上 下
183 / 566

第7章 8 オリエンテーリング ⑤

しおりを挟む
 ヒルダ達はオリエンテーリングの2日間滞在する宿泊所にやって来ていた。この宿泊所は4人部屋となっており、ヒルダはマドレーヌの他に、ジャスミンとキャロルと言う名前の女子学生と同室になった。彼女たちはヒルダと殆ど接点が無かったが、
すぐに意気投合した。

「それにしても、どうしてこんな事に参加しなくちゃならないのかしら。」

荷物整理をしながらジャスミンが口をとがらせている。

「そうよね~。私もそう思うわ。こんな行事をやるくらいなら授業をして欲しいわ。」

特進クラスの生徒らしい発言をしたのはキャロルである。

「ええ・・・。私も本当は参加したくないんだけどマイクが・・・。」

ヒルダもつい愚痴をこぼしてしまった。

「本当ね!マイクって横暴だわ。1年生の時はあんな人だとは思わなかったわよ。ちょっといいかな~って思っていたけど・・・あの時のホームルームは最悪だったわ。彼のせいでクラスの雰囲気がおかしくなってしまったんだから。」

ジャスミンは憤慨しながら荷物を次々と出している。

「ヒルダ、いい。今日オリエンテーリングの下見に行くけど・・ほんの少しでも無理そうだと思ったら、絶対に先生に話して参加を辞退させて貰った方がいいわよ?」

マドレーヌは真剣な顔でヒルダの両肩に手を置くと言った。

「え、ええ・・・そうね。そうさせて貰うわ。」

ヒルダは返事をしたが、心の中は不安で一杯だった。マイクが自分に異常な執着心を持っている事に薄々気が付いていたからだ。

(仮に私が辞退すると言ったら・・・マイクはどんな顔をするかしら・・。)

ヒルダは不安な気持ちを押し殺しながら荷物の整理を続けた―。



 それから約1時間後―。

生徒たちは教師の指示に従い、宿泊施設の前に集合していた。

「よし。全員揃ったな。それではコースの下見に行くぞ。クラスごとに固まって行くんだ。各クラスの委員長はしっかり誘導するように。」

学年主任の男性教師の言葉にそれぞれのクラス委員長があちこちで声を張り上げて、クラスメイト達を集合させていた。

「みんなーっ!早く集まってくれっ!他のクラスに後れを取るわけにはいかないからなっ!」

マイクがクラスメイト達を集めているが、今ではすっかり信用を無くしている為にクラス全体のまとまりが悪い。特にマイクに名指しされて批判された生徒たちはあからさまにマイクに聞こえるように文句を言っている。

「何だよ、あいつめ・・・。」

「私、あんな人の言う事聞きたくないわ・・。」

「マイクの説明なんか必要無いだろう。」

それを聞いたマイクは眉間に皺を寄せると言った。

「君達っ!今何て言ったか聞こえたぞ?!オリエンテーリングにちゃんと参加しないと成績に響く事を知らないのかい?!クラス委員長が君達を評価して先生に報告するんだからな?この評価は前期の成績に大きく係わって来るって言う事を念頭に置いて行動する事だね。」

それを聞いたクラスメイト達はどよめいた。しかし、今や主導権はマイクに移動してしまっている。彼らは反発心を持ちながらもマイクに従うしか無かった。

「何よ・・・あれではまるで脅迫だわ。」

マドレーヌが悔しそうに下唇を噛む。

(困ったわ・・・。就職するのだって学校の成績が重要になってくるのに・・やっぱり例え足場が悪い場所があってもオリエンテーリングを辞退する事は難しそうね・・。)

ヒルダもオリエンテーリングを辞退する事を諦めるしかなかった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...