上 下
250 / 566

第12章 2 ヒルダへの報告

しおりを挟む
午後4時―

「な・・何ですってっ?!そ、そんな・・・!」

受話器を握りしめたアンナの声が広い室内に響き渡った。ヒルダは紅茶を前にアンナの様子を伺っていた。

(どうしたのかしら?アンナ様・・・?何だかすごく興奮しているようだけど・・?)

「はい・・・分かりました・・。はい、私の方から伝えておきます。はい・・。では失礼致します・・。」

そしてアンナは深いため息をつくと、テーブルを前にこちらの様子をじっと見つめていたヒルダを振り返った。
今かかってきた電話はエドガーからだったのだ。それはイワンとグレースの死を告げる内容であり・・明日のお茶会を中止させて欲しいとの事だった。

(どうしよう・・・何て伝えればいいのかしら・・?ヒルダ様はあんなに明日のお茶会を楽しみにしていたのに・・。そ、それに・・・。)

ヒルダにはグレースの死を伝えなければならない。一体どれほどのショックを受けるだろうか・・・。

(でも・・変に隠し立てしては駄目だわ・・。はっきり本当の事をヒルダ様に告げなくちゃ・・。)

アンナはテーブルに向かった。そして椅子に座り深呼吸すると言った。


「ヒルダ様・・実は・・あ・・明日のお茶会は・・中止になってしまったの・・。」

「まあ・・・そうだったんですか?残念ですけど・・仕方ありませんね。お兄様も・・お父様・・・もお忙しい方ですから・・。」

ヒルダの顔に寂し気な笑みが浮かぶ。それを見たアンナの胸にズキリと痛みが走ったが・・今から更に過酷な事をヒルダに告げなければならないのだ。

「あの・・ヒルダ様・・・落ち着いて聞いてもらいたい事があるの・・・。」

「はい、何でしょうか?」

「ヒルダ様は・・グレースさんと言う方を・・ご存じかしら・・?」

「え・・?グレースさん・・?」

グレース、その名の少女はヒルダにとって一生消えない傷を・・そしてヒルダの心を酷く傷つけた少女。ロータスに移り住んでも、ルドルフの事を思う度・・ヒルダに泣きながら訴えてきた気の強い少女が思い出されてならなかった。

(で、でもどうしてアンナ様がグレースさんの事を知ってるのかしら・・)

「あの、グレースさんの事は知っていますけど・・・あの人がどうかしたのですか?」

「あ、あの・・今朝・・グレースさんが・・・し、死んでしまったそうなの・・。」

「え・・し、死んでしまった・・・?」

ヒルダにはグレースの死を聞かされても信じられなかった。

「ひょっとして・・グレースさんは病気だったのでしょうか・・?」

(グレースさんが死んだ・・きっとルドルフの所にも連絡が入っているでしょうね・・。ルドルフ・・・ショックだったでしょうね・・・。)

ヒルダは未だにルドルフとグレースが恋人同士だという嘘を信じて疑っていなかった。

「ヒルダさん・・・グレースさんは・・自分のお父様に殺されてしまったそうなの・・その・・く、首を絞められて・・・。」

「え・・・ええっ?!」

ヒルダは耳を疑った。

「こ・・・殺された・・?な、何故ですか・・?」

身体を震わせながらヒルダはアンナに尋ねた。

「ごめんなさい・・。それが・・・理由はまだよく分らないの・・警察署に連れていかれているらしいから・・今そこで色々詳しい事情を聞かれているかも・・。」

「そう・・・なんですか・・・?」

「ええ・・実はそれ以外にまだあって・・グレースのお友達でイワンと言う名の男の人を知ってるかしら?」

「イワン・・ですか?何となく聞いた覚えがあるような気もしますが・・あ・・でもグレースさんのお友達って言う事は・・あの人かも・・。」

ヒルダの記憶に何となくイワンが浮かび上がった。

「実は、そのイワンと言う少年は・・今朝、始発の電車に飛び込んで・・やっぱり死んでしまったって・・・。」

「え・・・?」

その話を聞いたヒルダは・・目の前が真っ暗になるのを感じた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...