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第1章 12 マーガレットの策
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ヒルダが『カウベリー』に帰省して、早いもので1週間が経過していた。カウベリーに滞在中、ヒルダはずっと穏やかな時を過ごしていた。カミラと母の3人で馬車に乗り、湖までピクニックに行ったり、時にはエドガーと一緒にケーキ作りをしたり、ある日はルドルフの墓参りに行ったり…そしていよいよ明日、ヒルダが『ロータス』へ戻る時がやってきた。
朝食後、ヒルダは自室で荷造りをしていた。
コンコン
そこへ部屋の扉がノックされて、母の声が聞こえて来た。
「ヒルダ、ちょっといいかしら?」
「はい、どうぞ」
するとカチャリと扉が開かれ、マーガレットが部屋に入って来た。そしてヒルダが荷造りをしている様子を見て言った。
「もう殆ど荷造りは終わったのね」
「はい、この衣類を詰めたらもう終わりです」
「そうなのね。ところでヒルダ…」
マーガレットは言葉を濁している。
「お母様?どうかされたのですか?」
「え、ええ…。ヒルダ、今日は…お父様は帰りが遅いのよ。急用が出来て」
「はい」
「だから、お夕食は皆で揃って食べる事が出来ないの」
「はい…?」
ヒルダは母が何を言いたいのか、よく分らなかった。
「そ、それでね…私も今夜はちょっと…お友達の家でお夕食を頂くことになっているの」
「あ、それでは今夜の夕食は私1人でと言う事でしょうか?」
ヒルダはそれでも構わないと思っていた。里帰り中は、必ず昼食以外は家族全員で食事を取り、十分過ぎる程に一家団欒の時を過ごす事が出来たからだ。
「い、いえ。そうじゃないの。エドガーが一緒よ」
マーガレットは慌てた様に言う。
「お兄様が一緒なのですか?てっきりお父様と一緒にお仕事に行かれて夕食もいらっしゃらないのかと思っていました」
ヒルダが何故、そう思ったか…。それはここ1週間フィールズ家に住み、常にハリスとエドガーは一緒に仕事をし、行動を共にしていた事を知ったからだ。そして仕事の空き時間にヒルダとケーキ作りをしていたが、その間ずっと厨房にはカミラが付き添っていた。
「ええ、今夜はお父様だけのお仕事の話なの」
「そうなのですね」
「だからお夕食はヒルダとエドガーの2人で取ってね」
「はい、分りました。そう言えば…初めてですね」
「何が初めてなのかしら?」
マーガレットは質問した。
「はい、お兄様と2人きりになることがです」
ヒルダは何も意識しないで話たが、その言葉にマーガレットはドキリとした。何故ならハリスからは絶対にヒルダとエドガーを2人きりにさせてはいけないと命じられていたからだ。ハリスはマーガレットにこう言ったのだ。
<どうもエドガーの様子がおかしい。ヒルダを見つめる目は完全に異性に恋する目をしている。エドガーは良い青年だし、もし仮に結婚したとすればきっとヒルダを大切にしてくれるだろう。だがヒルダだけは絶対に駄目だ。認める訳にはいかない。エドガーにはこの『カウベリー』を豊かにして貰わなければならない。その為には有力貴族の娘と結婚して貰わなければならないのだ。ヒルダと一緒になって貰っては困るのだ。こんな事を言うのは…どうかと思うが、万一2人きりにさせてエドガーとヒルダが男女の仲になりでもしたら大変な事になる。それを防ぐ為にも2人きりにさせてはいけない>
と―。
しかし、マーガレットは大げさに考え過ぎだと思っていた。それよりもマーガレットにはもっと気になることがあった。それはエドガ―の事である。アンナから手紙が届いてから、ずっとエドガーの様子がおかしいのだ。何かあったのかと尋ねてみても、別になにもありませんよと笑顔で答える様子に違和感を感じた。
(ヒルダになら…何か話すかもしれない…)
マーガレットはそう考え、ヒルダとエドガーの2人きりの場を設けようと決心したのだった―。
朝食後、ヒルダは自室で荷造りをしていた。
コンコン
そこへ部屋の扉がノックされて、母の声が聞こえて来た。
「ヒルダ、ちょっといいかしら?」
「はい、どうぞ」
するとカチャリと扉が開かれ、マーガレットが部屋に入って来た。そしてヒルダが荷造りをしている様子を見て言った。
「もう殆ど荷造りは終わったのね」
「はい、この衣類を詰めたらもう終わりです」
「そうなのね。ところでヒルダ…」
マーガレットは言葉を濁している。
「お母様?どうかされたのですか?」
「え、ええ…。ヒルダ、今日は…お父様は帰りが遅いのよ。急用が出来て」
「はい」
「だから、お夕食は皆で揃って食べる事が出来ないの」
「はい…?」
ヒルダは母が何を言いたいのか、よく分らなかった。
「そ、それでね…私も今夜はちょっと…お友達の家でお夕食を頂くことになっているの」
「あ、それでは今夜の夕食は私1人でと言う事でしょうか?」
ヒルダはそれでも構わないと思っていた。里帰り中は、必ず昼食以外は家族全員で食事を取り、十分過ぎる程に一家団欒の時を過ごす事が出来たからだ。
「い、いえ。そうじゃないの。エドガーが一緒よ」
マーガレットは慌てた様に言う。
「お兄様が一緒なのですか?てっきりお父様と一緒にお仕事に行かれて夕食もいらっしゃらないのかと思っていました」
ヒルダが何故、そう思ったか…。それはここ1週間フィールズ家に住み、常にハリスとエドガーは一緒に仕事をし、行動を共にしていた事を知ったからだ。そして仕事の空き時間にヒルダとケーキ作りをしていたが、その間ずっと厨房にはカミラが付き添っていた。
「ええ、今夜はお父様だけのお仕事の話なの」
「そうなのですね」
「だからお夕食はヒルダとエドガーの2人で取ってね」
「はい、分りました。そう言えば…初めてですね」
「何が初めてなのかしら?」
マーガレットは質問した。
「はい、お兄様と2人きりになることがです」
ヒルダは何も意識しないで話たが、その言葉にマーガレットはドキリとした。何故ならハリスからは絶対にヒルダとエドガーを2人きりにさせてはいけないと命じられていたからだ。ハリスはマーガレットにこう言ったのだ。
<どうもエドガーの様子がおかしい。ヒルダを見つめる目は完全に異性に恋する目をしている。エドガーは良い青年だし、もし仮に結婚したとすればきっとヒルダを大切にしてくれるだろう。だがヒルダだけは絶対に駄目だ。認める訳にはいかない。エドガーにはこの『カウベリー』を豊かにして貰わなければならない。その為には有力貴族の娘と結婚して貰わなければならないのだ。ヒルダと一緒になって貰っては困るのだ。こんな事を言うのは…どうかと思うが、万一2人きりにさせてエドガーとヒルダが男女の仲になりでもしたら大変な事になる。それを防ぐ為にも2人きりにさせてはいけない>
と―。
しかし、マーガレットは大げさに考え過ぎだと思っていた。それよりもマーガレットにはもっと気になることがあった。それはエドガ―の事である。アンナから手紙が届いてから、ずっとエドガーの様子がおかしいのだ。何かあったのかと尋ねてみても、別になにもありませんよと笑顔で答える様子に違和感を感じた。
(ヒルダになら…何か話すかもしれない…)
マーガレットはそう考え、ヒルダとエドガーの2人きりの場を設けようと決心したのだった―。
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