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第8章 5 エドガーに届いた手紙
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土曜日―
朝食後、執務室で領地の今月分の収益計算をエドガーは行っていた。
その時ドアをノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「どうぞ。」
エドガーは顔を上げると、すぐに部屋の扉は開かれた。
「エドガー様、お手紙が届いております。」
室内に入ってきたのはエドガー付きの執事であった。
執事はエドガーの机に近付くと、恭しく銀のトレーに乗った手紙を差し出してきた。手紙は全部で5通だった。
「ありがとう。」
エドガーはトレーから手紙を受け取ると、執事は会釈をして部屋から出て行った。
「どうせ・・領民からの嘆願書かメリッサ嬢からの手紙だろう・・。」
エドガーはポツリと言うと、封筒を見た。予想通り3通は領民からの手紙であり、1通はエドガーの婚約者であるメリッサからであった。赤い封蝋には可愛らしい小鳥の刻印が押されている。
「・・メリッサ嬢らしいな・・・。」
エドガーはフッと笑みを浮かべ、まだ婚約者と呼ぶには少々幼いメリッサの顔を思い浮かべた。いくら婚約者とは言え、相手はまだ14歳の少女である。エドガーから見れば妹のような存在でしかなかった。
「あと1通は・・誰からだ?差出人の名前がないな・・。」
エドガーは封筒を返し・・・ハッとなった。封筒の消印がロータスになっているのに気が付いたのだ。
「名前も無いと言う事は・・・ヒルダからかっ?!」
ヒルダとの手紙のやり取りは余程の急用ではない限り、互いに手紙の交換を行っていなかった。それは父ハリスの目に触れれば面倒なことになるからであった。それが突然手紙を出してくるとは・・・。
「何かあったのだろうか?」
エドガーは逸る気持ちで手紙を開封した。
半月ほど前、カミラからヒルダがオリエンテーリングで崖下に落ちて大怪我をしたという報告を受けてから、ずっとエドガーはヒルダの事が気がかりでならなかった。本当なら今すぐにでもヒルダの元に駆け付けたい気持ちで一杯だったが、それは決してかなわぬ願い。エドガーは唇をかみしめて自分の気持ちを抑え込んだのだった。
そのヒルダからの手紙である。焦るのも無理はない。
机の引き出しからペーパーナイフを取り出すと、シュッと開封する。
そして封筒から2つ折りされた手紙をとりだし、広げた。
そこにはヒルダらしい、美しく丁寧な文字で手紙が書かれていた。
それは進学に関する内容で、担任教師から奨学金をもらって大学進学を目指したらどうかと勧められたこと。そして、現在足の治療で通院している整形外科医の医者から仮に大学に合格した場合はアルバイトで働きに来ないかと誘われたことが書かれていたが・・エドガーが一番知りたかったヒルダの体調については一言も書かれていなかった。
「ヒルダ・・・心配かけさせないように体調の事は書かなかったのだろうか・・。」
エドガーはポツリと呟き、引き出しから1本の鍵を取り出した。そして鍵付きの引き出しにそのカギを差し込むとカチャリと回した。
そして引き出しを開けるとそこには木箱が入っていた。
「・・・。」
エドガーは木箱を取り出すと蓋を開けた。中にはヒルダとカミラが仲良さげに写真に写っている。
セピア色の写真の中のヒルダは・・やはりとても美しかった。
「ヒルダ・・・。」
エドガーはこの写真を見るたび、胸が締め付けられそうになる。自分が本当はヒルダの事を・・・・妹としてではなく、1人の女性としてどれほど愛しているかを改めて感じさせてしまう。
「進学か・・・。もっと・・もっとヒルダの為に手を差し出してやりたいのに・・。」
その時、再びノックの音がした。
エドガーは慌てて木箱に手紙を戻し、引き出しにしまうと鍵をかけた。
「どうぞ。」
すると先ほどの執事が再び現れるとい言った。
「エドガー様にお客様が参られましたが・・・いかがいたしましょうか?」
「お客・・・それは一体誰だ?」
「はい・・ルドルフ様です。」
「え・・・?ルドルフが・・?」
エドガーは椅子から立ち上った―。
朝食後、執務室で領地の今月分の収益計算をエドガーは行っていた。
その時ドアをノックする音が聞こえてきた。
コンコン
「どうぞ。」
エドガーは顔を上げると、すぐに部屋の扉は開かれた。
「エドガー様、お手紙が届いております。」
室内に入ってきたのはエドガー付きの執事であった。
執事はエドガーの机に近付くと、恭しく銀のトレーに乗った手紙を差し出してきた。手紙は全部で5通だった。
「ありがとう。」
エドガーはトレーから手紙を受け取ると、執事は会釈をして部屋から出て行った。
「どうせ・・領民からの嘆願書かメリッサ嬢からの手紙だろう・・。」
エドガーはポツリと言うと、封筒を見た。予想通り3通は領民からの手紙であり、1通はエドガーの婚約者であるメリッサからであった。赤い封蝋には可愛らしい小鳥の刻印が押されている。
「・・メリッサ嬢らしいな・・・。」
エドガーはフッと笑みを浮かべ、まだ婚約者と呼ぶには少々幼いメリッサの顔を思い浮かべた。いくら婚約者とは言え、相手はまだ14歳の少女である。エドガーから見れば妹のような存在でしかなかった。
「あと1通は・・誰からだ?差出人の名前がないな・・。」
エドガーは封筒を返し・・・ハッとなった。封筒の消印がロータスになっているのに気が付いたのだ。
「名前も無いと言う事は・・・ヒルダからかっ?!」
ヒルダとの手紙のやり取りは余程の急用ではない限り、互いに手紙の交換を行っていなかった。それは父ハリスの目に触れれば面倒なことになるからであった。それが突然手紙を出してくるとは・・・。
「何かあったのだろうか?」
エドガーは逸る気持ちで手紙を開封した。
半月ほど前、カミラからヒルダがオリエンテーリングで崖下に落ちて大怪我をしたという報告を受けてから、ずっとエドガーはヒルダの事が気がかりでならなかった。本当なら今すぐにでもヒルダの元に駆け付けたい気持ちで一杯だったが、それは決してかなわぬ願い。エドガーは唇をかみしめて自分の気持ちを抑え込んだのだった。
そのヒルダからの手紙である。焦るのも無理はない。
机の引き出しからペーパーナイフを取り出すと、シュッと開封する。
そして封筒から2つ折りされた手紙をとりだし、広げた。
そこにはヒルダらしい、美しく丁寧な文字で手紙が書かれていた。
それは進学に関する内容で、担任教師から奨学金をもらって大学進学を目指したらどうかと勧められたこと。そして、現在足の治療で通院している整形外科医の医者から仮に大学に合格した場合はアルバイトで働きに来ないかと誘われたことが書かれていたが・・エドガーが一番知りたかったヒルダの体調については一言も書かれていなかった。
「ヒルダ・・・心配かけさせないように体調の事は書かなかったのだろうか・・。」
エドガーはポツリと呟き、引き出しから1本の鍵を取り出した。そして鍵付きの引き出しにそのカギを差し込むとカチャリと回した。
そして引き出しを開けるとそこには木箱が入っていた。
「・・・。」
エドガーは木箱を取り出すと蓋を開けた。中にはヒルダとカミラが仲良さげに写真に写っている。
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「進学か・・・。もっと・・もっとヒルダの為に手を差し出してやりたいのに・・。」
その時、再びノックの音がした。
エドガーは慌てて木箱に手紙を戻し、引き出しにしまうと鍵をかけた。
「どうぞ。」
すると先ほどの執事が再び現れるとい言った。
「エドガー様にお客様が参られましたが・・・いかがいたしましょうか?」
「お客・・・それは一体誰だ?」
「はい・・ルドルフ様です。」
「え・・・?ルドルフが・・?」
エドガーは椅子から立ち上った―。
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