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第5章 21 エドガーの告白
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ガラガラガラガラ…
駅へ向かって走り続ける馬車の中でエドガーがヒルダに話しかけてきた。
「ヒルダ、明後日から学校が始まるのだろう?」
「ええ、そうです」
「どうだ?ちゃんと…登校できそうか?」
「はい、大丈夫です。私はきちんと高校を卒業して大学にも進学したいので」
「そうか。その考えは変わらないのか?もうカウベリーに戻って暮らすつもりはないのか?」
「はい…カウベリーは…やはり私の居場所では無かったようです」
「ヒルダ!何故、そんな風に考えるんだ?」
するとヒルダは悲しげな笑みを浮かべると言った。
「お兄様も聞きましたよね?教会での私の噂話。」
「あ…」
「私は…人を狂わせる人間なんです。カウベリーの人達にとっては、そうみえるんです」
「何を言ってるんだっ?!そんなはずはない!それに第一…」
言いかけてエドガーは口を閉ざした。ヒルダの事を悪く言った人間を締め上げた事実を知られ、乱暴な男だとヒルダに思われたくは無かったからだ。
「お兄様?」
「いや…何でも無い。それよりヒルダ。お前はバイトも続けるつもりか?」
「はい、そのつもりです」
「何故だ?父はこれからもお前に援助すると話していたぞ?」
「ええ、そうなのですけど…大学までお金を出してもらって進学させて貰う事になったのですから、少しは働いて生活費くらいは工面できるようになりたいのです」
「今援助している金額よりも増額すると言われているのにか?」
「はい、そうです。自分に甘えたくないので」
「ヒルダ…決心は硬いんだな」
「はい」
そこまで話した時、馬車が停車した。カウベリー駅に着いたのだ。
キィ~…
馬車のドアが開けられ、スコットが姿を表した。
「エドガー様、ヒルダ様、駅に到着しました」
「ああ…。ヒルダの荷物を頼めるか?」
エドガーはスコットに声を掛けた。
「ええ。勿論です」
エドガーはスコットに声を掛けた。
「ヒルダ、降りよう」
「はい」
エドガーはヒルダを抱き上げると、馬車から降りた。
「ありがとうございます。お兄様」
「いや、いいんだ」
「それじゃ、スコットはここで待っていてくれ。俺はヒルダをホームまで連れて行くから」
しかし、ヒルダは言った。
「いいえ、お兄様。ここまでで大丈夫です」
「え?しかし…」
エドガーはヒルダを見た。
「これからはなるべく自分の事は自分で出来るようにならないといけないので」
「だがヒルダ。お前は普通の令嬢たちよりはずっと何でも出来るじゃないか?」
「いいえ、そういう意味ではありません。恐らく私は…この先、1人で生きていく事になるかもしれないので…」
「ヒルダ…」
ひょっとして、お前はこの先誰とも結婚しないで生きてくと言う意味なのか?
「そんな事は無い。お前の本当の家はここ、カウベリーなんだぞ?」
「ええ。分っています。休暇の時には帰って来ますから。スコットさん、荷物を貸して下さい」
「ヒルダ様…」
スコットはエドガーの様子をチラリと見た後に、ヒルダの荷物を渡した。ヒルダは受け取ると、2人に頭を下げた。
「色々お世話になりました。お2人とも、お元気で」
「ああ、ヒルダもな…」
「ヒルダ様、お元気で」
「はい。それでは…さようなら」
そしてヒルダは踵を返すと、杖を突きながら荷物を持って駅舎の中へと入って行った。
「…」
いつまでもヒルダの消えて行った駅を見つめるエドガーにスコットはためらいがちに声を掛けた。
「エドガー様…行かないのですか?」
「ああ…ヒルダの乗った汽車が発車するまでは…」
「「…」」
少しの間、エドガーとスコットの間に沈黙が流れる。やがてエドガーは口を開いた。
「スコット…誰にも言わないと誓ってくれるか?」
「はい、勿論です」
「俺は…ヒルダを…愛しているんだ」
「ええ。存じておりました」
「!そうか…知っていたのか」
「はい。心中…お察しします」
「有難う…」
やがて…
ボォー…
汽笛の音が聞こえ、汽車は白い煙を吐きだしながらロータスへ向けて走り出した。
(ヒルダ…元気で…!)
エドガーとスコットは汽車が見えなくなるまで、見送るのだった―。
駅へ向かって走り続ける馬車の中でエドガーがヒルダに話しかけてきた。
「ヒルダ、明後日から学校が始まるのだろう?」
「ええ、そうです」
「どうだ?ちゃんと…登校できそうか?」
「はい、大丈夫です。私はきちんと高校を卒業して大学にも進学したいので」
「そうか。その考えは変わらないのか?もうカウベリーに戻って暮らすつもりはないのか?」
「はい…カウベリーは…やはり私の居場所では無かったようです」
「ヒルダ!何故、そんな風に考えるんだ?」
するとヒルダは悲しげな笑みを浮かべると言った。
「お兄様も聞きましたよね?教会での私の噂話。」
「あ…」
「私は…人を狂わせる人間なんです。カウベリーの人達にとっては、そうみえるんです」
「何を言ってるんだっ?!そんなはずはない!それに第一…」
言いかけてエドガーは口を閉ざした。ヒルダの事を悪く言った人間を締め上げた事実を知られ、乱暴な男だとヒルダに思われたくは無かったからだ。
「お兄様?」
「いや…何でも無い。それよりヒルダ。お前はバイトも続けるつもりか?」
「はい、そのつもりです」
「何故だ?父はこれからもお前に援助すると話していたぞ?」
「ええ、そうなのですけど…大学までお金を出してもらって進学させて貰う事になったのですから、少しは働いて生活費くらいは工面できるようになりたいのです」
「今援助している金額よりも増額すると言われているのにか?」
「はい、そうです。自分に甘えたくないので」
「ヒルダ…決心は硬いんだな」
「はい」
そこまで話した時、馬車が停車した。カウベリー駅に着いたのだ。
キィ~…
馬車のドアが開けられ、スコットが姿を表した。
「エドガー様、ヒルダ様、駅に到着しました」
「ああ…。ヒルダの荷物を頼めるか?」
エドガーはスコットに声を掛けた。
「ええ。勿論です」
エドガーはスコットに声を掛けた。
「ヒルダ、降りよう」
「はい」
エドガーはヒルダを抱き上げると、馬車から降りた。
「ありがとうございます。お兄様」
「いや、いいんだ」
「それじゃ、スコットはここで待っていてくれ。俺はヒルダをホームまで連れて行くから」
しかし、ヒルダは言った。
「いいえ、お兄様。ここまでで大丈夫です」
「え?しかし…」
エドガーはヒルダを見た。
「これからはなるべく自分の事は自分で出来るようにならないといけないので」
「だがヒルダ。お前は普通の令嬢たちよりはずっと何でも出来るじゃないか?」
「いいえ、そういう意味ではありません。恐らく私は…この先、1人で生きていく事になるかもしれないので…」
「ヒルダ…」
ひょっとして、お前はこの先誰とも結婚しないで生きてくと言う意味なのか?
「そんな事は無い。お前の本当の家はここ、カウベリーなんだぞ?」
「ええ。分っています。休暇の時には帰って来ますから。スコットさん、荷物を貸して下さい」
「ヒルダ様…」
スコットはエドガーの様子をチラリと見た後に、ヒルダの荷物を渡した。ヒルダは受け取ると、2人に頭を下げた。
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「ああ、ヒルダもな…」
「ヒルダ様、お元気で」
「はい。それでは…さようなら」
そしてヒルダは踵を返すと、杖を突きながら荷物を持って駅舎の中へと入って行った。
「…」
いつまでもヒルダの消えて行った駅を見つめるエドガーにスコットはためらいがちに声を掛けた。
「エドガー様…行かないのですか?」
「ああ…ヒルダの乗った汽車が発車するまでは…」
「「…」」
少しの間、エドガーとスコットの間に沈黙が流れる。やがてエドガーは口を開いた。
「スコット…誰にも言わないと誓ってくれるか?」
「はい、勿論です」
「俺は…ヒルダを…愛しているんだ」
「ええ。存じておりました」
「!そうか…知っていたのか」
「はい。心中…お察しします」
「有難う…」
やがて…
ボォー…
汽笛の音が聞こえ、汽車は白い煙を吐きだしながらロータスへ向けて走り出した。
(ヒルダ…元気で…!)
エドガーとスコットは汽車が見えなくなるまで、見送るのだった―。
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