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第4章 5 クロード警部補の事情聴取 5
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「君に聞きたい事というのは、教会の火事についてだよ。」
「はい、分かっています…」
「あの火事になった時、コリン君は火のついた薪を手にしていたのはグレースだと言っていたのだが…それは事実かい?」
「はい。間違いありません…。グレースはヒルダさんに火のついた薪を近づけながら言ったんです。ヒルダさんに火傷を負わせたように見せかけようって…。私は怖くて…止めることが出来ませんでした…」
そしてノラは項垂れた。
「そうか、でもそれだけ聞ければもういいよ。今となってはグレースもイワンも死んでしまったから、本人たちの証言は得られないしね…後は君たちの証言だけが頼りだったから」
クロード警部補の言葉にノラは言った。
「あの…これでヒルダさんの誤解は溶けるのでしょうか…?」
するとクロード警部補が言った。
「実はグレースの父親は今『コックス』の刑務所に入れられているのだが…まともに取り調べが出来る状態ではないのだよ。実の我が娘を手にかけてしまったショックで心神喪失状態で、ろくに口も聞けないのだよ。未だにグレースの母親は精神を病んで入院中だが、最近回復の兆候が見られて近々退院するらしい」
クロード警部補は『ボルト』に来る前に色々下調べをして来ていたのだ。
「そう…ですか…」
ノラは疲れたのか、ベッドに横たわった。
「ノラさん、それで君の体調はどうなんだい?」
今度はノラの体の具合を尋ねてみた。
「はい…清潔な環境で‥‥栄養のある食事とお薬のお陰で大分良くなったみたいです。お医者さんに言われました。もう少し遅ければ…手遅れだったかもしれないって。私が今こうしていられるのも…全部ルドルフのお陰です…」
「そうか、それは良かったね」
(しかし、この先結核が治ったとしてこの少女はこの先どうするつもりなのだろう。両親も結核にかかって亡くなってしまったと言うし…可愛そうに。たった17歳で天涯孤独の身になってしまったなんて。もう工場で働くのは無理だろうし)
クロード警部補は独身で子供はいないが、ノラの事がまるで我が子のように心配になってしまった。そこで言った。
「ノラさん」
「はい」
ベッドに横たわっていたノラはクロード警部補を見た。
「もし、健康になって無事に退院することが出来て…何か困った事があれば相談に乗るよ。そのときはここに電話をかけてくれ。もしくは警察署の方に来てくれても構わないよ」
言いながら手帳を開き、挟んでいた名刺を取り出すとノラの枕元に置いた。
「あ、ありがとうございます…」
戸惑いながらもノラはお礼を言った。
「さて、それじゃそろそろ私は行くかな。すまなかったね。具合が悪いのに尋ねてしまって」
するとノラは言った。
「いえ…誰もお見舞いに来てくれる人がいなかったので…う、嬉しかったです…ありがとうございます…」
ノラは今にも消え入りそうな声でお礼を述べた。
「そうかい?それじゃあね」
クロード警部補はノラに手を振ると病室を後にした。
****
赤十字病院を出たクロード警部補は病院前に停車している辻馬車に乗り込むと御者に言った。
「駅までお願いします」
「かしこまりました」
御者は短くいうと、馬車を走らせはじめた。窓の外の景色を眺めながらクロード警部補は今後の事を考えていた。
(まずは『カウベリー』へ行き、フィーズル家の領主に話をしに行こう。彼に自分の娘は犯人では無いという事をはっきり教えてやらなければな。後はグレースの母親だ。彼女だってきっと何故夫が実の娘を殺害するに至ったのか理由を知っているはずなんだ。それを問い詰めなければ‥。そうだ、ルドルフ君にも連絡を入れたほうがいいな…)
きっとこれで物事は良い方向に進んでいくだろう…。
クロード警部補はそう信じて疑わなかった。
少なくとも、この時までは―。
「はい、分かっています…」
「あの火事になった時、コリン君は火のついた薪を手にしていたのはグレースだと言っていたのだが…それは事実かい?」
「はい。間違いありません…。グレースはヒルダさんに火のついた薪を近づけながら言ったんです。ヒルダさんに火傷を負わせたように見せかけようって…。私は怖くて…止めることが出来ませんでした…」
そしてノラは項垂れた。
「そうか、でもそれだけ聞ければもういいよ。今となってはグレースもイワンも死んでしまったから、本人たちの証言は得られないしね…後は君たちの証言だけが頼りだったから」
クロード警部補の言葉にノラは言った。
「あの…これでヒルダさんの誤解は溶けるのでしょうか…?」
するとクロード警部補が言った。
「実はグレースの父親は今『コックス』の刑務所に入れられているのだが…まともに取り調べが出来る状態ではないのだよ。実の我が娘を手にかけてしまったショックで心神喪失状態で、ろくに口も聞けないのだよ。未だにグレースの母親は精神を病んで入院中だが、最近回復の兆候が見られて近々退院するらしい」
クロード警部補は『ボルト』に来る前に色々下調べをして来ていたのだ。
「そう…ですか…」
ノラは疲れたのか、ベッドに横たわった。
「ノラさん、それで君の体調はどうなんだい?」
今度はノラの体の具合を尋ねてみた。
「はい…清潔な環境で‥‥栄養のある食事とお薬のお陰で大分良くなったみたいです。お医者さんに言われました。もう少し遅ければ…手遅れだったかもしれないって。私が今こうしていられるのも…全部ルドルフのお陰です…」
「そうか、それは良かったね」
(しかし、この先結核が治ったとしてこの少女はこの先どうするつもりなのだろう。両親も結核にかかって亡くなってしまったと言うし…可愛そうに。たった17歳で天涯孤独の身になってしまったなんて。もう工場で働くのは無理だろうし)
クロード警部補は独身で子供はいないが、ノラの事がまるで我が子のように心配になってしまった。そこで言った。
「ノラさん」
「はい」
ベッドに横たわっていたノラはクロード警部補を見た。
「もし、健康になって無事に退院することが出来て…何か困った事があれば相談に乗るよ。そのときはここに電話をかけてくれ。もしくは警察署の方に来てくれても構わないよ」
言いながら手帳を開き、挟んでいた名刺を取り出すとノラの枕元に置いた。
「あ、ありがとうございます…」
戸惑いながらもノラはお礼を言った。
「さて、それじゃそろそろ私は行くかな。すまなかったね。具合が悪いのに尋ねてしまって」
するとノラは言った。
「いえ…誰もお見舞いに来てくれる人がいなかったので…う、嬉しかったです…ありがとうございます…」
ノラは今にも消え入りそうな声でお礼を述べた。
「そうかい?それじゃあね」
クロード警部補はノラに手を振ると病室を後にした。
****
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「駅までお願いします」
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きっとこれで物事は良い方向に進んでいくだろう…。
クロード警部補はそう信じて疑わなかった。
少なくとも、この時までは―。
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