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第1章 13 カミラとマーガレット
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その日―
エドガーは朝から浮かれていた。本来であれば、明日はヒルダが『ロータス』に帰る日なので落ち込むべきなのだろう。現に昨夜までのエドガーは酷く落ち込んでいた。それはヒルダがフィールズ家に滞在中、一度たりとも2人きりになれた事が無かったからだ。唯一、お菓子作りのときは2人だけの時間を過ごせると思っていたのに、カミラが必ずついていた。そこでエドガーは薄々感づいていたのだ。
(恐らく父と母が俺とヒルダを2人きりにさせまいとしてるのだろうな…)
だから今朝、マーガレットに今日の夕食はヒルダと2人で食事をとってほしいと言われたときは本当に嬉しかった。そして思った。ひょっとすると母は自分の味方なのではないだろうかと…。だが、エドガーは気付いていなかった。何故母がヒルダと2人きりの夕食の場を設けたのか、その真の意図に―。
****
午後1時―
ヒルダはカミラと共にルドルフの墓に墓参りに来ていた。ルドルフの墓は小高い丘に立てられており、そこから遠くにフィールズ家の屋敷が見えた。
「ルドルフ、貴方の好きなカトレアの花を持ってきたわ」
ヒルダは両手に抱えきれないほどの真っ白なカトレアの花束をそっとルドルフの墓に乗せると、墓石に手を触れた。
「ルドルフ…私、この夏から大学生になったわ。本当なら…もう貴方と結婚していたかもしれないわね…。ルドルフ、いずれ私も貴方の元へ逝ったときは…お嫁さんにしてね…?」
最後の方は涙声だった。ルドルフがこの世を去って早いもので1年半が経過していた。だが、ヒルダはルドルフのことが忘れられなかった。それほど深くルドルフの事を愛していたのだった。
カミラは少しだけ離れた場所でその様子を見守っていた。それはヒルダを1人きりにさせて、墓で眠るルドルフに思いの丈を打ち明けさせてあげる為のカミラの心遣いであった。
「ルドルフ…いつまでも貴方を愛しているわ。また貴方に会いに来るわね」
そしてヒルダは両手を組んで祈りを捧げると、カミラの方を向いた。
「ヒルダ様、終わったのですか?」
カミラが近づきながら声を掛けてきた。
「ええ、終わったわ」
「そうですか、では…屋敷に帰りましょうか?」
「ええ」
そしてヒルダとカミラは馬車に戻るため、歩き始めた。途中、ヒルダは一度だけルドルフの墓を振り返った。『ロータス』に戻る前に、ルドルフの墓を目に焼き付けておきたかったからだ。
「ヒルダ様?どうかされましたか?」
そんなヒルダを見てカミラが不思議そうに首を傾げた。
「いいえ、何でも無いわ。行きましょう」
「はい」
そして今度こそヒルダは馬車へ向かった―。
****
「お願いね、カミラ。今夜はヒルダとエドガーの2人だけで食事を食べさせてあげてね?」
ヒルダと一緒にルドルフのお墓参りから帰ってきたカミラはすぐにマドレーヌの部屋に呼ばれていた。そして言われたのだった。
「はい…ですが、本当によろしいのでしょうか?エドガー様とヒルダ様を2人きりにさせても。旦那様からは決して御二人だけにさせないように申し使っているのですが…」
「ええ、そうなの。ハリスはエドガーとヒルダを2人きりにさせて、なにか間違いがあったら大変だと考えているのよ」
「そうですか…」
だが、カミラは思った。
(きっと奥様はご存じないのでしょうね…ヒルダ様とルドルフ様がもう身体が結ばれているという事実に…)
ヒルダは何も言わなかったが、ずっと誰よりも近くでヒルダを見てきたカミラには気付いていたのだ。ヒルダとルドルフは男女の仲になっているという事に…。
「奥様、お帰りは何時頃になるのでしょうか?」
「そうね。恐らく夜9時を過ぎると思うわ。でもハリスの帰宅は深夜になるかも知れないと言っていたから…。カミラ、くれぐれも今夜の事はハリスには内緒にしておいてね」
「はい、かしこまりました」
カミラは返事をした―。
エドガーは朝から浮かれていた。本来であれば、明日はヒルダが『ロータス』に帰る日なので落ち込むべきなのだろう。現に昨夜までのエドガーは酷く落ち込んでいた。それはヒルダがフィールズ家に滞在中、一度たりとも2人きりになれた事が無かったからだ。唯一、お菓子作りのときは2人だけの時間を過ごせると思っていたのに、カミラが必ずついていた。そこでエドガーは薄々感づいていたのだ。
(恐らく父と母が俺とヒルダを2人きりにさせまいとしてるのだろうな…)
だから今朝、マーガレットに今日の夕食はヒルダと2人で食事をとってほしいと言われたときは本当に嬉しかった。そして思った。ひょっとすると母は自分の味方なのではないだろうかと…。だが、エドガーは気付いていなかった。何故母がヒルダと2人きりの夕食の場を設けたのか、その真の意図に―。
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午後1時―
ヒルダはカミラと共にルドルフの墓に墓参りに来ていた。ルドルフの墓は小高い丘に立てられており、そこから遠くにフィールズ家の屋敷が見えた。
「ルドルフ、貴方の好きなカトレアの花を持ってきたわ」
ヒルダは両手に抱えきれないほどの真っ白なカトレアの花束をそっとルドルフの墓に乗せると、墓石に手を触れた。
「ルドルフ…私、この夏から大学生になったわ。本当なら…もう貴方と結婚していたかもしれないわね…。ルドルフ、いずれ私も貴方の元へ逝ったときは…お嫁さんにしてね…?」
最後の方は涙声だった。ルドルフがこの世を去って早いもので1年半が経過していた。だが、ヒルダはルドルフのことが忘れられなかった。それほど深くルドルフの事を愛していたのだった。
カミラは少しだけ離れた場所でその様子を見守っていた。それはヒルダを1人きりにさせて、墓で眠るルドルフに思いの丈を打ち明けさせてあげる為のカミラの心遣いであった。
「ルドルフ…いつまでも貴方を愛しているわ。また貴方に会いに来るわね」
そしてヒルダは両手を組んで祈りを捧げると、カミラの方を向いた。
「ヒルダ様、終わったのですか?」
カミラが近づきながら声を掛けてきた。
「ええ、終わったわ」
「そうですか、では…屋敷に帰りましょうか?」
「ええ」
そしてヒルダとカミラは馬車に戻るため、歩き始めた。途中、ヒルダは一度だけルドルフの墓を振り返った。『ロータス』に戻る前に、ルドルフの墓を目に焼き付けておきたかったからだ。
「ヒルダ様?どうかされましたか?」
そんなヒルダを見てカミラが不思議そうに首を傾げた。
「いいえ、何でも無いわ。行きましょう」
「はい」
そして今度こそヒルダは馬車へ向かった―。
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「お願いね、カミラ。今夜はヒルダとエドガーの2人だけで食事を食べさせてあげてね?」
ヒルダと一緒にルドルフのお墓参りから帰ってきたカミラはすぐにマドレーヌの部屋に呼ばれていた。そして言われたのだった。
「はい…ですが、本当によろしいのでしょうか?エドガー様とヒルダ様を2人きりにさせても。旦那様からは決して御二人だけにさせないように申し使っているのですが…」
「ええ、そうなの。ハリスはエドガーとヒルダを2人きりにさせて、なにか間違いがあったら大変だと考えているのよ」
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「そうね。恐らく夜9時を過ぎると思うわ。でもハリスの帰宅は深夜になるかも知れないと言っていたから…。カミラ、くれぐれも今夜の事はハリスには内緒にしておいてね」
「はい、かしこまりました」
カミラは返事をした―。
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