嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
192 / 566

第8章 1 マイクの登校

しおりを挟む
 オリエンテーリングから1週間のある朝―。

登校してきた生徒たちは思い思いにクラスメイト達と楽し気に話をしていた。ヒルダもマドレーヌと、そしてオリエンテーリングで同室だったジャスミンとキャロルとも今では良い友達となっていた。

「それでね・・・うちの新作のスイーツが今、とっても人気なのよ。」

マドレーヌが興奮気味に話している。

「すごいわね。貴女も将来有能なパティシエになれるかもね。自分の考案したスイーツが人気になるなんて。」

キャロルが感心したように言う。

「そうね・・・きっとマドレーヌは人気のあるパティシエになれるわ。」

ヒルダも口を開いたその瞬間・・・。

ガラリ

教室のドアが開かれ、教室にいた全員がドアの方に注目すると、そこにはバツが悪そうにしているマイクが立っていた。

(マイク・・・ッ!)

ヒルダは咄嗟に視線を反らせた。

「まあ・・マイクだわ。」

ジャスミンが眉をひそめた。

「全く・・・ヒルダにあんな酷い事をしておきながら、よく登校出来たわね?」

マドレーヌが憎々し気に言う。

他のクラスメイトたちも同じように思っているのか、全員が敵意を込めた目でマイクを見て、ヒソヒソと話をしている。

「・・・。」

マイクは俯くと、自分の席に向かい・・椅子を引くと着席した。

「あいつ・・よく学校へこれたよな?」

「図々しい人よね・・・。」

「俺、あいつがクラス委員長なんて反対だよ・・・。」

等々、クラスメイトの大半がわざとマイクに聞こえよがしに話をしている。そしてマイクは俯き、じっとその言葉に耐えているようにも見えた。

「いい気味よ・・・これで少しは反省するでしょう?」

キャロルが言う。

「反省・・・。」

ヒルダは小さく呟いた。

マイクが謹慎処分を受けた日から・・・ヒルダのアパートメントのポストには毎日マイクからの謝罪の手紙が投函されていた。そこには切実な思いが込められており・・ヒルダには、もうマイクが十分に反省しているように思えた。

(マイクが・・何だか気の毒に思えるわ・・。でも私にはどうする事も出来ないし・・何よりもまだ・・マイクが怖いわ。)

なのでヒルダはマイクから視線を反らせてマドレーヌたちと話をしていると、突然教室がざわめいた。

「みて、マイクがこっちに向かって歩いて来てるわ。」

ジャスミンが素早くヒルダ達に言う。

「え?」

ヒルダが振り向くと・・既にそこにはマイクが立っていた。

「おはよう、ヒルダ。少し話がしたいんだけど・・・。」

すっかりやつれ切ったマイクがヒルダを見下ろす。

「駄目よっ!またヒルダに嫌がらせをする気ね?!」

マドレーヌが立ち上がってマイクと対峙する。そして教室はいつの間にか静まり返り、ヒルダ達に注目が集まっていた。

「ち、違うよ・・・僕はただ・・・ヒルダにもう一度ちゃんと謝罪を・・。」

そこへキャロルが口を挟む。

「謝罪?謝罪で済むの?あの日、ヒルダはねえ・・・ロータスに運ばれた後、丸1日病院に入院したのよ?それを分かってるの?!」

「!わ・・分かってる・・ぼ、僕は・・。」

マイクは両手を握り締めるとした唇をかんだ。

(このままでは・・マイクのクラスでの立場がますます悪くなってしまうわ・・・。)

そこでヒルダは口を開いた。

「謝罪の事なら・・・いいわ。マイク・・。貴方からの誠意は・・毎日届けられた手紙でよく分かったから・・もう済んだことだから・・・気にしないで。だから・・皆も・・もう、マイクを責めないで上げてくれる?」

ヒルダはクラス全体を見渡しながら最後に全員に呼びかけた。

「ヒルダ・・・。ありがとう・・。」

マイクは今にも泣きそうな顔で礼を述べた。クラス中がヒルダの言葉にざわめいた。
そしてそんなヒルダをルドルフはじっと見つめていた。

(ヒルダ様・・・本当はマイクの事がまだ怖くてたまらないはずなのに・・あんな風にマイクに言うだけでなく、クラス中に呼びかけるなんて・・やはり貴女は優しい方ですね・・・。それに・・・あの言葉は・・聞き間違えでは無いですよね・・?)

洞窟で意識を失っていた時・・ルドルフの腕の中でヒルダはこう呟いたのだ。

ルドルフ・・・貴方が好き・・・。

と―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

処理中です...