドロシーと一緒ならまだノワールと同じ教室にいても平気だったが、肝心のドロシーは今ここにいない。
(今日は帰った方が良さそうね…)
ゼミは自由参加になっているし、教授も週に2回程しか現れない。それなら1日位…そう思ったヒルダは背中を向けて帰りかけた時、背後から声を掛けられた。
「帰るのか?ゼミに来たんじゃないのか?」
「え?」
振り向くとすぐ背後に背の高いノワールがヒルダを見下ろしていた。
(そ、そんな…いつの間に…)
ヒルダに緊張が走る。するとノワールがため息をつきながら言った。
「全く…何て顔をして俺を見るんだ?そんなに俺が怖いのか?」
「え…」
(ど、どうしよう…顔に出ていたのだわ!)
「あ、あの…別にそういう訳では…」
「じゃあ、どういう訳なんだ?」
「!そ、それは…」
そこまで言うとヒルダは黙ってしまった。なんといえば良いのか分からなかったのだ。
「…まぁいい。とにかく中へ入れよ。丁度ヒルダに話があったからな」
不意と背中を向けて教室の中へ入って行くノワール。
(私に話…?)
ヒルダは思わず戸惑い、その場に佇んでいると再びノワールが声を掛けて来た。
「何してるんだ?何度も同じことを言わせないでくれないか?早く入れよ」
「は、はい…」
ヒルダは緊張した面持ちで教室に入った。
「ここへ座れよ」
中へ入ると、ノワールに向かい側の席に座るように言われた。
「はい…」
大人しく座るとノワールが言った。
「今度の日曜日、何か予定があるか?」
いきなりの質問に驚きながらもヒルダは言った。
「いえ、何もありませんけど」
「そうか…なら一緒に来てもらおう」
「え?ど、どこにですか?!」
ヒルダは驚いて目を見開いた。
「『エボニー』という町だ。ここから汽車で1時間弱で到着できる。一緒に俺の実家に行って貰おうと思ってね」
「!」
ヒルダはその言葉に衝撃を受けた―。
ヒルダが大学に入学し、1カ月が経過していた。大学生活にも少しずつ慣れて来たヒルダは授業とゼミの研究に励んでいた。ヒルダ達以外に他に新入生は3名入って来たが、あまり熱心に参加する事は無く、ほとんど出席しているのはヒルダとドロシーのみだった。他の学年の学生達もあまり顔を出す事が無く、誰がゼミ生なのか未だにヒルダは把握できていなかった。どうやら彼らはゼミよりもサークル活動に力を入れているらしい。一度、ドロシーが憤慨しながらヒルダにそう説明したのだ。
そんな不真面目な学生とは反対に毎日の様にゼミの教室に顔を出すのはこのゼミの部長であるノワールだったが、相変わらずそっけない態度でヒルダは対応に困っていた。用事があって話しかけてもノワールは視線を合わす事無くヒルダと会話し、用が無くなれば、もう話しかけないでくれとあからさまな態度を取って来るのはやはり少し心が傷付いた。
(ノワール様は本当に私の事が嫌いなのね…やっぱりゼミに入らない方が良かったかしら…。でも…)
この教室にはヒルダが好きな本が沢山置いてある。それは非常に魅力的な事だった。そしてゼミの授業も面白い。だからヒルダは居心地が悪くてもゼミを辞める気は無かった。
そしてそんなある日の事―
****
その日、ドロシーは家庭教師のバイトがあると言う事でゼミを休んだ。そこでヒルダは授業終了後、ゼミの教室に行ってみると運の悪い事にノワールが1人、椅子に座り本を読んでいた。
(ノワール様…!)
ここ1週間程、ノワールはゼミに顔を出す事が無かった。教授によると風邪を退いてしまった為、大学を休んでいるとの事だったのだが…。
(風邪が治って大学へ来たのね…。困ったわ、今日はドロシーもいないし…)
ドロシーと一緒ならまだノワールと同じ教室にいても平気だったが、肝心のドロシーは今ここにいない。
(今日は帰った方が良さそうね…)
ゼミは自由参加になっているし、教授も週に2回程しか現れない。それなら1日位…そう思ったヒルダは背中を向けて帰りかけた時、背後から声を掛けられた。
「帰るのか?ゼミに来たんじゃないのか?」
「え?」
振り向くとすぐ背後に背の高いノワールがヒルダを見下ろしていた。
(そ、そんな…いつの間に…)
ヒルダに緊張が走る。するとノワールがため息をつきながら言った。
「全く…何て顔をして俺を見るんだ?そんなに俺が怖いのか?」
「え…」
(ど、どうしよう…顔に出ていたのだわ!)
「あ、あの…別にそういう訳では…」
「じゃあ、どういう訳なんだ?」
「!そ、それは…」
そこまで言うとヒルダは黙ってしまった。なんといえば良いのか分からなかったのだ。
「…まぁいい。とにかく中へ入れよ。丁度ヒルダに話があったからな」
不意と背中を向けて教室の中へ入って行くノワール。
(私に話…?)
ヒルダは思わず戸惑い、その場に佇んでいると再びノワールが声を掛けて来た。
「何してるんだ?何度も同じことを言わせないでくれないか?早く入れよ」
「は、はい…」
ヒルダは緊張した面持ちで教室に入った。
「ここへ座れよ」
中へ入ると、ノワールに向かい側の席に座るように言われた。
「はい…」
大人しく座るとノワールが言った。
「今度の日曜日、何か予定があるか?」
いきなりの質問に驚きながらもヒルダは言った。
「いえ、何もありませんけど」
「そうか…なら一緒に来てもらおう」
「え?ど、どこにですか?!」
ヒルダは驚いて目を見開いた。
「『エボニー』という町だ。ここから汽車で1時間弱で到着できる。一緒に俺の実家に行って貰おうと思ってね」
「!」
ヒルダはその言葉に衝撃を受けた―。
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