上 下
181 / 566

第7章 6 オリエンテーリング ③

しおりを挟む
「マイク、この際だからはっきり言わせて貰うわ。私はマイクとヒルダを2人きりにさせたくないの。私には関係ない話かもしれないけど同席させて貰うわよ。いいわよね、ヒルダ。」

マドレーヌはマイクに言った。

「だけど、マドレーヌ。それは・・・。」

マイクが言いかけるとヒルダが口を開いた。

「ええ。私も・・マドレーヌがいてくれないと話を聞きたくないわ。」

ヒルダはマイクと視線を合わせないように言う。マイクは溜息をつくと地図と地図記号を見せながら言った。

「分ったよ・・・ヒルダがそこまで言うなら仕方が無いね。明日は本来ならスタート地点から10カ所のポイントを回るけど、僕たちは半分の5カ所のポイントを回るようにさせてもらったんだよ。ポイントには先生たちもいるから、どうしても辛くなったらヒルダはリタイヤしても構わないよ。勿論、僕たちが通過するポイントは平坦な道ばかりだから何も心配しなくていいし、ヒルダの荷物は僕が全部持ってあげるからね?」

マイクは出来るだけ優しい声で説明するが、ヒルダの表情はどんどん曇っていく。

(この地図・・・よく見ると、木も沢山生えている場所を通るみたい・・・幾ら平坦でも足場が悪そうだわ・・溝や穴も空いている場所があるし・・。こんな場所をマイクと2人きりで回らないといけないなんて・・。)

実はヒルダはオリエンテーリングの競技について、事前にどのようなものが自分自身で調べていたのである。地図の地形の見方や記号・・なのでマイクが見せた地図を見ただけで、何となく頭の中でどのような場所なのかヒルダには想像する事が出来たのである。

マイクは熱弁してヒルダに説明をしていたので、ヒルダの表情の変化に気付いてはいなかった。しかし、マドレーヌはヒルダの様子がおかしいことに気が付いた。

「大丈夫、ヒルダ。何だか顔色が悪いわよ。」

マドレーヌはヒルダに声を掛けた。

「え、ええ・・・少し船に酔ったのかもしれないわ。」

ヒルダは頭を押さえながら言う。

「え?大丈夫かい?ヒルダ。横になって休んだほうがいいよ。僕が付き添いしてあげるから。」

しかし、マドレーヌはピシャリと言った。

「マイク、ヒルダは女の子なのよ?男の人がむやみに付き添うべきじゃないわ。私がヒルダを見てるから、貴方はもう行って頂戴。ヒルダは私が見ているから。」

「わ・・わかったよ・・マドレーヌ。君の言う通りにするよ。・・またねヒルダ。」

しかし、ヒルダは返事をせずに頷くだけだった。マイクは溜息をつくと、客室を出て行った。

マドレーヌはマイクが出ていくのを見届けるとヒルダに声を掛けた。

「ヒルダ、本当に大丈夫?すごく具合が悪そうに見えるけど・・・。」

「ええ・・マイクが見せてくれたオリエンテーリングの地図を見ていたら気分が悪くなってしまって・・・・。出来れば参加したくないけどマイクが先生方に行って特別コースを作ってもらったなら・・参加を辞退したいなんて言えないわよね・・。」

「ヒルダ・・・。」

マドレーヌはヒルダを心配そうに見つめるのだった。



一方、客室を出たマイクは甲板の上で1人で海を眺めていた。

(ヒルダ・・・。明らかに僕を避けている・・。だけど、明日はそうはいかないよ。オリエンテーリングで僕がどれだけ頼りになる男なのか・・ヒルダに見せつけてやるんだ。そうすればきっとヒルダの僕を見る目も変わるはずさ。・・絶対大丈夫。僕には飛び切りの秘策があるんだから・・・。)

そしてマイクは笑みを浮かべた―。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...