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第7章 10 オリエンテーリング ⑦
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明日のオリエンテーリングの下見を終えた生徒たちは宿泊施設へと帰ってきた。
「ふう~・・疲れたわ・・・。なのに今からバーベキューの準備をしなくちゃいけないなんて・・。」
マドレーヌがうんざりしたように井戸の傍で玉ねぎの皮をむいていた。
「でもね、意外と料理って楽しいわよ。私は好きだわ。」
ヒルダはナスを洗いながら言った。
「そうよね。ヒルダは料理をするんですもの。きっと将来は素敵なお嫁さんになれるわね。」
「・・・。」
そんなマドレーヌの言葉をヒルダは目をまるくして聞いていた。
「あら?どうしたの?ヒルダ?」
「いいえ、何でもないの。」
ヒルダは言うと、再び野菜を洗い始めながら思った。
(やっぱり・・大都市と農村都市では人々の考え方は違うのかしら?カウベリーでは大きな傷を身体に負った女性は結婚することが出来ないと言われているのに、大都市ではそんな偏見は一切無いのね・・。ひょっとするとお母さまもカミラもその事を知っていたから・・私をこの土地に来るように勧めたのかしら・・。)
考えてみれば、カウベリーにいた頃は足の怪我のせいで学校でも嫌な目に遭ったことがあった。しかし、この学校に来てからは足の事で偏見の目でヒルダを見る生徒は一部の生徒を除き、後は誰もいなかった。初めてこのロータスに来た時は大都会で戸惑う事ばかりだったが、今ではここに来て良かったと改めてヒルダは思うのだった―。
宿泊施設の裏手には川が流れ、お昼はこの河原でバーベキューすることになっていた。ヒルダがマドレーヌやほかの女子学生たちと切った野菜を河原に運んでくると、男子生徒たちが4つのグループに分かれて石を積んでかまど作りを行っていた。
「あーっ!うまく石が積めないぞっ!」
「こんなんじゃいつまでたってもかまどを作れなじゃないかっ!」
「おーい、誰かこういうの得意な奴はいないかぁ?!」
等々・・・すごい騒ぎになっていた。何せ彼らは都会っ子であり、ましてや勉強ばかりしてきたような生徒達ばかりである。うまくできなくても当然であった。が・・・。
「おおーっ!すっげー!完璧なかまどだっ!」
ある一角で歓声が沸いた。みると騒いでいたのは一番左端のグループであった。
「どうやらあのグループはかまどづくりがうまくいったようね。」
マドレーヌがヒルダに言う。
「ええ。そうね・・・誰か上手に作れる人でもいたのかしら・・・。」
そこでヒルダは言葉を切った。騒ぎの中心にいたのはルドルフだったのだ。
「ルドルフッ!お前ってすごいなっ!」
「出来るのは勉強だけじゃ無かったんだな!」
ルドルフは上手にかまどを作り上げ、すっかりそこのグループの人気者になっていたのだ。そしてヒルダは見た。わずかだがルドルフが彼らの前で笑顔を見せている姿を。それは・・・あのカウベリーにいた頃のルドルフを彷彿とさせるものだった。
マドレーヌもルドルフのそんな姿に気づいたのかヒルダに言った。
「ねえ、見てヒルダ。あのルドルフが笑っているわよ・・。彼って笑う事が出来たのね。」
「ええ・・・そうね。」
ヒルダはポツリと言った。だが、ヒルダは知っている。カウベリーにいた頃のルドルフは・・それは笑顔が素敵な少年だったと言う事を。そしてヒルダはそんなルドルフの事が大好きだったのだ・・・。
一方、こちらはマイクのグループでは・・。
「駄目だっ!いくらやってもうまくいかないじゃないかっ!」
1人の少年がガラガラと崩れてしまう石を見て恨めしそうに言う。
「あきらめるな。もう一度積んでみよう。」
マイクは言うが、他の男子生徒が言った。
「なあ、もう意地張らないでルドルフに頼もうぜ、他のグループだってルドルフにかまどを作ってもらっているぜ。」
「何だってっ?!君たちにはプライドは無いのか?!ほかのグループの人間に作ってもらうなんて・・・!」
マイクは憤慨して言うが、すぐに論破されてしまった。
「うるさいなっ!プライドだけじゃ腹は膨れないんだよっ!」
「う・・・・なら・・・勝手にしてくれっ!僕は知らないからなっ!」
マイクは軍手を投げつけると、踵を返して宿泊所へ行ってしまった。
(僕にだってプライドはあるんだ・・・あんな奴に頼むくらいなら・・昼食なんか抜いてやる・・・っ!)
今やマイクの心はルドルフに対する嫉妬心で一杯になっていた―。
「ふう~・・疲れたわ・・・。なのに今からバーベキューの準備をしなくちゃいけないなんて・・。」
マドレーヌがうんざりしたように井戸の傍で玉ねぎの皮をむいていた。
「でもね、意外と料理って楽しいわよ。私は好きだわ。」
ヒルダはナスを洗いながら言った。
「そうよね。ヒルダは料理をするんですもの。きっと将来は素敵なお嫁さんになれるわね。」
「・・・。」
そんなマドレーヌの言葉をヒルダは目をまるくして聞いていた。
「あら?どうしたの?ヒルダ?」
「いいえ、何でもないの。」
ヒルダは言うと、再び野菜を洗い始めながら思った。
(やっぱり・・大都市と農村都市では人々の考え方は違うのかしら?カウベリーでは大きな傷を身体に負った女性は結婚することが出来ないと言われているのに、大都市ではそんな偏見は一切無いのね・・。ひょっとするとお母さまもカミラもその事を知っていたから・・私をこの土地に来るように勧めたのかしら・・。)
考えてみれば、カウベリーにいた頃は足の怪我のせいで学校でも嫌な目に遭ったことがあった。しかし、この学校に来てからは足の事で偏見の目でヒルダを見る生徒は一部の生徒を除き、後は誰もいなかった。初めてこのロータスに来た時は大都会で戸惑う事ばかりだったが、今ではここに来て良かったと改めてヒルダは思うのだった―。
宿泊施設の裏手には川が流れ、お昼はこの河原でバーベキューすることになっていた。ヒルダがマドレーヌやほかの女子学生たちと切った野菜を河原に運んでくると、男子生徒たちが4つのグループに分かれて石を積んでかまど作りを行っていた。
「あーっ!うまく石が積めないぞっ!」
「こんなんじゃいつまでたってもかまどを作れなじゃないかっ!」
「おーい、誰かこういうの得意な奴はいないかぁ?!」
等々・・・すごい騒ぎになっていた。何せ彼らは都会っ子であり、ましてや勉強ばかりしてきたような生徒達ばかりである。うまくできなくても当然であった。が・・・。
「おおーっ!すっげー!完璧なかまどだっ!」
ある一角で歓声が沸いた。みると騒いでいたのは一番左端のグループであった。
「どうやらあのグループはかまどづくりがうまくいったようね。」
マドレーヌがヒルダに言う。
「ええ。そうね・・・誰か上手に作れる人でもいたのかしら・・・。」
そこでヒルダは言葉を切った。騒ぎの中心にいたのはルドルフだったのだ。
「ルドルフッ!お前ってすごいなっ!」
「出来るのは勉強だけじゃ無かったんだな!」
ルドルフは上手にかまどを作り上げ、すっかりそこのグループの人気者になっていたのだ。そしてヒルダは見た。わずかだがルドルフが彼らの前で笑顔を見せている姿を。それは・・・あのカウベリーにいた頃のルドルフを彷彿とさせるものだった。
マドレーヌもルドルフのそんな姿に気づいたのかヒルダに言った。
「ねえ、見てヒルダ。あのルドルフが笑っているわよ・・。彼って笑う事が出来たのね。」
「ええ・・・そうね。」
ヒルダはポツリと言った。だが、ヒルダは知っている。カウベリーにいた頃のルドルフは・・それは笑顔が素敵な少年だったと言う事を。そしてヒルダはそんなルドルフの事が大好きだったのだ・・・。
一方、こちらはマイクのグループでは・・。
「駄目だっ!いくらやってもうまくいかないじゃないかっ!」
1人の少年がガラガラと崩れてしまう石を見て恨めしそうに言う。
「あきらめるな。もう一度積んでみよう。」
マイクは言うが、他の男子生徒が言った。
「なあ、もう意地張らないでルドルフに頼もうぜ、他のグループだってルドルフにかまどを作ってもらっているぜ。」
「何だってっ?!君たちにはプライドは無いのか?!ほかのグループの人間に作ってもらうなんて・・・!」
マイクは憤慨して言うが、すぐに論破されてしまった。
「うるさいなっ!プライドだけじゃ腹は膨れないんだよっ!」
「う・・・・なら・・・勝手にしてくれっ!僕は知らないからなっ!」
マイクは軍手を投げつけると、踵を返して宿泊所へ行ってしまった。
(僕にだってプライドはあるんだ・・・あんな奴に頼むくらいなら・・昼食なんか抜いてやる・・・っ!)
今やマイクの心はルドルフに対する嫉妬心で一杯になっていた―。
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