嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第8章 6 2人の思い

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 エドガーは椅子から立ち上ると大股で部屋のドアに近付き、ガチャリとドアを開けた。そこには驚いた顔をした執事と、背後にはルドルフが立っていた。

「エドガー様・・・わざわざドアを開けにいらしたのですか?」

執事が驚いたように目を丸くする。

「あ・ああ・・・。悪いが彼と大事な話があるんだ。しばらくの間はこの部屋には誰も近づけないように人払いをしておいてくれ。」

エドガーは溜息をつき、髪をかき上げながら執事に言う。

「はい、かしこまりました。」

執事は頭を下げると部屋の前から去って行った。するとエドガーは素早く言った。

「ルドルフ、中に入ってくれ。」

「はい、失礼します。」

ルドルフは頭を下げると、執務室の中へ入って行った。

「そこのソファにかけてくれ。」

エドガーは執務室の中央にあるえんじ色の皮張りのソファをさした。

「はい。」

ルドルフが座ると、その向かい側にエドガーも座る。こげ茶色のシックなマホガニー製の長テーブルを挟んで向かい合わせに座るとエドガーが口を開いた。

「ルドルフ・・いつ、『カウベリー』へ来たんだ?」

時刻は朝の10時半である。ここから『ロータス』までは汽車で4時間以上かかるのだ。さらに駅からフィールズ家までは馬車で1時間近くはかかる。

「昨日の最終列車に乗ってきました。家に着いたのは夜の11時を過ぎていました。」

「・・・こんなに急いで、ここへやってきたって事は・・ヒルダに何かあったのか?実は今朝ヒルダから手紙が届いたんだ。」

「え?ヒルダ様から・・・ですか?」

ルドルフは一瞬目を見開いたが・・・考えてみればルドルフとヒルダは義理とはいえ兄妹の関係だ。手紙のやり取りくらい普通だろう。
しかしエドガーは言った。

「俺とヒルダは・・滅多に手紙のやり取りはしないんだ。よほどの事でもない限りは・・。知っての通り、ヒルダは父から縁を切られてしまっているからね。」

「ええ・・・そうですよね・・。」

ルドルフは悔しそうに下唇をグッと噛み締めた。

「今回僕がエドガー様の処へ来たのはヒルダ様の進学の件です。」

するとエドガーが言った。

「ヒルダの進学か・・。それは俺も考えていたとこなんだが・・ルドルフ、その前に聞きたいことがあるんだ。」

「聞きたいこと・・ですか?」

ルドルフが少しだけ首をかしげる。

「ああ・・カミラからの手紙で知ったのだが・・学校でオリエンテーリングが島で行われたらしいな。」

「ええ・・・。」

「そこでヒルダが崖下に転落する事故が起こった。」

「・・・。」

ルドルフは黙って聞いている。

「誰かが・・・ヒルダを助けてくれたらしいんだが・・その人物が分かっていないんだ。ルドルフ、君は知ってるか?」

「・・・はい、知ってます。・・それは・・僕です。」

するとエドガーはたちまち笑顔になった。

「そうか・・やはりルドルフ。君がヒルダを助けてくれたのか?本当にありがとう。ヒルダに代わり感謝するよ。それで・・何故ヒルダは君が助けた事を知らないんだ?」

エドガーは何故ヒルダは何も知らされていないのか不思議に思っていたのだ。

「それは僕が学校側とクラスメイト達に誰がヒルダ様を助けたのか・・ヒルダ様には知られたくなかったからです。」

淡々と語るルドルフにエドガーは言う。

「何故だ?君はヒルダの命の恩人だ。何故ヒルダにその事を隠す必要があるんだ?」

するとルドルフは苦しそうに顔を歪めると言った。

「僕は・・ヒルダ様に・・婚約破棄を言い渡されているんです。それなのに・・未練がましく追いかけてしまって・・。ヒルダ様の傍にいられるだけでいいと思っているんです。ただ・・もうこれ以上拒絶だけはされたくなくて・・僕が助けた事実を知った時のヒルダ様の反応が怖いんです。また・・あんな思いをするのはもう御免です。だから内緒にしてもらったんです。」

「ルドルフ・・・。」

エドガーは何と声を掛けてやれば良いか分からなかった。それは自分自身にも当てはまる事だから。エドガーもヒルダを愛している。たとえ叶わぬ恋でも本心はヒルダに自分の愛を告げたいと思ってはいたが・・・それを告げた場合のヒルダの反応が怖かった。恐れられるくらいなら、いっそこの気持ちに蓋をしてしまおう。その思いから父の誘いもあって見合いをしたのだった。

(良い夫になれるよう努力はするが・・・きっと俺は彼女を愛することが出来ないだろうな・・。)

エドガーは10年以上も前の初恋を・・・今だに引きずっていたのだった―。


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