338 / 566
第4章 4 クロード警部補の事情聴取 4
しおりを挟む
ガラガラガラガラ・・・
「・・・・」
クロード警部補は1人、馬車に乗って窓の外を眺めていた。
(それにしても話がうまくいって良かった。コリン君もこれで少しは人間らしい生活を送ることが出来るかも知れない)
コリンを連れて工房を訪れた時、かつてクロード警部補によって逮捕された男は驚いた。しかし、コリンの事情を話すと快く受け入れてくれたのだった。彼も過去において工場で劣悪な環境で働かされて逃げ出した身。逆に2年も耐えて働いていたコリンを褒めたたえてくれたのだ。あんな環境で2年も働いていたなら、きっと根性がある少年に違いなと言う事でその場で引き受けてくれたのだ。しかも住む場所すらない話を打ち明けると、自分の住まいを提供する約束までしてくれた。
「あの2人なら…きっと素敵なオルゴールを作って世に送り出す事が出来るだろうな…」
クロード警部補は陰鬱な景色が広がる『ボルト』の街並みを眺めながら呟き、次の目的地である赤十字病院の住所が書かれたメモを握りしめた―。
****
「え・・と、結核で入院中の17歳の少女…ですか?」
クロード警部補は入院受付でノラの病室の部屋番号を尋ねていた。
「ああ…おりますね。お部屋番号は405号室です。そちらの階段をお使い下さい」
受付女性はクロード警部補の背後にある階段を指し示すと言った。
「どうもありがとう」
礼を言うと、ノラの病室を目指してクロード警部補は階段を昇り始めた―。
階段を昇り、4階までやってくると405号室を目指した。
「405号室…ここか。あ、そう言えばここは結核病棟だったな…」
クロード警部補はこの時の為にマスクを2枚用意していた。2枚重ねでマスクをつけると、病室のドアをノックした。
コンコン
返事は無い。しかし、部屋の中からは苦し気な咳が時折聞こえてくる。
「失礼するよ…」
がちゃりとドアノブを回して扉を開けると、そこは清潔な病室だった。真っ白な壁に白いカーテンが開け放たれた窓から吹く風で揺れている。部屋の中央には大きなパイプベッドが置かれ、掛けられたキルトがこんもり盛り上がり、激しい咳をするたびに揺れている。
「ノラさんかい?」
クロード警部補は遠慮がちに声を掛けた。
「え…?」
するとか細い声が聞こえ、ムクリとノラが起き上がった。その顔は酷く青白く、痩せていた。
「誰ですか…?」
口元をタオルで覆いながらノラが尋ねた。そのタオルには所々に血が滲んでいる。
「君はルドルフ君を知っているね?」
クロード警部補はノラから距離を置いて尋ねた。
「はい…勿論知ってます。私をこの病院に入院させてくれたのは彼だから。ひょっとして…警察の人ですか…?」
「私が誰か知っているのかい?」
「ルドルフが言ったんです…警察の人が話を聞きに来るかも知れないって…私にはお見舞いに来る人もいないし、だから…警察の人かと思ったんです…ゴホッ!」
急に沢山話したからか、ノラは咳き込むとタオルに血が付いた。
「き、君!大丈夫かいっ?!」
クロード警部補は慌てた。
「は、はい…大丈夫です…これでも以前よりは体調が回復したんですよ…?ルドルフのお陰です…」
「そうか…なら、君に早速話を聞いてもいいかな?」
「ええ、大丈夫です…」
ノラは小さく頷いた―。
「・・・・」
クロード警部補は1人、馬車に乗って窓の外を眺めていた。
(それにしても話がうまくいって良かった。コリン君もこれで少しは人間らしい生活を送ることが出来るかも知れない)
コリンを連れて工房を訪れた時、かつてクロード警部補によって逮捕された男は驚いた。しかし、コリンの事情を話すと快く受け入れてくれたのだった。彼も過去において工場で劣悪な環境で働かされて逃げ出した身。逆に2年も耐えて働いていたコリンを褒めたたえてくれたのだ。あんな環境で2年も働いていたなら、きっと根性がある少年に違いなと言う事でその場で引き受けてくれたのだ。しかも住む場所すらない話を打ち明けると、自分の住まいを提供する約束までしてくれた。
「あの2人なら…きっと素敵なオルゴールを作って世に送り出す事が出来るだろうな…」
クロード警部補は陰鬱な景色が広がる『ボルト』の街並みを眺めながら呟き、次の目的地である赤十字病院の住所が書かれたメモを握りしめた―。
****
「え・・と、結核で入院中の17歳の少女…ですか?」
クロード警部補は入院受付でノラの病室の部屋番号を尋ねていた。
「ああ…おりますね。お部屋番号は405号室です。そちらの階段をお使い下さい」
受付女性はクロード警部補の背後にある階段を指し示すと言った。
「どうもありがとう」
礼を言うと、ノラの病室を目指してクロード警部補は階段を昇り始めた―。
階段を昇り、4階までやってくると405号室を目指した。
「405号室…ここか。あ、そう言えばここは結核病棟だったな…」
クロード警部補はこの時の為にマスクを2枚用意していた。2枚重ねでマスクをつけると、病室のドアをノックした。
コンコン
返事は無い。しかし、部屋の中からは苦し気な咳が時折聞こえてくる。
「失礼するよ…」
がちゃりとドアノブを回して扉を開けると、そこは清潔な病室だった。真っ白な壁に白いカーテンが開け放たれた窓から吹く風で揺れている。部屋の中央には大きなパイプベッドが置かれ、掛けられたキルトがこんもり盛り上がり、激しい咳をするたびに揺れている。
「ノラさんかい?」
クロード警部補は遠慮がちに声を掛けた。
「え…?」
するとか細い声が聞こえ、ムクリとノラが起き上がった。その顔は酷く青白く、痩せていた。
「誰ですか…?」
口元をタオルで覆いながらノラが尋ねた。そのタオルには所々に血が滲んでいる。
「君はルドルフ君を知っているね?」
クロード警部補はノラから距離を置いて尋ねた。
「はい…勿論知ってます。私をこの病院に入院させてくれたのは彼だから。ひょっとして…警察の人ですか…?」
「私が誰か知っているのかい?」
「ルドルフが言ったんです…警察の人が話を聞きに来るかも知れないって…私にはお見舞いに来る人もいないし、だから…警察の人かと思ったんです…ゴホッ!」
急に沢山話したからか、ノラは咳き込むとタオルに血が付いた。
「き、君!大丈夫かいっ?!」
クロード警部補は慌てた。
「は、はい…大丈夫です…これでも以前よりは体調が回復したんですよ…?ルドルフのお陰です…」
「そうか…なら、君に早速話を聞いてもいいかな?」
「ええ、大丈夫です…」
ノラは小さく頷いた―。
0
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした
三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。
その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。
彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。
なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。
そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。
必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。
だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……?
※設定緩めです
※他投稿サイトにも掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「女友達と旅行に行っただけで別れると言われた」僕が何したの?理由がわからない弟が泣きながら相談してきた。
window
恋愛
「アリス姉さん助けてくれ!女友達と旅行に行っただけなのに婚約しているフローラに別れると言われたんだ!」
弟のハリーが泣きながら訪問して来た。姉のアリス王妃は突然来たハリーに驚きながら、夫の若き国王マイケルと話を聞いた。
結婚して平和な生活を送っていた新婚夫婦にハリーは涙を流して理由を話した。ハリーは侯爵家の長男で伯爵家のフローラ令嬢と婚約をしている。
それなのに婚約破棄して別れるとはどういう事なのか?詳しく話を聞いてみると、ハリーの返答に姉夫婦は呆れてしまった。
非常に頭の悪い弟が常識的な姉夫婦に相談して婚約者の彼女と話し合うが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。
恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。
アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。
側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。
「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」
意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。
一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる